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情勢報道集約のガイドライン(第50回衆院選改定版)

 第50回衆院選(2024年)の情勢報道集約をおこなう際に用いるルールを明らかにしておきます。

 情勢報道集約はこちらです。


情勢報道とは

 選挙が近づくと、新聞などで次のような情勢報道を見ることがあります。

 任期満了に伴う市長選は21日の投開票まであと2日となり、終盤戦に入った。いずれも無所属で、再選を目指す現職浅野正富(あさのまさとみ)氏(67)が知名度を生かして先行、元市議会議長の新人小川亘(おがわわたる)氏(56)が市議27人のうち20人から支援を受けて懸命に追う展開。無党派層が多い市中心部での支持拡大が焦点となっている。

2024年7月19日 下野新聞

 これは2024年の小山市長選について下野新聞が掲載した記事です。各候補に何パーセントの支持があるのかといった記述は見られないものの、現職の浅野氏が「先行」し、新人の小川氏が「懸命に追う」ことが読み取れます。

 このように、今の日本で選挙情勢を報じる際は、調査から得た各候補者の支持率をそのまま表に出すことは避け、特定の表現で代用することが一般になっています。これは公選法の第百三十八条の三(人気投票の公表の禁止)をめぐるせめぎ合いのなかで維持されてきた厳格な慣例です。

 それでは、情勢報道にあらわれる表現はどのように解釈できるのでしょうか。一例として、第48回衆院選(2017年)で時事通信が行った情勢報道を検討してみました。

表1. 表現ごとのポイント差と当落

 この図では、一つ一つの点が各選挙区の候補者に対応します。表現ごとに分類した候補者が何ポイント差で当選または落選したかを縦軸で表現し、その表現がされた全候補者の平均を横軸としました。

 つまりこの図では当選が有力な表現が右から順に並んでいて、それぞれの表現ごとに、上下の広がりがばらつきの幅を表します。縦軸の数値が正の領域に入っているのが当選した候補者、負の領域に入っているのが落選した候補者です。

 ここで注目なのは、「A候補とB候補が接戦」などと互角な表現が行われた場合でも、名前が先に書かれている候補の方が平均の得票率が4ポイントほど高く、当選したケースも多かったことです。つまり情勢報道は、一般に接戦であっても名前順に序列があり、先に書かれている候補の方が形勢が良いことがうかがえます。(ただし優劣に明記がある場合はそれに従います。例:「B候補がA候補を追う」はA候補の形勢が良いことが明記されています)

 こうした検討を各社について行うことで、次に示す「情勢表現の格付け」をつくりました。劣勢な側が青色で、優勢な側が黄色から赤の配色となっています。またそれぞれのグループにはまとめて階級をつけています。

表2. 情勢表現の格付け

 第49回衆院選(2021年)当時のガイドラインから、以下の点を変更しています。

「寄せ付けない」「大幅にリード」「圧倒的なリード」「死角なし」を階級8で新設。「幅広く浸透」「安全圏」「引き離し優位」「幅広い支持」を階級7で新設。「水をあけ優位」を階級8から7に変更。「危なげない」を階級6で新設。「放す」を階級5で新設。「維持が視野」を階級4で新設。「抜け出しつつ」「先行しつつ」「優位になりつつ」「抜け出す勢い」を階級3で新設。「抜け出す勢い」を階級2から3に変更。「当選圏内」「小差で先行」を階級2で新設。「詰め寄る」「割って入ろうと」「ぴたりと追走」を階級-3で新設。「迫る」「食らいつく」「当選圏を目指す」を階級-4で新設。「追い上げに全力」「追い上げへ懸命」「追い上げを狙う」「追い上げに躍起」「追い上げを期す」を階級-5で新設。「巻き返しを図る」「巻き返しに懸命」「支持拡大を図る」「支持拡大が課題」「てこ入れに躍起」「やや不利」を階級-6で新設。「独自性を訴え」「党勢拡大を図る」「党勢拡大を目指す」を階級-7で新設。

 基本的に記述を細かくしただけで、頻出する表現の階級や配色は前回と同じです。込み入った表現は数回しか出てきません。


情勢報道集約とは

 情勢報道集約は、各社の情勢報道を一覧にしたものです。下の例は2024年の静岡県知事選挙の際に行ったものです。

表3. 情勢報道集約の例

 情勢報道集約では、まず第一に、先に示した格付け(表2)をもとにしてそれぞれの候補者に情勢表現を割り当てていきます。

 しかし、情勢表現が複数存在する場合や、特定の候補の表現が欠落する場合があるので、それに対処するルールを定めておく必要があります。


情勢表現の判定

 新聞などの紙面の中には、主に3種類の情勢表現の使われ方が存在します。一つ目はタイトル表現で、これは新聞の見出しや小見出し、Webの記事のタイトルにある表現です。二つ目は本文中の主表現で、有権者層を限定しない情勢表現です。三つめは本文中の限定表現で、特定の有権者層に限定した情勢表現です。

 例えば以下の例を考えてみましょう。

タイトル:「〇〇市長選はA候補が先行 ーー 本社情勢調査」

本文:「〇〇市長選はA候補がB候補にやや先行する。A候補は×党の支持層の8割を固め、無党派層でも優位に立つ」

 この場合、Aについては太字で表記した3つの表現がされています。タイトル表現が階級5の先行、主表現が階級3のやや先行、限定表現が階級6の優位です。

 情勢報道集約では限定表現は基本的に除外します。特定の有権者層で優位とされていても、それが全体の情勢をあらわすわけではないためです。タイトル表現と主表現が異なる場合は、主表現を優先します。これは、タイトルよりも本文の方が分量が多いため、形勢を詳しく記述することが可能であるからです。この例の場合は、タイトルにある「先行」の程度を、本文が「やや先行」と詳しく説明しているものと考えます。したがってこの場合、Aはやや先行と評価されることになります。

 なお、主表現が存在しない場合は、タイトル表現をもって代用します。その場合は小括弧で表現を囲んで示します。例:(先行)

 記述に余裕があるときは、主表現とタイトル表現を併記して「やや先行(先行)」などと書くことがあります。この場合の階級や配色は主表現のものとして扱います。


対比決定

 「当落線を挟む一方の候補の情勢表現が書かれていない時、空欄のまま、当落線を挟む他方に(-1)をかけた階級をもって代用する」というものです。

 先に挙げた例

本文:「〇〇市長選はA候補がB候補にやや先行する」

 では、Bに該当する情勢表現がありません。この場合、相手候補であるAが階級3の「やや先行」なので、Bはそのぶん不利にあると考えて、階級-3の空欄表示として扱います。

 次のような例はどうでしょうか。

本文:「〇〇県知事選はB候補がA候補を追う

 これは、先に名前が出ているのはBですが、対応する表現が「追う」なので、Aが先頭に立っています。この場合、Aが階級5の空欄表示で、Bが階級-5の「追う」となります。


序列降格

「文を整理したうえで(※)、先の候補より後の候補の階級が高くなる場合、後の候補の階級を先の候補に一致させる」というものです。

※「〇〇市長選はB候補がA候補を追う」は「〇〇市長選はA候補をB候補が追う」などとする。

本文:「A候補が安定、B候補は厳しい、C候補が続く

 この場合、Aは「安定」で階級7、Bは「厳しい」で階級-7、Cは「続く」で階級-5ですが、CはBの後なので、序列降格により、Cの「追う」は階級-7と定めます。「厳しい」候補に「続く」のですから、-7より良くなることはないという扱いです。


該当する表現がない場合

 該当する表現がなく、対比決定もできない場合が存在します。たとえば以下の場合、Cの階級が定まりません。

本文:「A候補とB候補が接戦、C候補は◇◇党支持層の7割を固める」

 この場合は〈該当表現なし〉と記述します。〈該当表現なし〉の配色は灰色(R,G,B)=(232,232,232)とし、階級はつきません。階級の平均は、それを除いた他社の調査によって決められます。


定数に基づく操作

 これは衆院選ではあまり問題にならないことですが、参院選には複数人が当選する選挙区があります。情勢報道では原則として形勢の良い候補から順に並んでいるため、先頭から候補者を数えていって定数になったところまでが当選圏内です。

 2人が当選する参院の静岡県選挙区で、次のような報道がなされたとします。

本文:「A候補が優位、B候補とC候補が競る、D候補が追う」

 Aは「優位」なので階級6、BとCは「競る」なので階級±1、Dは「追う」なので階級-5となります。ここで、2人が当選する選挙区であったため、当落線がBとCの間にありますから、先順のBを階級1、後順のCを階級-1と定めます。


扱う情勢報道

 50回衆院選の情勢報道集約では、毎日新聞(序盤)、朝日新聞(中盤)、時事通信(中盤)、読売新聞(序盤・終盤)、日経新聞(序盤・終盤)、産経新聞(終盤)、共同通信(終盤)が対象です。新聞は、小選挙区の情勢として紙面にまとめて掲載されたものを用います。


注意点

 表はそれぞれの選挙区について、階級の平均値が大きい(=形勢が良い)候補が上から順に並べられることになります。

 情勢報道集約の目的は当落の予測ではなく、情勢報道の確認と検証であることに留意してください。


2024.10.12 三春充希