何人に一人が自民党に投票しているのか
今年行われた参院選で自民党は改選過半数を得て勝利しましたが、他方で有権者全体のうち自民党に入れたのは5人に1人であるという現実があります(ここで有権者全体とは、投票者のみではなく棄権者も含めた全体を指しています)。このことを具体化するために、全国の市区町村について「何人に一人が自民党に入れたか」を求めて地図を作りました。多くの人に見ていただきたいので全体公開します。
まずは比例代表です。
赤で塗られている3人に1人以上の地域は、ほとんどが伝統的に自民の強い地方の町村部でした。他方で都市部の多くでは6人に1人未満となっています。
そして次に示すのが選挙区です。
選挙区では、全ての1人区、2人区と、3人区の千葉と北海道で公明が自民に協力しているため、比例代表よりも割合は高くなっています。対して大都市では比例代表よりも低くなっています。全国集計では5人に1人。自民に入れた人の割合は文字通りこの程度であるわけです。
得票率の二種類
ここで、いちど「得票率」について確認をしましょう。選挙の際にしばしば耳にする得票率ですが、実はこれには二種類があります。投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合が「相対得票率」で、棄権者も含めた有権者全体のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。特定の勢力とは、自民や立憲などの各政党とすることもできるし、自民と公明の合計を与党とみなしたり、一人一人の候補者についていうこともできます。
一般にマスコミなどで断りなく「得票率」というとき、それは例外なく相対得票率を指しています。しかし選挙の分析ではしばしば絶対得票率が必要となります。相対得票率と絶対得票率の違いを、有権者数が100万人の選挙区を例にして図解してみました(下図3)。
ある回(仮に前回)の選挙で41万人が投票に行き、このうち40万人が有効票を投じたとしましょう。1万人は白紙投票などで無効でした。投票率の計算は無効票も含めて行いますが、相対得票率を計算する際に無効票は含めません。したがってこの選挙でA党が16万票を得たならば、相対得票率は40%、絶対得票率は16%となるわけです。
次に、別の回(仮に今回)では61万人が投票したとします(下図4)。有効投票数は60万票で、A党は18万票を得ました。この場合、A党の相対得票率は30%、絶対得票率は18%となります。
ここで前回と今回を比較すると、A党の相対得票率は40%から30%に落ちていますが、絶対得票率は16%から18%に伸びています。果たしてA党の支持は伸びたと考えるべきでしょうか。減ったと考えるべきでしょうか。
A党の得票数を見ると、これは16万票から18万票に伸びています。得票数を伸ばしたのにもかかわらず相対得票率が落ちたのは、有効投票数が増加したためです(無効票が少ないのであれば、「投票率が上がったから」とほとんど同じことにあたります)。つまり前回から今回の変化は「A党の支持が減った」のではなく、「A党も伸びたが、他の政党の方がより大きく支持を伸ばした」ととらえるのが適切です。
このように、相対得票率は一度の選挙の形勢を知ることには有用であるものの、有効投票数の大きな変化がある場合(≒投票率の大きな変化がある場合)、前回と今回といった時系列の比較を適切に行うことは難しくなります。そうした際には絶対得票率が必要になるわけです。
絶対得票率を地図化する
しかしながら絶対得票率の細かな検討はこれまで十分になされてきませんでした。そのあたりの事情は、以下の記事の説明が的確です。つまり相対得票率は総務省が公表しているデータから求められるものの、絶対得票率は全国の選管をあたらなければならないため制作コストが高いということです。
しかしこのたび、全国の選管のデータを取得して、全政党と政治団体について絶対得票率を求めました。それというのも、今年の参院選ではかつて成立していた野党間の選挙協力が崩れ、地域ごとに投票率の複雑な増減がおきたため、今後、過去の選挙との比較を行う際に絶対得票率が必須になると考えたからです。
絶対得票率は「棄権者も含めた有権者全体のうち、特定の勢力が獲得した割合」ですから、これがわかれば副産物として何人に一人がその勢力に投票したのかを知ることができます。そのようにして作成したのが、冒頭で示した図1と図2でした。それらの図のもととなった絶対得票率の分布もあわせて示しましょう。図5が比例代表で、図6が選挙区です。
全国で集計した自民党の絶対得票率は、比例代表が17.38%、選挙区が19.62%でした。この19.62%をもって、自民党に投票した人は全国で5人に1人と言えることになります。
昔、自民党が本当に強かった時代は、この数字は30%を上回っていました。けれども今はそうではありません。5人に1人の力によって勝つような選挙がされているわけです。
かつての安倍政権が強かったのは、政権にとって支持されるべき人に支持されて、嫌われるべき人に嫌われたからでした。嫌われることを恐れた結果、認知すらされずに敗北していくのが、提案型野党のような路線だということもできるかもしれません。
与党も野党も、ものすごく狭い選挙をやっています。狭い領域しか見ない選挙をやっています。
目を向けるべき層はどこに
「自民党に投票している人の割合は決して多くない。投票率が上がれば状況は変わるだろう」というのは、ある面では正しく、ある面では何も言っていないような主張だといえます。何も言っていないというのは、どうすれば投票率が上がるのかということに何も言及がないからです。
けれども目を向けるべき層は具体的にあります。投票に行かず、労働組合などにも組織されず、明かりを見出すことができずに日々を生きることに必死になっている層がおり、それは刻々と増えています。社会は動かない、自分もまた変わることがない、と諦めてしまった層。物価上昇や増税策、防衛予算の肥大化で最も負荷を受ける人たちです。
どの政党もまだ取り込めていないその膨大な「政治の空白域」をどこが取り込むかということが情勢を決する時が来るでしょう。どこもそれを取り込めないのなら日本の政治が自ら変わることもないでしょう。そうした問題意識が今の政治家にはあまりに欠けているのではないでしょうか。
自民党との対立を避けたり維新にすり寄ろうという立憲の一部の政治家の動きや、自民党に迎合しようとする国民民主党の動きは、限られたパイを奪い合っているだけで、向き合うべき層と向き合っているようにはとても思えません。
こうした現状に展望を与える必要があります。政治を転換できるのか、30年衰退してきた日本が再起できるかどうかという鍵もまた、その点にあるはずです。
2022.11.20 三春充希