支持率の本当のみかた
世論調査でわかる支持率とは、実のところ、人々の漠然とした気分が作り出すさざ波に過ぎないのかもしれません。そのさざ波に特別な意味があるならば、それはやがて来る選挙で既存の議員を落選させて、解雇する力を秘めている点においてでしょう。既存の議員は先の選挙で議席を勝ち得た人たちです。ですから今の支持率を読むときに先の選挙との落差を見ることは、単なる「高い」「低い」という印象をこえた実力評価となるわけです。
次の図を見て下さい。この図の曲線は、原則として過去11年あまりで実施された全ての世論調査をもとにして描いた、現状入手しうる最も精密な内閣支持率のトレンドです。図には「前回衆院選水準」として、第49回衆院選(2021年)の投票日当日のラインを示しました。現在の水準は当時より26.5ポイント低くなっています。(なお「ポイント」とは、%で表された値の差を表す単位です。たとえば2%から5%になった場合は、「3%の増加」ではなく「3ポイントの増加」と記述します)
図にはまた、直近の増減を赤い丸で囲んで示しました。世論調査が発表されると、このところ支持率が上がっているのか、下がっているのかということが注目の的になりがちです。そうしてある人は喜び、ある人は落胆し、評論家はもっともらしく論じもするのですが、それらはこの赤い丸の中のできごとです。そうしたわずかな変化が直近でどのように起きたとしても、その何十倍という大きさの下落がすでにあり、それが次期衆院選では与党に対する負荷として働くというのが本当のところであるわけです。
さて、ここまでは前回衆院選の投票日当日と現在の水準を比較してきましたが、衆院選は解散、公示、投票という流れで行われ、この間に世論が大きく変わることが少なくありません。内閣支持率はそれほどではないものの、後に見ていく政党支持率では、選挙に向けた新党の結成や選挙運動などにより変化が激しくなりがちです。そこで以後の図には「解散時水準」も示すことにしましょう。「現在の水準」は曲線の右端と同じなので削除しておきます。
それから少し説明を加えましょう。ここまで触れずにきましたが、グラフを作成するうえで用いた調査は以下の通りです。
各社の世論調査は、手法や質問のかけ方によって、高めの支持率が出やすかったり低めの支持率が出やすかったりする固有の偏りをもっています。そこで、この記事のグラフではそうした偏りを統計的に検出して補正を行い、その後に平均をとることで精度と解像度を高めました。太い曲線がその平均となっています。主要な出来事も記入しておきました。
図の左端からはじまる安倍内閣の支持率を見ると、これは特定秘密保護法や安保法などの強行採決、森友・加計や公文書改竄などの政権が絡む問題によって低下してきたことがうかがえます。また2020年以降では、新型コロナの感染拡大にともなって緊急事態宣言が出された時期にも内閣支持率の低下がおこりました。
菅内閣を経て岸田内閣になると、第26回参院選(2022年)以降、銃撃事件に端を発する旧統一協会問題や国葬問題が支持率を引き下げます。これが持ち直したのが広島サミットの行われた2023年5月のピークなので、このとき解散を逃したのは岸田内閣には打撃だったでしょう。
現在の内閣支持率は、解散時水準と比べて24.2ポイント低く、前回衆院選水準と比べると26.5ポイント低い状況となっています。
内閣の不支持率
それでは不支持率の方はどうでしょうか。基本的に、内閣支持率と不支持率は反対の動きを示すので片方をおさえればよいですが、若干の異なる点も見られなくはありません。
たとえば現在の不支持率は、解散時水準と比べて33.5ポイント高く、前回衆院選水準と比べても32.4ポイント高くなっています。これはいずれも内閣支持率と比べて大きな落差です。内閣支持層が不支持層へと変わっていく一方で、岸田内閣が発足した当初に支持とも不支持とも態度を決めかねていた人たちが、次第に不支持層へと固まっていったのでしょう。一般に、不支持率の動きは支持率よりも激しくなりがちです。
前回衆院選水準や解散時水準との間にこれだけの落差があることは、たとえ現時点で野党の支持率が大きく伸びていなくても、潜在的に大量の政権批判層が存在することを意味します。野党には、それを政治に対する失望ではなく、希望に変えていけるかどうかが問われているわけです。
無党派層の占める割合
次に無党派層(支持政党を持たない人たち)の推移ですが、これもたいへん重要です。なお、ここからの図は内閣支持率や不支持率と違い、縦軸の上限を65%として描いていることに留意してください。
曲線で示した無党派層の平均には、ところどころに深い溝が刻まれていることが目を引きます。実はこれは衆院選と参院選に対応するものです。こうした大規模な選挙のたびに、無党派層は30%前後まで降下してきました。第49回衆院選(2021年)の際も「前回衆院選水準」は「解散時水準」の下にあり、解散から投票日にかけて無党派層の急激な減少が起きていたことが明らかです。
現在の無党派層の占める比率は前回衆院選水準よりも16.8ポイント高くなっています。衆院の解散があれば、これがまた30%前後をめざして降下していくと考えられます。
無党派層は政党を支持しない層なので、それが減るということは、そのぶん政党支持層が増加することにほかなりません。つまり衆院選や参院選の際には政党支持率が鋭く上がる現象があるわけです。これが政党支持率の「選挙ブースト」です。
選挙ブーストとはどのような現象なのでしょうか。それは、普段は無党派層である人たちが、投票日が近付くにつれて改めて政治を考えて、各党の支持者へと分解していくことのあらわれです。刻一刻とそのようなことが起こるのが選挙期間であるということを、政治家も支持者も自覚しながら発信に取り組むことは重要となるはずです。
ここからは、現存する全ての政党の支持率を同様に解説していきます。次期衆院選に向けた情勢認識としてクリアなものをお見せできると思います。全文公開の形でなくて申し訳ありませんが、これを作るのはかなり大変なので、読んでいただけたらとても嬉しいです。