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国葬をめぐって突き付けられたこの世論をあなたがたはどうするのか

 これまでに発表された全ての全国世論調査から平均を出した結果、内閣支持率の下落と連動する形で、国葬の賛否が急速に「反対」へ傾いていったことがわかりました。

 一通り9月の調査が出揃ったことですし、ここで最近の世論を概観してみましょう。

 次に示す図1は内閣支持率と不支持率の平均です。今年7月の参院選の後、内閣支持率は急速な下落を始めました。支持率と不支持率は9月4日に交差して、現在の平均は支持率38.4%、不支持率46.2%となっています。

図1.内閣支持率・不支持率

 内閣支持率30%は倒閣危険水域(または単に危険水域)、20%は退陣水域と呼ばれます。現在、内閣支持率は「毎日新聞・社会調査研究センター(毎日・SSRC)」と「選挙ドットコム・JX通信」という2つの世論調査で誤差範囲ながら30%を切っており、危険水域に入ったという報道も見られるようになりました。しかしながら、この2つの世論調査は調査方法や選択肢などの特性から内閣支持率が低めに出る傾向があるため、各社を平均した結果はいまだ危険水域まで多少の余裕を残した状態だとみられます。

 内閣支持率の下落がどれほどの水準で止まるのかは、自民党支持層の動向が鍵となっています。下の図2には、内閣支持率と自民党の支持率を重ねて描きました。今は内閣支持率の平均が38.4%、自民党の支持率の平均が33.9%と、両者が近接しています。

図2.内閣支持率と自民党支持率

 内閣支持率が高いというのは、内閣が野党支持層や無党派層からも多くの支持を受けている状態にほかなりません。「急落」はこうした層による支持が一気に離れる現象です。

 つまり、野党支持層や無党派層から内閣が嫌われたときに急落が起きるのですが、それが終わると「残った自民支持層から内閣が嫌われるか」が問題となるわけです。

 2012年に民主党から政権を奪還して以降は自民党の支持率が一貫して高いこともあり、自民党の支持率と内閣支持率が接触する30%付近で下げ止まるのが今までの安倍政権や菅政権の傾向でした。今回もそうなる可能性は低くないかもしれません。

 しかしながら、今回は安倍政権や菅政権とは異なったことも起きています。特に臨時国会が開かれていない中で内閣支持率がこれだけ急落するというのは、近年ではやや異例のことだといえるでしょう。また、旧統一協会問題は、自民党支持層の中にも対応が不十分だという声が多数となっています。

 国葬問題をめぐる世論も重要です。これに関してはとても興味深い推移がみられました。下の表1は国葬を実施する方針が表明されてまもなく行われた7月の世論調査ですが、国葬の賛否を聞いた4社のうち肯定的な評価が多かったのが2社、否定的な評価が多かったのが2社と、賛否が拮抗している状況がうかがえます。(下ほど新しい調査としているため、これは当時からすでに刻々と反対が伸びていたとも見えるのですが、世論調査の結果は質問文や選択肢によってかわりうるため、これだけでは評価が困難です)

表1. 7月の世論調査による国葬の賛否

 世論が反対に傾いていったのは8月です。事件から時間が経つにつれて賛成は減り、この月の調査では、「評価する」が多数となったのは読売新聞のみとなりました。

表2. 8月の世論調査による国葬の賛否

 9月になると反対が大幅に上回るようになり、賛成の2倍となる調査も出てきました。国葬の費用が明らかとなったことや、イギリスで行われた国葬と対比されたこと、衆院法制局が国会を通すべきとの見解を示したことが影響したのでしょう。

表3. 9月の世論調査による国葬の賛否

 また、地方議会では次々と国葬問題が取り上げられました。9月6日に神奈川県葉山町で「安倍元首相の国葬に反対する意見書」が可決すると、小金井市、国立市、鎌倉市、日南町、南部町、南箕輪村、大鹿村、長和町、坂城町、箕輪町、大月町、九度山町、田上町、奥州市と、立て続けに地方議会で同様の意見書が可決します。特に鎌倉や国立は一目で反対に理があるとわかる見事な意見書で、これらが大きく報じられたことも世論を反対に傾けたといえそうです。(鎌倉意見書国立意見書

 以上、これまでに発表された全ての全国世論調査をもとにして、国葬の賛否の平均を求めました。その結果、国論二分といえたのは7月中の一時期だけで、その後、世論は一方的に反対へと傾いていったことが明らかになりました。

図3.安倍元首相の国葬の賛否

 この63日間で「賛成・評価する」は15.4ポイント減り、「反対・評価しない」は13.3ポイント増えています。「ポイント」というとイメージしにくい方もいるかもしれませんが、全国の有権者を対象としたこのような世論調査の場合、具体的には1ポイントが100万人にあたります。

 それでは次に、内閣支持率と国葬に賛成・評価する割合を重ねて見てみましょう(不支持率と国葬に反対・評価しない割合は、表示していません)。

図4.内閣支持率と、国葬に賛成・評価する割合

 両者は明らかに連動して落ちていることがわかります。国葬に賛成する割合は常に内閣支持率よりも低く、国葬について関心が高まることそのものが、内閣支持率を引き下げるものであったことがうかがえます。

 普通、「国が決めた事なら仕方ない」というように世論はしぼんでいくことも多いものですが、今回は逆で、反対の世論が盛り上がりました。ここから何を学べるのかは大きいのではないでしょうか。

 政党支持率を見ると、内閣支持率が急落し国葬反対の世論が高まっていく中で、野党は支持率を思うように上げられていません。

図5.政党支持率

 もちろん野党の支持率が選挙の時にこそ伸びるものであることはすでに繰り返し指摘してきました。臨時国会すら開かれていない現在の状況で、支持が伸び悩むのは当然といえます。

 しかしそのことは認めつつも、普段の支持率が低いから選挙時に淡い期待を抱き、選挙に負けてまた支持率が低迷するという連鎖はどこかで断ち切らなければなりません。普段のどこかで断ち切るか、選挙時において断ち切るかのどちらかが必要です。

 少し立憲民主党のことを書きましょう。第25回参院選(2019年)から第26回参院選(2022年)にかけて、立憲民主党は全国でおよそ115万票を減らしました。けれどももっと深刻なのは、それが投票率が伸びた多くの地域で票を減らした結果であることです。これが意味するのは、投票率を伸ばすような選挙ができなくなったということだからです。

 下の図は、第25回参院選(2019年)から第26回参院選(2022年)にかけての投票率の変化です。

図6.投票率の増減

 そして次に示すのは立憲民主党の絶対得票率の増減です。

図7.立憲民主党 絶対得票率の増減

 ここで、「絶対得票率」という言葉に親しみがない方もいるかもしれませんが、また立憲民主党について詳細に検討するときに細かく述べる予定なので、ここではあまり気にされなくて構いません。地域的な増減の傾向を見ていただければ十分です。

 (今年の参院選では、これまでの野党共闘の構図が変化して、候補者の擁立状況が複雑になりました。そのことによって投票率もまた複雑に動きました。いわゆる「得票率(相対得票率)」は、得た票の数が変わらなくても投票率の変化に応じて変わってしまうため、そうした選挙の分析には適しません。このため、棄権者も含めた全有権者のなかでその党派や候補者が獲得した票の割合である「絶対得票率」が必要となったのです)

 2枚の図からは、投票率の伸びた多くの地域で、立憲民主党の絶対得票率が減っていることがうかがえます。特にそれが明瞭なのは首都圏です。

 2017年に立憲民主党が誕生した時、ぼくは「都市の立憲、地方の希望」(※希望とは、かつて存在した希望の党)と書きましたが、当時はそれほど都市部の立憲は輝いていました。都市に住む無党派層に支持されていたわけです。しかし今、立憲はその支持を失ってしまいました。このことは選挙時の支持率からも読み取れます。

図8.立憲民主党の支持率と国政選挙

 結党直後の第48回衆院選(2017年)、第25回参院選(2019年)、第49回衆院選(2021年)では公示から投開票に前後して支持率の急増(選挙ブースト)が起きています。しかし、赤で示した第26回参院選(2022年)では、直前の陥没を補う程度で、7%程度の平時の支持率まで戻したにすぎません。

 それが首都圏の無党派層を失ったということであり、投票率を伸ばすような選挙ができなかったということであり、泉氏が掲げた「提案型野党」のもたらしたものだったのです。立憲民主党も総括で次のように述べています。

「『提案型野党』を標榜したことから、国会論戦において『批判か提案か』の二者択一に自らを縛ることとなり、意図に反して立憲民主党が『何をやりたい政党か分からない』という印象を有権者に与えることになった」

出典:立憲民主党「第26回参議院議員通常選挙総括」

 選挙の半年前に気が付いてほしかった。

 この参院選の負け方は取り返しのつかないような負け方で、2028年まで、ねじれ国会すらできないという情勢になってしまいました。その代償を払って、いったい何を学ぶのか。前回はこう書きました。

「世論がどうであって、それにどう迎合するかではなくて、いかに世論をあるべき方向に引っ張っていくかという視点を持ってください。真っ向から闘いをやれば支持者も有権者もついてくるのです。それができなければ支持も勢いも失ってしまうのです。そのことを、立憲民主党は参院選の失敗とその総括を通じて学び取ったのではありませんか。

 支持者や有権者は、もっと信頼に値するものです。筋を通し、真っ向から力を結集して闘おうとすれば、あなたがたの呼びかけにこたえる人たちはいるのです。そしてその層は決して小さくはありません。内閣を支持しない人はいま急激に増えています。その人たちが何を求めているかということに敏感であるべきです。

 これから国葬が計画されている日にむけて、世論は盛り上がっていくでしょう。旧統一協会の問題も目まぐるしく動くでしょう。そのなかで立憲民主党をはじめとする野党各党は時代の波の中にいるのだということを自覚して、自らの歩む方向をどのようにするのかを定めなければなりません。その一挙手一投足により、世論は再び形成されるのです」

 国葬問題や旧統一協会問題は、提案型野党の失敗を挽回し、再び自らの立場を明確に示すという重要な局面を提示したということができます。しかしその機会がまったく活かされていません。少なくとも国葬をめぐる世論は興味深い、劇的な動きを示しました。この世論をあなたがたはどうするのか? それを目の前にしてどう国葬に向き合うのか。どう臨時国会を闘うのか。考えてください。

 世論の動きを横目でうかがいながら受動的に振る舞っていくのか。それとも世論に働きかけ、それを揺り動かそうとして振る舞うのか。2つの道があります。それは政治家だけでなく、政治に参加する全ての人に突きつけられる選択でもあるのです。

2022.09.25 三春充希