政党支持率と比例投票先5年分、重ねたグラフで検討します
「世論の動向」や各種SNSなどで比例投票先の平均を公開してきましたが、今までは扱えた期間が直近の1年ほどにとどまっており、前回衆院選の時点が含まれていませんでした。そこで今回、期間を5年あまりに拡張する作業を行いました。その結果を示します。
自民党
まずは自民党を例にして説明をしましょう。以下の図1は自民党の比例投票先の平均です。
各社の世論調査は方法などの違いによって、特定の政党について高めの数字が出やすかったり、低めの数字が出やすかったりする固有の傾向をもっています。ここではそうした傾向を打ち消すように補正したうえで平均を求めました。一つ一つの世論調査を補正した結果は以下のリストの点のとおりで、平均は曲線で示しました。
平均の曲線が途切れている箇所があることに注意してください。これは、選挙が近い雰囲気にならないと比例投票先は調査されないことが多いため、欠落する期間があるからです。実際に先に掲げた図1からは、参院選が終わると各社は一斉に調査から外したことがうかがえます。実はその期間も選挙ドットコム・JX通信の合同調査だけは比例投票先を聞いてきたのですが、1社の調査によって平均が決まるのは目的にそぐわないため、図1ではそうした時期を点線で接続しています。
他方で自民党の政党支持率を次の図2に示しました。こちらは調査のたびに必ず聞かれる項目なので連続した平均を得ることができます。
図1と図2を重ねあわせてみましょう。ここまで自民党には緑のカラーを用いてきましたが、そのまま重ねると見づらくなってしまうので、政党支持率はモノクロにしました。
自民党に関して得られた図3の結果は、政党支持率と比例投票先がおおむね重なるという平凡なものでしかないように見えます(※)。しかしそのことは果たして野党についても言えるのでしょうか?
無党派層と未定層
野党について見ていく前に、次のグラフを検討してみましょう。
これは無党派層の割合と、比例投票先の未定層を重ねて表示したものです。前者は政党支持率の質問で「支持政党なし」とした人たちの割合で、後者は比例投票先の質問で「未定」や「不明」などとした人たちの割合です。つまりいずれも政党を選ばなかった人たちですが、その割合には大きな差があることがわかりました。
そして、まさにこの大きな差こそ、比例投票先の質問の意義なのです。
開票速報で伝えられる出口調査に「無党派層の投票先」があるように、無党派層の中にも投票に行く人がいて、しばしば当落を左右することになります。しかし政党支持率の質問からは、そうした無党派層の動向を把握することができません。どこに入れるのかを直に聞く比例投票先は、この点に踏み込める質問です。
すでに図3で見たように、自民党の支持率と比例投票先に大きな違いは見られないのでした。他方で図4からは、比例投票先の未定層は、無党派層の割合を下回ることが明らかです。このことは、野党の支持率と比例投票先には違いがあることを意味しているわけです。
また次の点からも考えてみましょう。図4に示した無党派層の割合には、衆院選や参院選の時期に深い溝が刻まれていることがうかがえます。これは選挙運動や報道の影響をうけたり、自分の投票先を考えることを経て、無党派層の一部が政党を支持するように変化することのあらわれです。政党支持率には選挙ブースト(国政選挙の前後で急上昇する現象)がありますが、無党派層の溝はこれに対応するものだといえるでしょう。
けれども図4の比例投票先の未定層には、政党支持率にあるような選挙時の深い溝が見られません。もちろん第25回参院選(2019年)と第26回参院選(2022年)の後は途切れてしまうので、選挙に前後する正確な変化がわからない点には注意が必要です。しかし調査の揃っている第49回衆院選(2021年)でも、溝は起伏の小さなものとなっています。
すると、時と場合によるとはいえ、比例投票先には選挙ブーストのような現象が見られないか、あっても小さなものとなる傾向があることが期待されそうです。普段の政党支持率で選挙時の情勢を予測する際、選挙ブーストの推定が困難なことが問題となってきましたが、比例投票先を併用することで今後の改善が見られるかもしれません。
ここからは、現存するすべての政党について、政党支持率と比例投票先の推移を見ていきます。全文公開の形でなくて申し訳ありませんが、これを作るのはかなり大変なので、見ていただけたらとても嬉しいです。
みちしるべでは様々なデータの検討を通じて、今の社会はどのように見えるのか、何をすれば変わるのかといったことを模索していきます。今後も様々な発見を共有できるように取り組んでいくので、応援していただけたら幸いです。