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はじまりの、そのまえに
総裁選が始まって自民党が注目を集め、衆院選で野党は厳しいだろうと言われるようになりましたが、それには大きな間違いがあります。
以下に示すのは、総裁選の投票日にむけてカウントダウンするようにして描いた自民党の支持率です。すなわちここでは左端が総裁選の1年前にあたり、右端が総裁選の投票日に対応するものとなっています。菅義偉氏が選出された2020年の総裁選を水色の線、岸田文雄氏が選出された2021年の総裁選をオレンジの線、今回の総裁選を緑色の線でそれぞれ示しました。
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それぞれの線はNHK、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞・テレビ東京、時事通信、共同通信、産経新聞・FNN、ANN、JNN、選挙ドットコム・JX通信の世論調査の平均によります。
この図から明らかなように、自民党は今回の総裁選で支持率を上げられていません。それはむしろ総裁選の前に伸びていたことがうかがえます。
確かに今月になってからも支持率の上昇を示す世論調査は出ていますが、各社の世論調査が基本的に一カ月おきに行われるため、実施する時期によっては増減をとらえるのが遅れてしまうのです。ここで上の図は各社の調査を平均したものなので最も精密な増減となっています。
もちろんこれから新たな総裁が選出されれば、内閣支持率は50~60%前後からスタートするし、自民党の支持率もそれなりに上がるでしょう。けれども2021年の総裁選や、その直後に行われた前回衆院選当時との差を埋めるのは容易ではありません。ですから現状のところ自民党の議席は後退する情勢と考えるのが一般で、野党はなお、攻めの選挙ができる機会を得ているとみることができるでしょう。特に野党第一党の立憲民主党などは、与党と小選挙区の議席を争うポジションにいるため、相対的に議席を伸ばす可能性がありそうです。
しかしながら野党の闘う構えには不安が残ります。そこには自民党にスタンスを寄せることによって保守票を得るという思惑がところどころに見え隠れするからです。それが幻想であることは書いておかなければなりません。
衆院選の大半の議席は小選挙区で決められます。ここで小選挙区はそれぞれ1人しか当選しない制度なのですから、その選挙は常に引力(この候補が良い)と斥力(相手候補が嫌だ)の攻防となります。したがって、個々の選挙区の特殊な事例はあるとしても、自分をアピールして支持を受けるのは闘いの半分でしかなく、大局的には相手候補や相手の党を否定するという筋書きがなければ勝負にはなりません。
小選挙区で勝つというのは、それ自体が選挙の直接の結果として相手を否定することを意味します。何人もが当選する比例代表や参院選の複数人区とは違い、小選挙区は択一の生存競争です。ですから迎合的な姿勢を持つことはただちに矛盾となるわけです。その闘い方を党として誤れば、執行部にいるような有力な政治家はともかく、多くの接戦の候補が競り負けることを結果しかねません。
政権を奪還した第46回衆院選(2012年)で自民党が掲げたキャッチコピーを覚えているでしょうか。それは「日本を、取り戻す」というものでした。
現実にあるのは「自民党政権を取り戻す」なのに、それを「日本」と言い換える詐術によって、「日本人なら私たちに入れてください、彼らにいれるのは非国民です」と主張しているのです。そこには「民主党の政治家なんて日本にふさわしくありません」という邪悪なニュアンスが込められているのです。
そうしたコントラストを一言で描いて見せたのですから、この言葉を選んだのは小選挙区と政権交代選挙の本質を見抜いた名手だと言わざるを得ないでしょう。
自民党はそのように徹底的に民主党を攻撃して政権を奪い取ったのです。これを見ている当時の議員の方がいたら、みなさんはそうやって設定された選挙に負けたのです。自民党は決して迎合的に振る舞ったりはしません。
今回はほぼ以上です。保守的なポジションで勝った選挙もあるという指摘を受けるかもしれないので、そこにある暗黙の論理に触れて終わることにしましょう。
自民党に近い路線で勝てるとしたら、まずはそもそも自民党内部の話になりますが、それは自民党の人間が従来の自民党を否定した場合や、自民党が分裂したような場合が挙げられます。たとえば小泉氏の郵政解散などは前者のケースです。
そして野党が保守的な路線で勝つとしたら、それは自民党に関係する(かつて関係した)人間が外部に出て自民党を否定した場合に限られます。鳩山氏も小沢氏もはじめは自民党に所属していましたが、それが外部に出ることで、従来の自民党を否定したというストーリーが成り立ちます。その否定こそ小選挙区で必要なものとなるわけです。
元自民党の政治家が自民党を否定するというのと、自民党の外部にいる政治家が自民党にすり寄っていくというのでは、たとえ結果的な立ち位置が近かったとしても、そこに至るストーリーが異なります。自民党から遠ざかっていくならば話は通りますが、外部から自民党に寄せた場合は「自民党に近づくのなら、なぜあなたは小選挙区の野党候補としてここにいるのか?」というのに抗いきれません。
なにしろ自民党は、国会の多数に加えて財界・官僚・マスコミをおさえ、学問の世界や労働組合にも浸透を図っているわけです。高度経済成長からの70年近くの蓄積と利権を持っています。それらの点でかなわない以上、野党が自民に接近すれば「それなら自民党でかまわない」と思われて当然です。
そうである以上、外部の者が勝つのには、外部から自民党を否定するというシンプルなことをやるしかありません。原則として全ての小選挙区に与党の候補が立つ以上、生存競争としてそれと闘うことが求められるのです。
外部から保守寄りのスタンスを示しておこぼれの比例票をもらうことはあり得ても、小選挙区で大局的に勝つことは決してないでしょう。
はじまりの、そのまえに。闘う覚悟、できてますか?
2024.09.18 三春充希