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生チョコを作ってるんじゃない!これはチームを作りなんだよ。まずは中心メンバーをグリップするんだ。
これはただ「生チョコを作ったよ」というだけのお話です。
登場キャラクター
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何やねんチョヨて。
今回のプロジェクトは、特別に難しいわけじゃない。
ただ自分が先導するとなると、プレッシャーの度合いが違う。
はぁ。
自分から動き出さないと、先に進まないこともわかってる。
うん。
まず、連絡だけはしてみるか。
意外といい奴だって可能性もある。
「あ、そうそう、一番小さい鍋で待ち合わせで。」
え、すぐ行けるだと!?
おいおい、こちらの心の準備がまだなのに。
でも客を待たせるわけにもいかないし。
僕は冷え切った冷蔵庫から慌てて飛び出した。
よかった。先に小鍋に着いた。
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寝癖なのか、そういうスタイルなのかわからないけど。すごくオシャレな感じのやつだった。
「どもーーー。タイムでーす。
今日の冷蔵庫めっちゃ寒くないっすか?」
僕の知る限り、ハーブはだいたいフレンドリーに絡んでくる。
他人に染まりやすい僕は、近づかないようにしてるんだけど。
「あー。温ったかーい。
いやほんと呼んでもらえて良かったです。
冷蔵庫ってまじ寒いし乾燥するし。
あ、自分もっと熱くても大丈夫です。」
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ちゃんといい奴だったので、
僕はスムーズに今回のプロジェクトを話すことができた。
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温まるまでに時間がかかると水分が飛びすぎる。
一気に沸騰した僕は、
すぐに温度を落とし、呼吸を整えた。
疲れた。
このまま一眠りしたい。
誰かが優しくラップをかけてくれたような気がした。
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起きているのか夢を見てるのか。
そんな感覚の中、先輩の声が聞こえた気がした。
『水と油が混ざるんが乳化やと思ってるやろ?
ちゃうねん、これは壮大なチーム作りやねん。』
僕たち生クリームの仕事は料理からスイーツまで幅広い。
パン業界でも、バターを使わず生クリームを使うレシピがここ数年増えて、さらに忙しくなった。
本当はもっともっとメンバーはいるんだけど、
一般のスーパーマーケットには僕と先輩が並ぶことが多い。
47(ヨンナナ)先輩のホイップ具合はバシッと決まっていて、
濃厚なミルク感とコクがいつも憧れだ。
立てすぎると分離して扱いづらい、と言われることもあるけど
スイーツ界隈から昔からのファンも多い。
対して35(サンゴー)の僕はホイップにも時間がかかる。
泡立ててもすぐに離水してしまうし、ショートケーキには到底なれない。
そんな僕に47先輩はいつも優しい。
「おれなんて毎回ウェディングケーキに立候補してんのに、
真っ白がいいからあんたすぐ黄色み出てくるからあかんて、毎回言われんで。こっちは真っ白のコンパウンドと混ぜたらええやん言うてるねんで。
ほんま頭固いわ。次あかんかったらバターになるわ。え、ほんでまだまだ乳脂肪数 若いのに何を悩んでるん。ホイップなんかならんでええよ。料理人からしたら、香りつけながら煮詰めたいねんからそっちがいいに決まってるやん。俺なんて煮詰める余地ないで。」
適材適所かぁ。僕はすぐ周りが羨ましく見えるようだ。
確かに、食材の香りを取り込みながら煮詰まっても水分もある僕の部署は
ソースやクリームパスタの依頼がダントツで多いし、得意だ。
ぼくはこのスーパーマーケットに並んでいる間の
47先輩との会話が好きだ。
会話っていうか、僕が話す余地はないんだけど。
「ほんまおもろいよな。35と47て。間の選択肢ないやん。
この前38(サンパチ)に合ったら言うてたで。
ほんまは料理人は35が欲しくて、でもパティシエは42が使いたいねんて。2種類取ったらええやん思うけど、賞味期限切れたら勿体ないし使い回せた方が便利やからって、38になりましてーんって。」
「あのお客さんわかてっるわー。冷凍食品を俺らを一緒に袋に詰めとる。あったかいお惣菜に近づけてくる人なんなん?あとあの自転車でガタガタめっちゃ揺らしながら帰る人な。おれめっちゃ繊細さんやで?」
「いやチョコミン党強すぎやろ。ミント以外でもいけると思わん?ほんでこの前も生チョコが分離した言うてニュースになってたやん。おれ思うねんけど、生クリームとチョコ温めて混ぜたらええだけと思われてんちゃうかなて。いやそうやねんけどな。ご家庭で作る分にはそれでもええねん。でもおれが勘違いしてほしくないのは、分離が悪いわけじゃないってことやねん。チョコの気持ち考えたれよって思うねん。沸騰したおれらが一気にチョコにわぁーーーーーーて行ったら。いやそれは可哀想やて。ちゃんと握らなあかん。グリップやでグリップ。それが乳化や。あ、これビターチョコの話な。ホワイトチョコとミルクチョコと仕事するなら一気にまとめなあかんよ。あの子ら浮気するから。」
「あ、あの」
やっと僕の声が届いた。
「あの、今度、僕、生チョコを担当することになって。」
「めっちゃええやん、やりやりー」
「ミント以外のハーブと組んみようかなと思って。もう少し大人っぽくて、お酒にも合うようなハーブと。でも、その、乳化が。出来立ては美味しいのに時間が立つとザラザラしてくる上辺の関係じゃなく、ちゃんと乳化した状態でチョコ社の皆さんと仕事したいと思っていて。」
「自分めっちゃ立派やん。感動するわ。いけるいける。チョコミン党超えんちゃう。ええか。これはチーム作りや。」
目が覚めた僕は、なんだか爽やかなスッキリとした気分だった。
チョコレート社に連絡をし、可能な限り細かく砕いた状態で集まるようお願いした。
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清涼感と言うのか、この爽快な気分はタイムのおかげだろう。
いつもは肉や魚の臭み消しに使われるけど、自分の香りを全面に求められるのは嬉しいらしい。
「きみまでこっちにくると泡立っちゃうから、
ここは牛乳がいいよ。」
そう言って、どこからか連れてきた牛乳と一緒に
タイムはミキサーに入った。
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さぁここからだ。
まず、チョコレートにはレンジで少しずつ温まってもらう。
完全に溶けて彼らは、艶があってすごくきれいだ。
僕の方ももう一度 温度を上がる。
温度が近いもの同士の方が混ざりやすいねん。
熱すぎても焦げるけど、冷たいのは論外。
プロジェクトを成功させるにはお互いの熱量が大事や。
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僕は一歩踏み出した。
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少しずつ、チョコレートに入っては全体を巻き込む。
少しずつと言っても、この作業が終わるまでに、
温度が下がってもいけない。
あくまでお互いの熱が冷めないうちに進める。
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固く頑固な一枚板に見えるビターチョコ社だけど、
実はすごく不安定だと聞いたことがある。
彼らは異物を嫌う。
だから、沸騰直前まで温めた生チョコを一気に入れて
訳が分からないうちに生チョコにしてしまうのもアリだと思う。
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一回喧嘩した後、めっちゃ仲良くなるパターンあるやろ。
分離したあとで乳化したほうが団結力 めっちゃ強なるパターンやねん。
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でも慌てない。
乳化の基本は水と油が1:1。
まだ生クリームが入る余地がある。
全体量の半分の生クリームが入ったところで
一気に作戦に出る。
僕は叫んだ。
「生チョコを作ってるんじゃない!!
チームを作っているんだ!!」
誰でも急に知らんやつらが仕切り出したらびっくりするやろ。
何事も一気に全員を味方につけるのは無理がある。
まずは少数の味方をつけるんや。
最小でも仲間になってくれる理解者はおるもんやで。
少しずつその輪を大きくしていくねん。
僕は中心だけに集中して、
乳化を試みた。
ちゃんと丁寧に伝えれば
理解を得られる。
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あと、余談やけど、
美味しいものにはツヤがある。
これほんまやから。ええ顔してるなーってすぐに わかるわ。
正直、最初の頃はチョコに入っても
分離してるのか乳化してるのかわからなかった。
最高にいい状態を知ったとき、振り返ってそうじゃないものがわかる。
まだほんの一部だけど、彼らの中に手応えを感じた。
変わらず少しずつチョコの中に入っては、
中心で理解者を増やすように
乳化していく。
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中心だけは乳化して、さらにツヤっとしている。
もしかしたら、これはただ、
生チョコを作っているように見えるかもしれない。
たとえそう見えたとしても、
仲違いしていた水と油が手を取り、
つながる瞬間を
僕は忘れない。
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もうあとは大丈夫だ。
10回目で最後の生クリームが入る頃には、
すべてのチョコレートが賛同している。
タイムの生チョコプロジェクトは、
一丸となって型に流れ、完遂した。
僕らはおおきな安堵とともに、
気がつけば眠りに落ちていた。
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今日も冷える。
冷蔵庫から出ると、
外ではココアが降っていた。
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無邪気にココアにまみれてみた。
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「こっちは書いてんねんで、氷水で冷やしながら泡立てやーて。ほなそれは出来たかと思ったら今度はボウルが小さいねん。ほんで泡立て器でブーーンやりようから、それは飛び散るやろ。いやいやいや、そうなるやん。それやったらラップして泡立てたらいいやん。ほんま頭固いわ。え、ほんでまだまだ乳脂肪数 若いのに何を悩んでるん。ホイップなんかならんでええよ。あ、ちゃうわこの話しようと思ってたんちゃうかった。あれやな、言うで、ほなメモしといてや。生クリームの35くんが150g、タイムくんが2分の1パック、チョコレートちゃんたちが150g、途中でタイムくんが連れてきた牛乳ちゃんが30gや。おっけ?」
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