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私たちが向かっている経済と金融、そして社会①
【日本経済が向かっている先とは】
日本が今後成長していくと感じている人がいるでしょうか。日本は衰退に向かっていると感じているひとびとが増えてきたように思います。日本は高齢化、人口減少時代を迎えていることはもちろんですが、2020年からのコロナ・パンデミック、2022年2月からの高騰と世界インフレ、世界の軍事費の急増をもたらしているウクライナ戦争が加わってからなおさらそう感じている人が多くなっている気がします。
軍事費とは国力の消費です。武器の生産と輸入、そして兵士が増える分、国内の民間経済を圧迫します。結果はいつも物価の高騰です。戦争によるインフレの一例として、第二次世界大戦後の米国では戦後需要の急拡大によりインフレ率が20%まで上昇しました。日本では、終戦後のインフレ率が年率59%、1947年には年率125%という高い数字でした。
軍事費は官の経済であって、民間の需要と供給をベースとした経済とは異なります。有限であるその国の商品を生産する設備・機械・労働を超えるからです。
人類の歴史を作ってきた戦争は、国民である兵士の死傷、国土の破壊とインフレでしかありません。コロナ禍からウクライナ戦争、イスラエルと中東の戦争に至った世界の激動と国力の消費は、歴史的には第三次世界大戦に相当すると言えるのではないでしょうか。兵器産業は武器弾薬の在庫一掃と新兵器の生産を必要とします。そのため、一極覇権主義の米国は定期的に世界各地で戦争を仕掛けてきました。
この観点からグローバルな金融投資家たちの中には、2000年代の世界のディスインフレが戦争が始まった2022年からインフレに転換したと長期的な見解をとる人達も増えています。しかし、戦争経済への感覚に疎い日本人にその見解は少ないように思います。マスコミもそういった報道はしていません。
コロナ禍によって米国のFRBは4兆ドル(580兆円)、欧州のECBは4兆ユーロ(670兆円)、日銀は170兆円、合計で平時ではあり得ない1,420兆円(日本のGDPの約2.4年分)を使っています。
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マネー量の増加と循環、すなわちインフレで1単位の通貨価値の低下から時代は変化を加速させます。GDPの成長限界以上の金額が増発された通貨は、1単位の価値を減らします。
時代とは、①生産と流通の経済の構造と技術、②国家・企業・世帯が3つの核である社会の構造、③政治思想、文化、思想の総合から同じ時代を保つ一定の長さの歴史的な時間を言います。
「総合」はダイバーシティのような移民による人種の混合だけではなく、各要素が影響し合って社会の総体を作って変化させる動的なことです。
例えば、EUは30年で目覚ましい変化をしました。ドイツは移民人口が27.2%(2230万人/2021年時点)を占めるまでになりました。国籍別の内訳は欧州の国々から62%、中近東を含むアジアからが23%、アフリカからが5%、アメリカ大陸やオーストラリアからが3%です。東西冷戦終了後は亡命者や難民がドイツに流入し、2014年から2019年の間に難民流入による人口が240万人増えています。こうなると、人種の混合だけではなく、人々の行動が影響し合って社会、経済、企業、街は一変します。
時代は30年で一変してきました。30代の人たちが60代に、40代なら70代に皆平等に1年に1歳年齢を重ねます。古来、30年で時代の一世代が転換してきました。1995年の1ドル80円の時期に、現在の日本・米国・中国・インド・韓国・ドイツの姿、インターネットやAIを想像できる人はいませんでした。
2000年からの日本経済には以下の4項が重なっています。
①30年前の1995年には想像できなかった世界一の人口減と重なる高齢化。
②人口の40%に向かう高齢層を支える人たちの労働生産性の停滞と人口減。
③失業率が2.5%と低くても設備がフル稼働した時の潜在成長力の低さ。1990年までは4%付近と高かかった。2020年代は0.5%当たりである。
④政府債務のGDP比258%は、今後も増える見込みしかないこと。
この条件下で30年先の2055年の日本をどうイメージできるでしょうか。1970年代には2000年は明るい未来として見えていました。1980年代も同じでした。資産バブル崩壊の1990年から暗雲が垂れ込めるように変化してきました。2000年は米国のITバブル崩壊から始まりました。2010年代は2011年の3.11は東日本大震災の福島原発の爆発から始まりました。2020年代はコロナ危機、22年のウクライナ戦争から始まっています。現代史はおよそ10年から12年ごとに大きな事件が起こって枠組みを変えてきました。
GDPの潜在成長力は生産設備(=資本)、労働、生産性が100%稼働した時の仮想的なものです。GDPの増加率以上のマネー増刷は潜在成長力が低い時にインフレをもたらします。「インフレはいつでもどの国でも貨幣がもたらす現象である」というミルトン・フリードマンの仮説は正しいと言えます。
ここで、2008年のリーマンショックを振り返ってみます。私たちがこのリーマンショックを予知できなかったのは、人々が未来を予知できなかった一つの事例と言えます。そして、現在のバブルの状況も私たちには認知できていないと思われます。
マネーの予想リスクを交換するデリバティブが普及した時、マエストロと讃えられていたFRB議長のグリーンスパン(1987-2006:19年4期)は、「これから景気サイクル(好況と不況の景気循環)はなくなる」と言いましたが、それは虚節でした。その直後にデリバティブの破綻から2008年9月15日からリーマンショックが起きました。この時は、「バブルの中ではバブルという認識はできない」前言を翻しました。
グリーンスパンには認知はできなかったのでしょうが、中央銀行しか犯人がいないバブルの認識はできます。グリーンスパンはリーマンショックを起こした人物でした。退任後は、ヘッジファンドと金のコンサルティング会社をしています。
「米国はドルを刷ることができるので、米国債が債務不履行を起こす可能性はない」という言葉を残しています。この言葉は、日本のリフレ派の典拠になっているようです。
グリーンスパンはこんなことを言っていました。
「金利を上げたのに住宅価格の上昇が続いている。不思議なことだ」
利上げの中でも米国の住宅価格が上がった原因は、銀行危機の1999年から金利がゼロだった日本が金利の上がったドルを買って米国にマネーを供給していたからです。金融・経済は見えない原理通りに動いていますが、人間はそれを認知できません。
米国が利上げで金融を絞った時、ゼロ金利の日本がドル国債、ドル債券を買って米国に金融緩和になるマネーを供給したのです。この構造は2023年、2024年の円安の時も変わっていません。
米国の住宅価格は2000年から年平均12%、6年間続けて上がり、全米平均価格は15万ドルから30万ドルへと2倍に高騰していました。2020年から24年と同じように、ゼロ金利の円がドル買いになって米国に流入し、米国の金融機関が利用しました。
【リーマンショックのきっかけは日銀の0.25%の利上げ】
米国の住宅価格の下落の加速は、2006年7月に日銀がわずか0.25%への利上げをしたことから起こったのです。(6年間のゼロ金利の解除)原因は金利が上がった円によるドル買いが減ったからです。
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実は2024年にも同じことが起こりました。日銀によって0.25%への利上げがされた24年7月30日以降、そして8月5日に起こったファンドのキャリートレードの巻き戻し(円買い)37兆円と同じです。円の暴騰は激しい「ドル売り/円買い」の結果としてドルマネーの量を減らし、世界の株価と資産の価格を下げます。日経平均は、7月11日に対して、8月5日は25%も下がりました。高騰していたナスダック100は同日に15%下がりました。
1995年から日本も加わった金融ビックバンで外貨購入が自由化された後、G7の国内と国際金融はもう一国金融ではなくなりました。金利と通貨レートの予想を媒介にして、マネーの瞬間移動が起こるのが現代の国際金融です。1984年までの一国金融を前提とした経済学説は成り立たなくなりました。( 「マンデル・フレミングモデル」 1999年ノーベル賞)
日本の国内と海外との間を含むマネーの循環表を日銀は発表しています。
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①日本の世帯の金融資産(2,179兆円)、②民間法人の金融資産(1,523兆円)、③政府と政府系金融の金融資産(869兆円)4,571兆円が円でのマネー資産の全体です。
②この4,571兆円は銀行を介して、世帯の借入金(392兆円)、民間法人の負債(2,224兆円)、政府の負債(1,439兆円)となっています。(誤差脱漏あり)
③日本の銀行、官民の法人と世帯は、その金融資産で海外の資産と債券を合計で1,575兆円買っています。(これが海外への貸付け金になります=対外資産)
一方、海外からの日本の資産と債券の買いは1,069兆円です。(海外からの借入金になります=対外負債)。差し引き、対外資産1,575兆円-対外負債1,069兆円=対外純資産506兆円です。
この506兆円が24年9月時点の1ドル160円台の円安差益100兆円を含む対外純資産です。
④対外純資産は、日本の金融資産が80%は米国に純貸付金となって流出していることを示します。日本経済は、総金融資産(4,571兆円)の100%を国内では利用せず、100兆円の円安差益を抜くと406兆円(9%)を海外に純貸し付けしています。円の海外流出と同じです。日本は1990年から一貫して米国にマネー供給してきたのです。
②へ続く
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