金価格は史上最高値。金価格と米政府債務
3月5日に金価格が最高値を付けました。
投資対象、あるいは資産防衛の為の安全資産として注目度は高まっています。しかし、金は単なる投資対象ではないとみる必要性はあるでしょう。
私は金は今後、本源的な通貨としての復活となることが十二分にあると考えています。その論を考える場合、今の基軸通貨の発行国である米国が、外貨準備として帳簿上いくらで算定されているのかを踏まえておく必要があります。
連邦準備制度理事会が公開している米国の準備資産を見ると、金は全く増減がなく、常に一定です。
上記資料は2021年となっていますが、2024年1月31日現在も、全く同じ金額です。(参照:U.S. Treasury-Owned Gold)
そして、注記には次のように書いてあります。
米国政府所有の金準備金を 31 USC § 5116-5117 (法定レート) に記載されている値 (金 1 トロイオンスあたり 42.2222 ドル) で記録しています
戦前、世界大恐慌を受け、フランクリン・ルーズベルト大統領は大統領令によって国民に金の使用を禁じました。その時決めた公定平価(ドルと金の交換価格)が、1オンス35ドルでした。
戦後、ブレトン・ウッズ体制になり、外国政府からの要求に対してだけドルを金に換える仕組み(金兌換制)にしてからも1オンス35ドルの公定価格は変化しませんでした。
この1オンス35ドルの公定価格が変わったのはニクソン・ショックからです。ニクソン・ショックにより金とドルの交換が停止され、その後スミソニアン体制となり1ドル38オンスに金価格を引き上げました。こうして、一度ドル安にした後に、1973年からは為替は変動相場制に移行し、金の公定価格、つまり簿価は42.33ドルに洗い替えしたのです。
それ以来、一貫して同じ公定価格のまま今日まで来ています。1973年から見ると、金価格は上昇し、1オンス2100ドルを超える水準となりました。つまり米国の金準備は約50倍の含み益を蓄えているという計算となります。
仮に1オンス2100ドルで考えた場合、5,900億ドル超の含み益を抱えています。凄い含み益です。
ただ、一方で米国の債務はどうでしょうか。34兆ドルを超えています。
1971年8月15日がニクソンショックでした。そして、1973年2月14日からは変動相場制に移行しました。その際の政府債務は4,586億ドルでした。現在と比較すると、1/75です。
この金の含み益と債務の倍率を比較して図解すると、以下のようになります。
もしも、金がドルの価値を担保するものだったとすると、全く成り立っていないことになります。逆に政府債務は、金の価値を超えて大きく膨らんでいるということとなります。
米国が債務を膨らませることで、ドルの増刷は続きました。つまりは信用創造。本来は、金の価値の範囲であったドルの発行は、金との兌換が終わった後、金の量に関係なく、大きく膨らみました。それは米政府の債務の膨張がドルの膨張と結びついています。
なぜ、金の価値が上昇しているのか?最高値を受けてのフィナンシャルタイムズの記事には以下のようにあります。
The price of gold has surged to a record high, driven by growing expectations of US interest rate cuts, investors hunting for haven assets and months of prodigious buying by central banks and Chinese investors.
米国の利下げ期待の高まり、投資家の避難資産探し、中央銀行や中国投資家による数カ月にわたる驚異的な買いを受けて、金価格は過去最高値に上昇した。
投資家が避難しているのは、他のリスク資産から資金がシフトしているということです。それは金が安全であるとみているから。そして、中央銀行が買っているのは、外貨準備をドルから金にシフトしているから。そして、中国の投資家もドルではなく金を購入しているのは、金が安全だと考えているから、です。
世界の中央銀行、特に中国やロシアなど脱ドルを狙う国々が金を購入しているということは、外貨準備を金にシフトし、ドル離れが加速していることを意味しています。
金を価値の裏付けにすることが加速しているとも考えられます。なぜ、中国やロシアは金の購入を増やし、外貨準備における金の割合を増やしているのか?
その答えは必然的に金を通貨価値の裏付けに考えているからとなるでしょう。
しかし、一方で、巨額に膨らんで米債務は34兆ドルです。それを日本円に換算すると、5,100兆円です。
世界の中央銀行がドルではなく、金の外貨準備を高めていき、通貨の価値の裏付けに金を考え始めた場合、ドルが基軸通貨の地位を保つのは難しくなります。
そして、信用通貨になったドルが金を離れて創造してきた富は、裏付けのない富だとすると、それはもしかしたら幻想の富なのかもしれません。
上記のグラフは、政府債務対GDP比です。左が米国、右がロシア。この違いは、国家運営の意識の差をあらわしているように思えます。
米国は、債務を膨らませ、ドルを増刷し続けました。結果、政府債務は対GDP比で130%になっています。一方、ロシアは経常黒字国であり、政府債務の対GDP比を減らしてきました。
膨張した債務をどうするのか?基軸通貨ドルを支える要素が経済力、軍事力であれば、共に揺らいでいるのが現在です。
最後に、2026年に出版されているジェームズリカーズの「The New Case for Gold」の一文を。
金から離れた米ドル。金が注目されるということは、基軸通貨の座から降りる日が近いことを示唆しているのかもしれません。