【日経新聞をより深く】OPECプラス減産拡大か 通信社報道、100万バレル超~原油を巡る世界の変化~
1.OPECプラス減産拡大か
2.バイデン政権とサウジアラビアの亀裂
米国のバイデン大統領は2022年7月13日~16日に、イスラエルとサウジアラビアを訪問しました。米国メディアでは、中東諸国との関係改善を図ったと評価する声もある一方で、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と面会したことや同国から原油増産の確約を得られなかったことを取り上げて、否定的に評価される報道も多くありました。
ムハンマド皇太子との面会がなぜ、否定的に評価されるのか。それは、バイデン政権のムハンマド皇太子への評価が関係しています。バイデン政権は、2018年に起きたジャマル・カショギ記者殺害事件について、ムハンマド皇太子がこれを指示したと考えており、人権重視を掲げるバイデン大統領は6月には、皇太子と会わないと発言していました。しかし、ここに来て、立場を曖昧にしたまま、ムハンマド皇太子と面会。これに米国の主要メディアの一つワシントンポストは強烈に批判しています。
また、バイデン政権が今回の訪問中にサウジアラビアから原油増産の確約を取れなかった点も、多くのメディアが報じています。
このような背景の中での減産の意向が明らかになったのです。サウジアラビアはオペックプラスの方針よりもさらに減産する可能性もあることから、バイデン政権との間に亀裂が入る可能性があります。
3.ペトロダラーシステムの終焉
2022年3月16日ウォールストリートジャーナルが次のような報道をしました。
原油埋蔵量で実質世界最大のサウジと最大の原油入国の中国が人民元建てで取引を始めれば、基軸通貨ドルの礎を形成してきた「ペトロダラー」体制が揺らぎ、現在の国際通貨体制に多大なインパクトを与えることは確実です。
ドルが現在のような本当の意味で基軸通貨になったのは冷戦終結以降のことです。冷戦の勝者となった米国は、エネルギーや穀物をはじめ世界の貿易全体の安全を保障してくれる強い味方となりました。歴史上はじめて「世界の警察官」となった米国への信頼がドルの価値を支えました。それが現在も続いています。国際通貨体制は「米ドル体制」にほかなりません。
かつての金と同じ役割を担うようになったドルは究極の価値保蔵手段となり、旧ソ連を継承したロシアや中国をはじめ、米国とは友好関係にあるとはいえない国々にもドルは外貨準備の対象として選好されてきました。
ところが、ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁措置として、3月初頭にロシアが外国の中央銀行に保有する外貨準備を米欧日の中央銀行が凍結しました。3000億ドル(約40兆円強)相当が引きだせなくなったのです。米主導の制裁措置であることは明らかで、「ドルを外貨準備で保有することはリスクが高い」と世界が認識したことは間違いありません。経済発展に邁進してドル保有を積み上げても、米政府の意向次第で容易に接収されてしまう危険性が露呈したのです。
多額の原油売却代金をドルで保有するサウジアラビアにとって、ロシアに対する米国の制裁は「対岸の火事」ではありません。バイデン政権は人権問題などでサウジに厳しい姿勢で臨んできました。サウジ王室が「明日は我が身」と考えても不思議ではありません。
ロシアのプーチン大統領はウクライナの4州を住民投票の結果、併合することを発表しました。その際の演説は、西側諸国を痛烈に批判していましたが、的を得た話でもあったと思います。
米国が主導してきた現在の世界秩序は、大きく揺らいでいるのではないでしょうか。米国が主導する世界秩序は米国に従う秩序。いわばグローバリゼーションです。しかし、プーチン氏の言う世界は各国の主権を守る秩序。いわば保守です。
武力で決着をつける姿勢にはもちろん賛同はしませんが、サウジアラビアが必ずしも米国の意向に従うわけではない姿勢を見せていること思うと、決して、プーチン氏の言う各国の主権を守る保守が台頭してくるのではないかと思います。イタリアでも保守政権が誕生しました。ヨーロッパはエネルギー危機から、米国主導の世界秩序に賛同しきれるかはわかりません。EUは強硬に反ロシアを主張していますが、各国の国民は経済制裁のブーメラン効果でインフレになっている現状に不満を高めています。
世界秩序の揺らぎは加速するはずです。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】