1.G20協調、新興国が促す インドネシアのバリ島で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議は16日午後、首脳宣言を採択して閉幕した。宣言は「核兵器の使用や威嚇は認められない」とウクライナへの侵攻を続けるロシアをけん制した。協調姿勢こそ保てたものの、歴史的な高インフレで世界的な景気後退懸念が強まるなかで具体策に乏しい内容となった。対立する米中の間で新興国は揺れ動き、採択を巡ってギリギリの調整が続いた。 15日から始まった討議はエネルギー・食料危機への対処を中心に進み、その原因をつくったロシアに批判が向かう展開になった。焦点は台湾問題などを巡って対立が続く米中が対ロシアで歩調を合わせられるかどうかだった。中国はかねて、ロシアに対する米欧の経済制裁に批判的な立場をとってきた。 「閉鎖・排他のインナーサークルを作るべきではない」。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は15日の討議で、中国との対立姿勢を崩さない米国を暗に批判した。米国は中国の貿易慣行や人権問題について指摘を繰り返してきたが、習氏は「小異を捨てて大同につき、平和共存し、開放型世界経済の建設を推進すべきだ」と主張した。 米国や日本、欧州諸国は15日、質の高いインフラ開発の支援を目指して6月に立ち上げた「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」の関連イベントを開催した。中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。バイデン米大統領は「投資が大国だけでなく、あらゆる場所の人々に利益をもたらすことを確認しなければならない」と発言。戦略的に途上国に資金を貸し付ける中国との違いを示唆した。 双方の歩み寄りでカギを握ったのは2023年に議長国を務めるインドだ。「国連のような国際機関が失敗したと認めることをためらってはいけない」。モディ首相は15日の演説で、大国の利害対立で身動きがとれなくなった国連を例に挙げ「世界はG20により大きな期待を寄せている」と強調した。 伝統的にロシアと近いインドだが、モディ氏は9月のプーチン大統領との会談で戦争継続に難色を示していた。「いまは戦争の時代であってはならない」。モディ氏が会談で発言した言葉を、インドは首脳宣言にも盛り込むよう動いた。ロシアへの直接的な非難を避けつつ、対話への回帰を訴える姿勢が「代表団の間で共鳴をもたらし、当事者間のギャップを埋めるのに役立った」(インド外務省高官)。 首脳宣言にはエスカレートするロシアを強く抑止する表現が盛り込まれた。ロシアのウクライナ侵攻に関し「ほとんどのメンバーは戦争を強く非難した」と記載した。ロシアの主張は「状況と制裁について他の見解や異なる評価もあった」という表現にとどめた。
(出典:日経新聞2022年11月19日 ) G20が首脳宣言を採択して閉幕しました。(首脳宣言:https://onl.bz/pnenDk5 )
この首脳宣言の中で、難航の末、採択されたのは以下の部分です。
今年、我々は、ウクライナにおける戦争が世界経済に更なる悪影響を与えていることも目の当たりにした。この問題に関して議論が行われた。我々は、3月2日の国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全かつ無条件での撤退を要求している国連総会や、国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する。
(出典:G20バリ首脳宣言) この中でロシアのウクライナ侵略を「遺憾(英文:deplores)」と表現しています。ここでは、非難という言葉は使っていません。また、「ウクライナにおける戦争(英文:the war in Ukraine)を非難し」とも表現しています。これは、ロシアを一方的に非難するというよりも、「戦争」を非難するという形をとっています。
苦心の末の採択が伺われますが、首脳宣言が採択されたことには一つの意味があると感じます。
2.インドネシアとインドが凄かった 今回の首脳宣言が採択に至った背景には、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領とインドのモディ首相の働きが大きかったようです。
インドネシアは食糧安全保障という誰もが合意できることから始めて、それを土台にして採択まで粘り強く交渉し続けたようです。「本当に驚くべき仕事だった」と、欧米の代表者が称賛しています。
そして、ウィドド大統領には宣言を採択することを固く心に決めていたようです。
さらに、インドのモディ首相がロシアにも配慮しつつ「いまは戦争の時代であってはならない」という信念を訴え、G20の役割が重要なことを強調することで共感を得たことが決め手になりました。
ここから思うことは、もはや世界は、G7の大国だけがリーダーシップを持つのではなく、インドネシア、インド、あるいはブラジルや南アフリカなどのBRICsのメンバーは大きな影響を持ち始めているということではないでしょうか。
今回のバリでのG20をインドネシア、インドの驚くべき仕事としてフィナンシャルタイムズも報道しています。
3.インドネシア経済 現在、インドネシアの人口は2億7,000万人で世界第4位です。そして、インドネシアの特長は何といっても構成年齢が若いことです。平均年齢が29歳。(日本46歳、中国、タイ37歳)また、生産年齢人口も全人口の67%と高い数値を示しています。
これらの状況からインドネシアの人口ボーナス期(人口増加率よりも労働力増加率が高くなり、経済成長が促される期間)は今後10年以上続く見通しです。
さらにインドネシアは石炭産出国であり、原油や天然ガスも採れます。原油や天然ガスは国内で消費量が増えて輸出は減ってはいますが、豊富な資源に恵まれています。
(出典:TRADING ECONOMICS/インドネシアGDP成長率 ) 近年のインドネシアの経済は、新型コロナウイルス感染拡大の一時期を除いて5~6%の高い成長率を維持しています。
国土面積は日本の5倍、若い国であるインドネシアは今後、成長していく国となるでしょう。
世界は米国の一強に対して、中国が米国の覇権に挑戦しているように見えますが、インドやインドネシアも影響力を持ってきており、さらにブラジルや南アフリカ、中東のサウジアラビアやさらにはアフリカも成長してきます。
新しい世界秩序に向かって、世界は大きく動いているように感じます。
未来創造パートナー 宮野宏樹 【日経新聞から学ぶ】