
子どもの肥満の治し方-11-行動療法の基本
子どもに限らず肥満の治し方は、食事療法、運動療法、行動療法が基本となります。行動療法の大まかなところについては第2回で、まず具体的な行動目標を立てること、記録すること、環境を整え無理のないペースで進めること、褒めること、を上げました。今回はもう少し、掘り下げます。
行動目標は、子どもが自分で立てる
行動目標は、子どもが自分で立てるのが一番です。親が立てた目標を、子どもが忠実に守るものと思っていらっしゃる親御さんは、傷が浅いうちに考え直しましょう(医者も同じく)。お子さんが、アイディアをなにも出してくれない時は、選択肢を出して、選んでもらいましょう。選択肢が3個以上あれば、頭ごなしに大人から決められるよりは、自分で選んだ気になるものです。(2個はやめましょう。「どっちなんだ?」みたいな圧迫面接風になってしまいます。)
「人形テスト」
身につけやすい行動目標を立てるには、コツがあります。①やったのかやらなかったのかはっきりすること、②数えたり測ったりできること、③生きている人にしかできないこと(人形にはできないこと)、を選ぶことです。
①やったのかやらなかったのかはっきりすること
行動療法は「記録すること」が前提です。例えば、壁かけカレンダーの「早起きした日」に「○」をつける場合、「○」が増えた記録を振り返って達成感を感じることが第一歩になります。ところが、最初は朝6時半に起きてカレンダーに「○」をつけていたものの、次第に6時40分でも「わりと早起き」、7時までなら「以前より早起き」みたいな「○」の付け方をするようになると、「○」の価値が落ちてきて、達成感や成功体験に繋がりません。こうならないために、「早く起きたら○」ではなく「何時に起きたら○」と基準をつけたほうが良いようです。なお、何時「までに」ではなく、何時「に」と、毎日全く同じにするほうが習慣化しやすいと解く専門家もいます。
②数えたり測ったりできること
例えば、「ウォーキングする」ことを習慣化したい場合、①の原則に従えば、コースを決めておけば、やったのかやらなかったのかはっきりして良いのですが、日によって違う景色を楽しみたい、とか、天候によって同じコースを使いにくい場合があります。こういう場合は、歩数計を使って「1日8,000歩、あるく」といった決め方が有効です。早食いの習慣を治すために、「飲み込むまでに一口20回噛んでから飲み込む」ことに取り組み、成功する子どもも多くいます。
③生きている人にしかできないこと(人形にはできないこと)
取り組もうとしていることが、行動なのか、そうでないのかを確認するには、その「行動」が人形にもできないか、想像してみると分かります。例えば、「ご飯のお替りをしない」という取り組み。実は、これは人形にもできる(人形はお替りしない)ので、行動ではないのです。行動でないことを習慣化するのは難易度が高いため、例えば行動目標を「ご飯を一膳食べたら食器を片付ける(これなら人形にはできない=行動である)」と書き換えれば習慣化がやりやすくなります。(なお、正しくは「死人テスト」です。)
新しい靴を履いて
日常生活に、新しい行動や習慣を取り入れる時、一緒にやってくれる仲間がいることや、行動変化のための準備をすることは、モチベーションを高めます。例えば、ウォーキングを始めようという場合、親子で、新しい靴を買ってみるのも良いかもしれません。
最後に
今回は、子どもの肥満の治し方の「肝」と言って良い、行動療法の基本について解説しました。
次回は、コミュニケーション法のヒントについて書き留めます。
著者について
山田克彦
私は小児科医として30年以上、子どもたちの健康に関わってきました。「子どもの肥満」に悩む多くのご家族のお役に立ちたいと思い、このノートを始めました。