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【EBPM実践チームD2PA×みらい創生課】データをベースに柳津町の未来に向けた施策を検証!(前編)

「ミライツナガル会議」とは、若者世代の意見を取り入れ、町民参加のまちづくりを目指す福島県柳津町の取り組みです。柳津町みらい創生課とミライツナガル会議ではEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)に重きを置く施策立案や検証に向けて、シカゴ大学公共政策大学院で学ぶ国家公務員を中心に組織されたD2PAと協働をしています。今回は、D2PAのメンバーである渡邊 慧さん、窪西 駿介さん、橋本 怜弥さん、石巻 克基さんにお話を聞きました。

■EBPMとはなにか?

ーそもそもEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング/証拠に基づく政策立案)とはなにか教えてください。

渡邊 EBPMの概念は広く、多様な文脈と意味を含んでいます。それをあえて大雑把に単純化すると、3つのパーツで構成されているイメージになりますます。1つ目は、政策を考える時にきちんと目的を明確にするということ。2つ目が、目的に対して何か施策を打った時に、その効果を評価するということ。そして3つ目が、2つ目の評価に基づいて次の施策を考えるということです。

これらは「広義のEBPM」とも呼ばれるような、とても大きな概念ですが、私たちD2PA(Date Driven Policy Association)という団体では特に2つ目のパーツに注力をしています。この部分は狭義のEBPMとも呼ばれる部分で、端的にいうと、ゴールに向けてAという施策を打って、そのAの施策の効果は実際にどのくらいなのかを定量的に評価するということです。我々の活動は、この定量的な評価を、データ分析を通じて行うことを主軸にしています。

「EBPMって何?」 D2PA作成スライド

ー具体的なEBPMの考え方を活用した事例を教えてください。

渡邊 広島県の事例を紹介します。役場が地震などの災害の際に避難を呼びかけるメッセージはさまざま考え得るでしょう。この事例では、メッセージごとに人々の避難意欲がどう変化するか、実証的な調査を行いました。この結果から最終的に広島県では、効果の大きかったメッセージの一つである「あなたの避難が、みんなの命を救う」というアナウンスを採用しました。メッセージによって、避難意欲には15%超もの違いがあったわけですから、大きなインパクトのある政策改善がなされたものといえます。

「なぜEBPMが良い?」 D2PA作成スライド


ーEBPMという考え方は昨今登場した概念なのでしょうか。
渡邊
 政策を評価するという考え方自体は20年程前に登場していますが、データを活用した定量的な分析を重視する動きが出てきたのは、ここ10年ぐらいの話です。

石巻 近年、アジャイルガバナンスということがよく言われるようになりました。これは、AIやIoTなどテクノロジー分野を中心に社会の変化が非常にはやく、社会が複雑化していく中で、従来の政策立案のスピードのままでは追いついていかないので機動的に評価・アップデートをしていこうという発想です。

もちろん、これまでのようにじっくり時間をかけて制度設計をしていくことが必要な分野もありますが、多くの領域では政策立案のPDCAサイクルをどんどん加速させていく必要はあると思うのです。ただし、機動的な政策立案は闇雲な政策立案とは異なります。その意味でも、データに基づく分析をきちんと行ってアクションにつなげていくEBPMの実践が、一層求められていくと感じています。

渡邊 D2PAという団体はEBPMという手法を通じて、いろいろな物事を良くできる、という考えを持っていますが、行政の中には必ずしも数字で評価することが馴染まない領域もあります。例えば、生活保護の支給基準を決めるにあたって、1円あたりの効果を定量的に測定することはできるのか、仮に定量的な測定ができたとして、「十分な効果がないから不要!」とすることは本当に正しいのか。つまり、定量的ではない定性的な「価値」を評価することが必要な領域は必ずあるのです。

ただ、様々な分野において、定量的な評価が求められていることも事実です。分野を選択しつつも、多様な領域でEBPMの考え方・データ分析を通じた効果検証が行われることが重要だと思っています。

■EBPMの実践に進んだ理由とは

ーEBPMの概略を理解したところで、団体の説明とD2PAのみなさんの自己紹介をお願いします。

渡邊 D2PAの活動は、シカゴ大学公共政策大学院でEBPMを学ぶ国家公務員を中心に始まりました。 現在は、シカゴ大学院生や国家公務員に限らず、コンピューターサイエンス等多様なスキルを有する30名以上のメンバーが在籍しています。 地方公共団体の方々と協働して、データ分析を通じた政策の改善に取り組むことを大きな目的としているます。では、今日参加している各メンバーから自己紹介をさせてください。

石巻 経済産業省からシカゴ大学に留学して、現在1年目です。入省してすぐに省内で統計を扱う部署に配属となりました。10年近く前になるので、日本の政府の中でもEBPMの重要性が注目され始めたくらいの時期だったのですが、きちんとデータをベースに考えられているかというと、実態はまだ道半ばといった状況でした。一例を挙げれば、政策の効果を表す指標としてKPI(Key Performance Indicator)が掲げられる場合が多々あるのですが、政策に関係するKPIになっているのか、関係があるKPIになっていても測定方法まできちんと詰められているのか、といったことに対して疑問符がつくケースも少なくありませんでした。

もっというと、目標は掲げられていても統計結果が出るまでに、1年後や2年後とタイムラグがあることも多く、KPIを検証するタイミングでは多くの人がその政策について興味を失っており、効果検証自体がうやむやになってしまうという課題もありました。日本の行政の中でEBPMの実践というのは、まだまだ途上段階にあると感じ、計量分析を本格的に学ぶことができるシカゴ大学公共政策大学院へ留学しました。

窪西 主に総務省で6年間勤務した後、シカゴ大学へ留学して、現在2年目です。総務省は主に自治体と一緒に仕事をしています。自治体の仕事の一つに水道事業があります。水道局は自治体のメインのお財布と分けて、別のお財布を作って運営しており、企業のようなスタイルで水道料金を利用者に払ってもらって運営しています。

従来、水道局では、民間企業と行政を合わせたような会計制度で運営されていたんです。それが、より効率効果的な経営にしていくために、KPIとして「◯◯年までに全ての自治体の水道局を民間会計にする」という方向性が示されます。自治体によっては「いや、うちの自治体はとっても小さいから、経営というほどのことをしていないので今の方が楽なんです」と言っても、KPIに掲げられているので「可能な限り移行してください」と言わざるを得ないという状況が生まれていました。

大元を辿れば、本来の目的は、水道局の経営をよくすることであるはずで、会計制度を民間基準のものにするのはあくまで手段です。それなのに、いつの間にか大きな目的が置き去りにされて、「KPI達成」が目標になってしまっているんです。こうした状況を打開するには、きちんとEBPMを学び、有効に活用していく必要があると思いました。

橋本 農林水産省に入省して7年ほど勤務した後に、シカゴ大学に留学しました。私は技術関係の仕事に携わる機会が多く、例えばスマート農業の促進として、ドローンによる農薬散布や全自動トラクターを現場にどう普及させていくか、データを使って農家をサポートするような政策に携わってきました。農業分野でも民間でいろいろなデータを使おうとする動きがある中で、自分自身はそこまでデータを扱えていないという課題意識があり、シカゴ大学への留学を決めました。

現在は、コンピューターサイエンスと公共政策学の両方を学べるプログラムを履修しています。特に、リアルタイムで発生するデータの利活用に関心があり、コンピューターサイエンスを本格的に学び、データ分析の力をさらに高めたいと考えています。

渡邊 財務省で5年程勤務した後に、シカゴ大学に留学しました。公共政策大学院は世界中さまざまなところにありますが、シカゴ大学ではデータを活用した実証分析に重きを置いています。アメリカや他国の具体的な事例を扱って分析することが多いのですが、その中で、どうデータを活用した実証分析を「日本」で活かしていけるのか、そして、分析を通じて実際に日本の社会をよくできるのか、ということを実際に試してみたいと考えるようになり、当団体の活動を始めたという経緯があります。

■柳津町との協働をスタート

ー柳津町との協働はどうスタートし、どのような印象を受けましたか?

D2PA作成スライド(柳津町との打ち合わせに使用)

渡邊 団体がご一緒できる自治体を探していた時に、石井重成先生から「柳津町はおもしろいよ」とお話をいただき、実際にお声を聞く機会をいただきました。その際に、驚いたことは町長が同席なさっていたことです! 柳津町はCDO(最高デジタル責任者) として藤井靖史先生も参画なさっていますし、トップの方自らがきちんと実証的に考えよう、データで検証しようという意識を持っていらしゃると感じました。

窪西 私も打ち合わせに町長がいらっしゃったことは印象的でした。島根県に2年間出向していたことがあり、その際に19個の市町村を全て回りましたが、動きのいい自治体は町長や市長が新しいものや若い人とよく触れ合っていると感じました。その結果、新たな動きが出てきて、自治体の動きも活発になっていく。柳津町にもそんな魅力を感じたのです。

また、小さなことですが、コミュニケーションツールとして当たり前のようにSlackを使っていることも意外でした。2年間日本を離れているので古い感覚かもしれませんが、自治体の人に「Slackを使ったことがありますか」と聞いたら、「はい」と答えるのは5%ぐらいじゃないですかね。こういった点も、柳津町は新鮮でした。

渡邊 加えて、ミラツナ会議のメンバーの方々が一緒にいらっしゃったこともとても新鮮でした。役場の方と民間の方が一緒のテーブルに座っている……!と驚きましたね。しかも、民間の方がただ聞いているだけの参加ではなく、どんどん意見を出してくださる。色々なバックグラウンドを持った方々なので視点も多様で、多面的な議論になりました。柳津町ならば、自治体の未来に関わるさまざまな検証をご一緒させていただき、それを施策に活かしてもらえるかもしれないと思い、ワクワクしました!

▶︎▶︎▶︎次回は、「【EBPM実践チームD2PA×みらい創生課】データをベースに柳津町の未来に向けた施策を検証!(後編)」をお届けします!

※D2PAでは自治体様からの協働のご相談を随時受け付けています。下記メールアドレスまでご連絡ください。  お問合せ:d2pajapan@gmail.com

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