【ミラツナ会議委員長×みらい創生課職員】前例のない「挑戦」で見えた価値と課題とは
■10億円の企画提案への挑戦
ーB&G財団(公益財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)への「先進的海洋センター整備事業」の企画提案はどういったきっかけでスタートしたのでしょう。
樋 町長と施設管理に関連する課長とで話し合って、Goサインが出たことが発端です。最初に話を聞いた時はびっくりしました! 現場にはこうしたコンペのような企画を扱ったことがある職員は誰もいませんでしたから。国の補助金の申請とは全く勝手が違います。企画自体をどう動かしていこうという大きな課題から、はじめて見る申請書フォーマットにどう落とし込んでいけばいいのだろう……という細かな悩みまで、ありとあらゆることが手探りの状態だったんです。
私が所属する「みらい創生課」が取りまとめとなることになりましたが、準備期間にかけられるのは実質3〜4ヶ月程度。これまでにあった資料を直すのではなく、ゼロから書類を作っていくので、果たして間に合うのか……?と不安でした。
ーなぜ、ミライツナガル会議(以下、ミラツナ会議)と連携することになったのでしょう。
樋 「どういった町を作っていくのがいいのか」という話し合いを若い世代でしていく必要があると思ったからです。「なんでこんな工事をやっているの」「何でこんな建物を作っているの」といった行政と住民の意識のズレを極力なくしたいと思っていました。
ーみらい創生課からお話を聞いた時はどんなことを思いましたか。
齋藤 最初の段階では、いったい誰が中心になって提案書をつくるつもりなのかと疑問に思いました。まずは「みんなで意見を出し合って、頑張ればなんとかなるだろう」といった空気感はあったと思います。 しかし、いろいろな意見や考えを抽出し、文字にするまではできたとしても、図面やイメー ジ図など作成し、企画提案を行っていく作業はそんなに単純で簡単なことではありません。
また、企画提案型のコンペ方式ですので、通常であればコンサルタントや設計事務へ外注する案件です。それを行政とミラツナ会議でやるわけですから、最終的に「できなかった」となる可能性もあると思っていました。
とはいえ、道筋がないわけではないと思っていたので、時間のかかる図面などの下準備から進めていくことにしました。私は設計事務所で働いていたこともあって、コンペの経験もありました。ただ、今回は「行政」という立ち位置で申請することになるので、進め方や町民との合意形成をどのように進めていけばいいのか、いろいろと考える部分は多かったと思います。
■町民の考えが織り込まれた申請書作成へ
ー提案書を作る際に、どのような点を重視しましたか。
齋藤 意識した点は3つほどあります。1つ目は、全国的に応募がある事業なので、柳津町の特徴を出し、 目に留まる提案をする必要があると考えました。
2つ目は、既存施設を利用した、実現可能な計画にすることです。エリア型の施設構成とすることで、環境負荷に考慮した提案としました。
そして、3つ目は「サステナブル」な計画にすることです。ハード・ソフトの両面で持続可能な 計画でなければ意味がありません。
そのため、ハード面では、できるだけ既存施設を利活用し、いくつかのエリアを構成しました。 各エリアをモビリティで結ぶことで、回遊を生むような仕掛けとしたのです。ソフト面では、持続可能な収益を得るため、行政や民間企業、第三セクターなどからなるコンソー シアムを形成し、最終的には自立した経営体制を目指す計画としました。
他にも、道の駅は観光客に訪れてもらうだけでなく、町の子どもたちがICチップ付きのカードで入場し遊べるようにし、かつ保護者はその通知を受け取れるようにしておいて子どもの居場所を把握できるという仕組みも構想しました。
さまざまなメンバーが集うミラツナ会議だからこそ多様な意見が出てきましたし、加えて、柳津町CDO(最高デジタル責任者) 藤井靖史先生やアドバイザーの石井重成先生のサポートもあって提案内容を形作っていくことができました。
樋 町民が「どういうふうに考えているか」を聞ける場は、非常にありがたいです。職員もこの町に住んでいますが、やはり立場が異なると見えるものが違いますよね。こうした情報を聞ける会議体があること自体、かなり貴重なことなのではないかと思っています。
ーミラツナ会議の中で議論はどのように進められていきましたか?
齋藤 ミラツナ会議は住民からなる会議体なので、バックグラウンドや持っている知識もまちまちです。時には「ああしたい」「こうしたい」と議論し合うことも大事ですが、今回はなんといっても短期間のプロジェクトでしたからね。議論を深めるというよりは、どんどん具体化していくことが重要だと考えました。そこで、事前に図面やイメージなどのたたき台を作り、会議で詰めていくといったプロセス 重ねていきました。
樋 役所内に図面を描けるのは、建設課長を長く経験している職員など数名だけです。ミラツナ会議のメンバーが我が事として話し合えるように動いてくださった齋藤委員長の働きかけには助けられました。
石井先生のアドバイスもあり、申請内容を書き込んでいく「書斎」的な時間を設けようと、ミラツナ会議は木曜日に定期ミーティングを設定しました。
齋藤 行政と町民(ミラツナ会議)が一緒に未来を想像しながら企画提案を進めていくことは、とても重要なことだと思います。「町民参加型のまちづくり」というと聞こえはいいですが、やってみる と大変なことだらけ。ある種の覚悟がないとできないということを感じました。
■新たな事業を進めるプロセスの重要性
ー企画提案を進める中で、どのようなことに苦労しましたか。
齋藤 わかっていたつもりですが、行政内には企画をなかなかスムーズに進められない「壁」があるこ とは実感しました。例えば、各課の協力や承認をどのように得るか、議会への説明をどう進めるかなど、民間企業であれば必要のないような手続きや手順のようなものが存在します。それが一概に悪いわけではありませんが、そのプロセスに多くの時間と労力が必要だということも事実でした。
樋 今回の申請事業への挑戦の中で、新たな企画内容を決定するまでのプロセスが役場の中に確立されてないということが明らかになりました。課を隔てた時に、どう事業を組んでいったらいいのかが見えていないのです。この意思決定のプロセスや方法を決めていかなければ、これから未来に向けた事業は進めていけないだろうという課題意識を持ちました。
齋藤 町が行う事業は様々で、各課で完結する事業もあると思います。しかし、今回のような「町」 としてのプロジェクトは、縦割りの行政の壁をこえた協力体制やプロセスを構築しないと具現化することは難しいと思いました。
ミラツナ会議は町民の会議体でしかありません。行政と町民が一緒に問題解決に取り組んでいく、または事業について提案していくといった連携を図ることが、ミラツナ会議の存在意義になるのではないでしょうか。
■挑戦で得られた大きな財産
ー今回のB&G財団への企画提案の成果を教えてください。
樋 残念ながら、審査は通過ことができませんでした。柳津町だけでなく、今年度はどの自治体も審査を通過することができなかったようです。ただ、私は今回挑戦したことによって、得られたものも大きかったと思っています。一番の財産は、みんなで話せる機会を設けて、最後まで形にできたという体験です。
他にも、今後につながる知見を2つの側面から蓄積できたと感じています。1つは、今回具体化させた計画が今後の施策の道しるべの一つになるということです。せっかく町民と行政が一緒になって作った計画ですから、たとえ助成金はなくとも、できるところから実施を検討していくことが重要だと思います。
もう1つは、課同士が連携して事業に取り組んでいける構造作りの必要性が見えたことです。こうした構造を作っていけば、いざ新たな事業を始めるときに今回よりもスムーズに進めていけるはずです。例えば、課長段階での意志決定の際に現場の者の意見も交える場を設け、「今回は、この課同士で連携しよう」といったことを取り決める仕組みを組み込むといった方法があるのではないでしょうか。また、個々の職員が自分の業務に精一杯の状態では新たな仕事に前向きに取り組みにくくなります。そのため既存業務の交通整理も重要になってくるでしょう。
齋藤 確かに、関連事業に関しては、各課を含めた行政全体が一体的に検討・実行していくことが重要ですね。私は、まずは行政がそのようなイメージを共有することが大切だと思います。
今回のプロジェクトでは、こういった事業規模の企画提案でも、行政と町民が協力することで、進めていけるということが確認できました。こんな大掛かりな挑戦ができるのであれば、これからさまざまな案件にも挑んでいけるはずです。行政のイメージや思惑だけで事業方針を決定するのではなく、そこにミラツナ会議のような民意が組み込まれていく仕組みが重要なのだと思います。
そして、これからの事業についても「エビデンス(根拠)」に基づく施策を行っていくことが重要で、事業を実行した後の「検証」も必要なことの一つです。現在、柳津町ではEBPM(エビデ ンス・ベースト・ポリシー・メイキング)を用いた取り組みをスタートさせました。まずは現状を把握し、有効な企画立案を行っていけるといいですね。
樋 改めて、町として「こうしていきたい」という方向性があり、それに対して助成金を申請するという建て付けにしていかなければいけないと感じているところです。そのためには、私たち行政側の体制も整えていかなければいけません。
最近では、若い職員がみらい創生課やミラツナ会議について、「どんなことをしているのか知りたい」と言ってくれるようになりました。おそらく、「町に対して何か貢献したい」「町の未来に関わる仕事を楽しみたい」という思いが強まっているのだと思います。そうしたパワーを大切に活かしながら、できることを進めていきます。
齋藤 今回の挑戦は、ミラツナ会議のメンバーが初めて参画した企画提案で、新たな経験を積むことが できました。行政側との共同作業で見えた問題や課題もあります。このような取り組みをさらに波及させていく方向性が見えたことが、今回の成果だと思っています。
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