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【EBPM実践チームD2PA×みらい創生課】データで見る、柳津町の観光の可能性<後編>

福島県柳津町は町民参加のまちづくりを目指し「ミライツナガル会議(以下、ミラツナ会議)」を開催しています。昨年度から、ミラツナ会議と共にEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)に重きを置く施策立案や検証に向けてD2PAと協働をしています。前編に続き、今回はD2PAのメンバーである渡邊慧さんと橋本怜弥さんからなされた「2023年度中間報告」の内容から具体的な提案を交えた「後編」をお届けします。

<「2023年度中間報告」前編はこちらから>
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■全国の国内旅行の動向との比較

問題意識を伺った二つの分析を行う過程で、柳津町を訪れる観光客の属性を様々見ることになったのですが、その中で柳津町の今後の観光戦略に示唆を与えうる、興味深いトレンドを発見しましたので、今後の観光戦略に関する提言としてお聞きいただければ幸いです。

端的にいえば、国全体の国内旅行の傾向と比較すると、柳津町については、20代・30代のヤング層の観光客が少ないということが見てとれました。今後の町民センターの改修を検討する際、周辺の民間宿泊施設との競合を避けるという観点において、今柳津町に多く訪れている年齢層・年代層をターゲットにするのではなく、現在柳津町に訪れていない、新しいターゲットに来てもらえるような仕掛けをしていけるとよいのではないか、ということをご提案したいと思います。

つまり、私たちは新たな顧客層を取り込む観光戦略を立案していくのがよいのではないかと感じており、具体的には、ヤング層やインバウンド旅行客が、魅力的なターゲットであるのではないかと考えています。

具体的な分析をいくつかご紹介します。

位置情報データを使い、町民センターと「宿A」への宿泊旅行客の年代構成を分析しました。町民センターと比較すると、「宿A」は60代以上の利用客がかなり多いということが見えてきました。しかし、そもそも町民センターも「宿A」も20代の宿泊客がほぼおらず、30代の割合もかなり低い状況にあります。

全国の宿泊旅行客は30%以上が20代30代のヤング層なのに対して、柳津町の道の駅エリアには18%しか訪れていません。全国的な傾向と、年齢層の内訳がだいぶ異なっているといえます。

また、20代・30代は「あまりお金を使わない」というイメージもあるかもしれませんが、「じゃらん」調べによると旅行における現地消費額が最も多いのはヤング層だということが明らかになっています。20代・30代は、国内旅行業において大きなインパクトを持っている層であるといえるのです。

また、インバウンド旅行客についてはコロナ禍で減少したものの、2000年からの傾向を見ると大変な勢いで増え続けています柳津町のデータにおいても、コロナ禍までは堅調に右肩上がりで増え続けてきました。実際に、先日、柳津町に訪問させていただいた際にも、インバウンド旅行客の方が多く、円蔵寺や街並みを散策されているのを見かけました。

柳津町の現在の旅行者の内訳と日本全体のトレンドを見比べると、ヤング層やインバウンド旅行客など現在訪れていない層の中に魅力的な層がいることが見えてきます。「現状の旅行客の奪い合い」という発想ではなく、今柳津町を訪れていない新しい層に魅力を届けるという前提で考えていけるとよいのではないでしょうか。

町民センターの改修も含めた観光戦略をそういった方向性で構築していくことで、民間業者の方々との関係性という観点においても、よりポジティブな成果につなげていくことができるのではないかと感じます。

■広告の効果検証に関するご提案

これまでも柳津町では、多様なエリアに広告を出してきているかと思います。今回のご提案では、今後、新たな観光客の開拓をしていく際にはどのようなエリアが選択肢になりうるのかを検討していきたい思います。

1年間を通して見ますと、福島県内からの来訪者が多い状況です。また、柳津町のイベントの中で最も集客力があるのは、個人的には花火大会ではないかと予想していたのですが、10月・11月という紅葉の時期が最も多いことがわかっています。特に新潟県から来ている観光客も多いです。

なお、8割以上は町外からの訪問者が占めています。このような観点から見た時も、柳津町は町外の人を惹きつける魅力を持っているといえるのではないかと考えています。ちなみに、県内からの来訪者の中では、会津若松市、郡山市などが上位を占めています。

続いて、現在の広報活動の状況を整理します。半分以上は福島県を対象として、地元紙で広報活動を行っています。一方で、紅葉などの来訪客の状況を鑑みると、例えば新潟県からも多くの来訪者が来ていることから、これまで広報活動が少なかった地域にも目を向けていくと効果的なのではなかと考えています。

現状、柳津町の円蔵寺や道の駅、温泉などの観光資源について、他地域の方が知る機会が少ない状況です。柳津町の魅力を認知すれば来てくれる人たちが多い地域に対して広告を打つことが、特に効果があると考えられるでしょう。

そこでまずは、「柳津町のことを知ったらより多くの旅行者が訪れてくれそうな地域はどこか」を特定することが重要です。

もう一つの方法は、他の観光地を分析して、どのような地域から旅行者が来ているかを分析することで、柳津町が狙うべき地域を選定するというアプローチです。例えば、首都圏からの来訪者は少数派です。そこで、「福島県内において首都圏民をうまく取り込めている市町村や施設はどこか」ということを、KDDIロケーションアナライザーによって分析し、その特徴を調べていくという方法が考えられます。

以上のような検証により、どのような広告の内容にすればよいかという検討や、今後柳津町でどういったアクティビティを誘致すべきかというコンテンツ検討の際の参考にもなると思っています。

8月の時点で分析した状況によると、基本的には距離が近いほど滞在者が多い傾向があることがわかっています。

では、近隣の市町村は十分に開拓されているかを見ていきましょう。人口に対して、どのくらいの滞在者がいたかを確認することで検証することができます。

例えば、会津若松市の場合は「滞在者/人口」は約117%となっています。ざっくりした計算でいうと、会津若松市民は年に1回は必ず柳津町を訪れていることがわかります。実際には重複している方もいますが、そのような見方もできます。

一方で、福島市は人口も多く距離も67キロほどしか離れていないにもかかわらず、柳津町へは約10%しか訪れていません。

さらに、新潟県新発田市に関しても約9%のみになっています。こういったエリアは「柳津町を訪れるポテンシャルがある」と見ることができ、広告を打った際に高い効果が見込めるのではないかと考えています。

広告方法の確立と検証についてお話しします。EBPMのアプローチでは、まずはそもそもどういう人たちが訪れているかという属性の把握を行います。出身地域や時期による変動など、そういった現状の調査を行った上で、どのようなターゲットを狙うかを決めます。

先述しましたが、現時点だと福島県内での広告が多いのですが、例えば若者やインバウンド観光客を狙うとなれば、別の地域が候補になりうるしょう。分析によって重点的に広告を行うべき地域をリストアップし、実際にどこに広告を打っていくかを決定した後に、その成果を検証します。

まとめると、「①現状(結果)の調査→②ターゲット地域・層の選定→③広告内容の決定と実施」というサイクルを回し、分析をすることが重要だと考えています。

効果検証の際の評価手法は2つ考えています。一つ目は、時系列で比較することです。例えば、下記のグラフは紅葉期間の休日中に新潟県からの平均滞在者を表しています。2022年までの数値があるので、新潟県に広告をより打った際にはどういうふうな変動をするかを時系列で比較するといった方法を取ることができます。

二つ目は、新しい地域に対して広告を打った場合に、他の地域と比べて、当該在住者からの来訪が増えたかどうかを、地点間の比較によって評価することができます。

■今後の調査の方向性

柳津町では、施設ごとに滞在する人の傾向や出身県、性別、年齢層が異なることがわかっています。例えば、会津柳津駅舎や円蔵寺は60〜70歳以上が多いです。一方で観光案内所は、30代の若者が比較的多いという結果が見えています。

また、性別による比率では、円蔵寺は特に女性比率が高いことがわかっています。

さらに、柳津町の特徴として、コロナ禍の2019・2020年では全国の傾向に反して、円蔵寺の訪問者は増加していました。
(補足:この時期に円蔵寺の来訪者が増加したのは、丑年寅年が円覚寺の守り本尊であり、12年に1度のイベントとして宝物殿の開館などを行っていたことが起因することが判明しました。)

さらに、柳津町の観光施設と町外の観光施設とで訪問者にどういった違いがあるか、その属性を分析し、ヤング層を狙うのであれば若者が来やすい施設の内容やコンテンツ作りの知見を蓄積していくことが重要になるでしょう。

柳津町内のスポットに関しても、より人気の観光スポットはどこかを明らかにしていくことが求められます。仮に新潟県に広告を打つとするならば、新潟県民から人気のあるコンテンツ内容にすべきなので、そのための調査・分析が必要です。

さらに、イベントの効果分析も行なっていきたいと思います。下記の図の通り、2023年2月1日から28日まで、道の駅の滞在分析を行いました。基本的に冬に柳津町を訪れる方は少ないですが、2023年2月4日は突出して訪問者が多いという結果となりました。特に東京都などの県外からの訪問者が多いです。

この2023年2月4日は、冬祭りのイベントがあったということが明らかになっています。我々はデータとしてイベントの影響を把握できますが、具体的にどういったイベントがあったのかという情報は持ち合わせてはいないので、「こういったイベントが過去行われていた」「このコンテンツの影響を調べてほしい」という情報をご提供いただけると大変ありがたいです。

また、柳津町の観光戦略に合わせて、比較対象とするロールモデルとなる市区町村があればお教えいただきたいと考えています。なお、 広告対象地域の選定については、 柳津町における観光資源と時期、イベントの開催場所と時期のリストアップをすると、より的を射た調査結果になると考えています。

■柳津町役場・ミラツナ会議メンバーよりコメント

「インバウンド客を受け入れたいと思っていても、そのターゲットの気持ちが全くわからないという可能性があります。今後調査をすることによって、そのあたりが明らかになっていくと考えています。どうリソースを投下していけばいいのかということが、データ的に見えるということが重要ですよね」

「『こういうデータを取っていきたいのでご協力いただけませんか』と各宿に協力をあおいでいきたいとも感じました。小さな宿などは単独で広告は打てないので、今は、町が代わりにまとめて広告しています。一方で、各宿の視点に立てば、『町が勝手に実施している』と見えいる可能性もあります。町が行っている広告を効果測定できると、『町がやってくれているので、こんな効果がある』ということが見えやすくなるのではないでしょうか」

「イベントの効果があることはわかりましたが、今後はARPU(Average Revenue Per User)という『お金が地域にどれだけ落ちたのか』も紐解く必要があります。そうした効果が見えるようにすることで、地域におけるイベント疲れも防ぐことができるでしょう。そして、ARPUができれば、戦略的に取捨選択していくことも可能ではないでしょうか」

「駅舎と円蔵寺を比較すると、若い方が駅舎の方に多く来ていることがわかります。その点からも、駅からの街歩きを楽しめる町づくりが求められるのではないかと思います」

■小林功町長からのコメント

柳津町を訪れてくれるお客様の中でヤング層が非常に少ないという指摘をいただき、薄々感じていましたが、データで示されてややショックを受けました。さらに、その中で「ヤング層が意外と消費額が大きい」ということにも驚きました。

若い人たちに柳津町を認知いただけていないのか、若い人が「行きたい」と思うような資源がないのか。あるいは、資源があったとしても、それを磨いて発信することができていないのか。そのあたりを把握していかなければいけないでしょう。色々教えてもらいながら、若い人が柳津町を訪れてくれるような取り組みや方向性を探っていきたいと感じました。

今後の公共施設や観光について方向性や判断をしていく上で、データに基づく分析は本当に大事なことであると改めて考えています。示唆をいただき、ありがとうございました。

※D2PAでは自治体様からの協働のご相談を随時受け付けています。下記メールアドレスまでご連絡ください。  お問合せ:d2pajapan@gmail.com

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