マイペースなニホンカモシカ
背の低い山の崖に、一匹のニホンカモシカが住んでいました。
アホと呼ばれていました。
アホはいつも一匹で崖にいました。
ある晴れた日、サルの家族が山にやってきました。
「ねえ、アホさん。なんで君はいつも一匹なの?」
「私たちサルはみんなでいるのよ。一匹は寂しいでしょ?」
アホはむしゃむしゃと木の芽を食べています。
「別に寂しくないよ。気楽だよ」
「そんなの嘘よ。絶対寂しいはずよ」
サルのお母さんが言いました。
背中には子ザルがのっています。
子ザルがお母さんの背中から下りてアホに近づこうとしました。
「だめよ。そっちは崖で危ないから。それに、一匹でいるのが好きだなんて、嘘を言っているんだから、近寄っちゃだめよ」
子ザルはお母さんの背中にギュッとしがみつきました。
アホは、何も言わずただ崖で木の芽を探していました。
やがてサルたちは、山を下りて里に向かいました。
アホは、サルたちが群れで歩く姿を目で追いました。
みんなで行動するのは大変そうだな―—
葉っぱを食べながらアホはそう思いました。
アホは崖の下の方に下りていきました。
美味しそうな葉っぱを見つけたからです。
その時、足が滑りました。
近くの小石が転がり落ちました。
もし落ちたら怪我をしそうな高さです。
でも大丈夫。
アホは、ひょいと近くの岩場に足をうつしました。
丈夫な蹄があるので急な斜面でも立っていられるのです。
少し疲れたな。休憩しよう―—
崖を上がり、山に向かいました。
アホは、大きな木の側に座りました。
ああ、いい天気で気持ちがいいな――
何だか眠くなっちゃうな――
アホが目を閉じて休んでいると、あたりが騒がしくなりました。
「カアカア。ねえ、君はこんなところで何してるのさ」
カラスの群れがやってきました。
「こんな天気のいい日に友達と遊ばず、一匹でボーっとしているなんて、もったいない」
一羽のカラスが言いました。
「君は友達がいないのかい? じゃあ、僕たちと遊ぼう」
カラスが誇らしげに言いました。
アホは、ふうっとため息をつきました。
「カラスさん。ありがとう。でも、僕はこうして一匹でいるのが好きなんだ」
アホは穏やかに言いました。
「せっかく誘ってあげたのに、嫌な奴だね、君は」
カラスたちはどこかへ飛んで行ってしまいました。
黒い翼が空に舞う姿をアホは眺めていました。
飛べるっていいな。空を自由に飛んだら気持ちいいだろうな―—
でも、僕には翼はない。それに、今のままでも幸せだし、まあいっか――
お昼寝をしたアホはまた崖に向かいました。
ここから眺める景色は最高だな――
むしゃむしゃと木の芽を食べ始めました。