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抵当権の基礎知識

住宅ローンを組めば、金融機関が自宅などの不動産に抵当権を設定することが一般的です。
銀行などから事業を営むための資金の融資を受けるために、根抵当権が設置される場合もあります。
抵当権という言葉を知らない人はほとんどいないでしょう。でも、どういうものか説明を求められたら言葉に詰まってしまうのではないでしょうか。
抵当権はなぜ設定されるのか、どのような仕組みなのかなどについてお話しします。


1 抵当権とは


抵当権とは、お金を借りる際に、土地や建物などの不動産を担保とするために設定される権利です。
 
(1)抵当権の仕組み
たとえば、甲さんが住宅を購入するために乙銀行から融資を受けるとします。
乙銀行は、甲さんが途中で返済できなくなり、融資金を回収できなくなっては大変です。
そうした事態に備えて、乙銀行は、甲さんが購入する住宅に抵当権を設定します。
もし甲さんが融資金を返済できなくなったら、乙銀行は抵当権を実行します。
住宅を差し押さえ、競売にかけることができるのです。
そして競売で得たお金から融資金の残額を回収できるという仕組みになっています。
 
なお、抵当権は登記されることにより、だれでもその存在を認識できるようになります。
もし、甲さんが住宅を勝手に丙さんに売却したとしても、抵当権が設定されていることがだれにでも分かる状態になっています。
つまり、丙さんは乙銀行の抵当権が設定されていることを認識して住宅を購入したことになるのです。
乙銀行は、丙さんに所有者が代わっても、抵当権を実行して融資金を回収できることに変わりはありません。
 
(2)抵当権のメリットとデメリット
 
①メリット
・金融機関から低金利で融資を受けられます。抵当権という担保があることにより融資金を回収できなくなるリスクが低くなるからです。
・金融機関のリスクが低くなるので、より多額の融資を受けられます。また、返済を長期間に設定できるため、月々の返済負担を抑えられます。
 
②デメリット
・抵当権の設定や抹消には税金や司法書士への報酬などの費用がかかります。
・返済が滞ると不動産が差し押さえられ、競売されてしまうリスクがあります。
・融資金を完済すれば抵当権を抹消できますが、その手続きを行わなければ不動産は売却できません。

2 抵当権の登記

抵当権の登記は、設定した抵当権を公的に記録する仕組みです。
 
抵当権設定登記は、抵当権が設定された不動産に対する権利を第三者に対して明確にするために行われます。
金融機関などの抵当権者は、債務者が返済できなくなった場合に不動産を競売にかける権利を確保できます。
登記の義務はありませんが、第三者に権利を主張するために登記するのが一般的です。
 
抵当権設定登記は登記簿(登記記録)につぎのように表示されます。

令和X年X月X日に甲山太郎が乙銀行から1,000万円を年利2.10%で借入れしたことがわかります。
しかし、この抵当権が現在も存在するのか、現在の借入残高がいくらかについてはわかりません。
 
また、ひとつの不動産に対して複数の抵当権が設定されることもあります。
登記申請の順に「順位番号」欄に番号が付されます。
競売の落札代金からの配当は、この番号順に受けることになります。
 
なお、抵当権設定登記には、登録免許税や司法書士の報酬がかかります。費用は数万円から数十万円程度です。

3 抵当権の性質


抵当権にはつぎの4つの性質があります。
 
(1)付従性
抵当権は、借入金などの被担保債権とともに成立、存続し、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します。
つまり、借入金が返済されると抵当権も自動的に消滅するのです。
 
(2)随伴性
抵当権は、被担保債権とともに移転します。
たとえば、銀行が他の金融機関に債権を譲渡した場合、抵当権もいっしょに移転します。
 
(3)不可分性
抵当権は、被担保債権が全額返済されるまで、担保となっている不動産全体に及びます。
たとえば借入金を半分返済しても、抵当権の範囲が不動産の半分になるわけではありません。
 
(4)物上代位性
抵当権を設定した不動産が売却されたり、損害保険金が支払われたりした場合、その代金や保険金に対しても抵当権を行使できます。
たとえば、火災で住宅が焼失した場合、火災保険金を借入金の回収に充てることができます。
ただし、抵当権設定者に保険金が支払われる前に保険金を差し押さえる必要があります。

4 抵当権と根抵当権との違い

 
根抵当権は、あらかじめ極度額(借入限度額)を設定し、その範囲内で何度も借入を行うことができます。
根抵当権は、借入と返済を繰り返せるため、企業間の取引や金融機関からの借入れなど、継続的な利用が必要な場合に適しています。
抵当権と根抵当権との相違点はつぎのとおりです。
 
①抵当権は特定の債権に対して設定されるのに対し、根抵当権は極度額の範囲内で複数の債権を担保します。つまり付従性がありません。
 
②抵当権は債権ごとに設定が必要ですが、根抵当権は一度設定すれば極度額の範囲内で何度も利用できます。
 
③抵当権は被担保債権が譲渡されればいっしょに譲渡されますが、根抵当権は被担保債権が譲渡されても随伴しません。つまり随伴性がありません。

5 抵当権の実行


抵当権の実行は、債務者が借入金を返済できなくなった場合に、債権者が担保に入れた不動産を売却して債権を回収する手続きです。
 
(1)裁判所への申立て
金融機関などの債権者は、担保不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して、担保不動産競売の申立てを行います。
 
(2)競売開始決定と差押え
裁判所が競売開始決定を行い、対象不動産の差押えが実施されます。
差押えにより、不動産の処分が制限されることになります。
 
(3)現況調査と評価
執行官が不動産の現況を調査し、評価人が不動産の価値を評価します。
その結果、競売の基準となる売却価額が決定されます。
 
(4)入札と落札者の決定
裁判所が入札を公告し、入札期間中に最高額を提示した者が落札者となります。
 
(5)売却許可決定と代金納付
裁判所が落札者に対する売却許可決定を行い、落札者が代金を納付します。
代金支払いにより落札者は不動産の所有権を取得します。
 
(6)債権者への配当
競売で得た代金から、債権者に対して債権の弁済が行われます。
残った金額があれば、債務者に返還されます。
 
なお、一般には、一度でも返済が遅れると抵当権が実行されるわけではありません。
返済条件の見直し(リスケ)をするなど返済できるよう対策を講じてもなお返済できない場合の最後の手段となることが多いです。

6 抵当権実行が賃借人へ及ぼす影響


一見無関係な賃借人が抵当権実行により立ち退きを迫られるケースもあります。
賃借人がいる建物に対して抵当権が実行された場合、賃借人はつぎのような影響を受ける可能性があります。
 
(1)抵当権設定の時期による影響の違い
 
①賃貸借契約が抵当権設定前の場合
賃借人は新しい所有者に対して賃借権を主張できます。
抵当権が実行されても賃借人はそのまま住み続けることができます。
 
②貸借契約が抵当権設定後の場合
賃借人は新しい所有者に対して賃借権を主張できません。
新しい所有者から退去を求められたら、賃借人は退去しなければならなくなる可能性が高いです。
ただし、所有者変更日から6カ月間は賃料を支払うことで退去を猶予される権利があります。
 
(3)敷金の扱い
競売によって所有者が変わった場合、敷金の返還請求権は新しい所有者に引き継がれないことが一般的です。
したがって、賃借人は旧所有者に対して敷金の返還を請求する必要があります。
 
(4)抵当権者の同意制度
賃借権が登記され、抵当権者全員が賃借権の存続に同意してその旨を登記すれば、賃借権は抵当権者に対抗力をもつことができます。
この制度を利用すれば、賃借人は退去しなくてすみます
 

 
金融機関に言われるままに抵当権を設定している方が少なくないでしょう。
抵当権が実行されてしまうと不動産を失ってしまうリスクがあることを認識し、正しい知識を身につけておくことが大事です。

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