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火災保険の水災補償の必要性を判断するには?

近年、自然災害が多発し、災害の規模や範囲も以前に比べて大きくなっています。
とくに台風や豪雨災害の増加が顕著であり、水災(水害)リスクが高まっていると指摘されています。
 
2024年10月に火災保険料が全国平均13%と過去最大の引き上げとなります。
直近6年で4度目の引き上げで、この5年で4割もの上昇となります。
 
また、これまで水災に対する保険料は全国一律でした。
しかし、地域によって水災リスクは異なります。
そのため、水災補償に対する保険料を水災リスクに応じた5段階に細分化されることになりました。
 
火災保険の水災補償とはどのようなものなか、必要なのはどのようなケースなのかなどについてお話しします。
 


1 火災保険の水災補償とは


水災被害のみを補償する保険はありません。
水災補償は、契約内容により異なりますが、一般的には火災保険に水災補償を付帯させることで加入できます。
 
①水災補償の対象
洪水、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、台風、暴風雨などによる建物や家財の損害が対象です。
 
②補償内容
水災による被害が発生した場合、修理費用や復旧費用、家財の損害、一時的な住居の費用などが補償されます。
 
損害保険料率算定機構によると、2022年度の火災保険における水災補償付帯率は約64.1%です。
近年は低下傾向にあり、ハザードマップ上で浸水リスクが低い契約者が水災補償を付帯しないケースが増えています。
全国一律の保険料に割高感があることが原因のようです。
 

2 水災被害により保険金が支払われるケース


(1)保険金支払いのための要件


水災被害による火災保険金は、一般的にはつぎの要件を満たした場合に支払われます。
 
①建物や家財の保険価額の30%以上の損害を受けた場合
保険価額とは、保険の対象である建物や家財を金銭的に評価した金額のことです。
水災(保険事故)が発生した場合に被保険者が受ける被害は最高でどのくらいになるかを見積もった金額です。
被害が保険価額の30%以上に相当する場合、火災保険金が支払われます。
 
②床上浸水または地盤面から45㎝を超えて浸水した場合
家財を収容する建物の居住部分が床上浸水したり、地盤面から45㎝を超えて浸水したりした場合、保険金が支払われます。
 
なお、床上浸水と床下浸水の違いはつぎのとおりです。
 
㋐床上浸水
住宅の床の上に水が浸入することを指します。
床や家具、家電などが水に浸かり、損傷を受ける可能性があります。
排水、汚泥掻き出し、浸水した部分の乾燥、消毒が必要になります。
 
㋑床下浸水
建物の床より下の部分が水で浸かる被害を指します。
地盤や基礎、配管、電気設備などに損害を与える可能性があります。
床下の排水、洗浄、乾燥、消毒が必要になります。
 
多くの住宅の1階の床面は地盤から50cm程度の高さになっています。
また、床下浸水だけで建物の保険価額の30%以上の損害を受けるケースもそうありません。
そのため、床下浸水は補償の対象外となることが多くなります。
 

(2)火災保険の種類による違い


住宅建物の損害を補償する保険は、住宅火災保険と住宅総合保険の2種類があります。補償範囲につぎのような違いがあります。
 
①住宅火災保険
火災、落雷、爆発、破裂、風災、ひょう災、雪災による損害を補償します。
洪水や床上浸水といった水災は補償されません。
 
②住宅総合保険
住宅火災保険の補償範囲に加えて、外来物の落下・衝突・水濡れ、騒じょう・労働争議、盗難、水災による損害なども補償されます。
住宅総合保険は補償範囲が広く、特に家財の損害に対して手厚いです。
ただし、保険料が高めになります。
 

3 水災補償の保険料


(1)水災補償の有無による保険料の違い


火災保険の保険料は、水災補償の有無によって異なってきます。
水災補償に加入すると、台風や集中豪雨による浸水被害なども補償される分、補償項目が増えるため保険料は高くなります。
戸建住宅よりもマンションのほうが保険料は低くなることが多いです。
水災被害に遭うリスクと保険料とを個別ケースごとに比較検討することになるでしょう。
 

(2)水災補償に対する保険料率の細分化


これまで水災の保険料率は全国一律でした。
2024年10月から、水災リスクに応じて市区町村単位で5段階に料率が細分化されます。
リスクの違いに応じた公平な保険料負担を図ることを目的としています。
 
もっともリスクの低い「1等地」からもっとも高い「5等地」まで、保険料が細分化されます。
1等地の保険料は細分化しなかった場合と比べて約6%低い水準となります。
一方、5等地の保険料は約9%高い水準となります。
保険料がもっとも高い地域はもっとも安い地域に比べて、約1.2倍の保険料になります。
自分が住んでいる市区町村が何等地なのか知りたい場合は、損害保険料率算定機構サイト内の「水災等地検索」で調べられます。
 
なお、火災保険料が引き上げられる前なら引き上げ前の保険料で契約できます。
火災保険の契約期間が5年以上など多く残っているなら、解約して契約し直すよりもそのまま継続した方がお得な場合もあります。
 

4 水災補償加入を検討する際のポイント


水災補償への加入を検討する際には、保険料と補償範囲を比較検討し、自身のニーズに合ったプランを選ぶことが重要です。
水災補償加入の要否を判断する際に考慮すべきポイントはつぎのとおりです。
 
(1)地域のハザードマップを確認
自宅周辺の水害リスクを理解するために、ハザードマップをチェックしましょう。
国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で検索して調べられます。
洪水や土砂崩れの発生が予想される地域は水災補償の必要性が高くなります。
 
(2)下水道管の位置を確認
下水道管が近くにあるかどうかを調査しましょう。
下水道の詰まりや浸水が起きる可能性が高い場合、水災補償の必要性が高くなります。
 
(3)家の周りの斜面や高台を確認
土砂崩れのリスクがある斜面や高台に住んでいる場合、水災補償の必要性が高くなります。
 
(4)マンションなどの場合は共用部分に注意
マンションの駐車場などの共用部分が浸水しやすい場合、水災補償を検討しましょう。
 
(5)昔の地名や神社が手掛かりになる
昔から水害が起きやすい地域は、地名に表れていることがあります。
また、治水のために神社を造ることもあり、その由来からわかることがあります。
 

5 不動産取引時の水害リスクの説明


宅地建物取引業法施行規則により、不動産業者に義務付けられていることがあります。
不動産の取引時に、契約前の重要事項説明のなかで水害リスクに関する情報を購入者に提供することです。
 
(1)水害ハザードマップの提示
宅地建物取引業者は、水防法に基づき作成された水害ハザードマップを提示します。
取引対象物件の概ねの位置を示すことが求められます。
 
(2)避難所の位置の説明
ハザードマップ上に記載された避難所の位置を示すことが望ましいとされています。
 
(3)水害リスクの誤認を避ける配慮
対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって相手方が水害リスクを誤認しないように配慮することが望ましいとされています。
 

 
水災補償に加入するかどうかは、建物の立地や構造などによって個別に判断することになります。
補償内容と保険料との比較も必要です。
近年、水災被害が増えていることから、必要に応じて専門家からアドバイスも受けながら慎重に判断することが大事です。

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