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「第3号被保険者」は有利なのか不利なのか?
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第3号被保険者について廃止も含めた見直しが議論されていますが、政府はなかなか結論を出せないようです。
年収の壁を意識した働き控えをするほうがよいのか、それとも年収の壁を越えて収入を増やすほうがよいのか、どうなのでしょうか?
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(1)第3号被保険者でいることにはメリットもデメリットもある
①第3号被保険者とは何か
「国民年金第3号被保険者」は、つぎのすべての要件を満たす人が該当します。
㋐厚生年金保険の被保険者(第2号被保険者)の配偶者であり、20歳以上60歳未満であること
㋑日本国内に住所を有すること
㋒第2号被保険者の収入により生計を維持すること(生計維持関係が認められるためには年間収入が130万円未満であることが必要)
②第3号被保険者制度が導入された経緯
1961年に国民年金制度が始まり、全国民が公的年金に加入する「国民皆年金」が実現しました。
自営業者の妻は夫婦で自営業を営むと考えられ強制加入となった一方、会社員世帯の無収入である専業主婦は任意加入とされました。
しかし、未加入のままでは離婚した場合や老後に無年金や低年金に陥るリスクがあったのです。
そこで、1986年に第3号被保険者制度が導入され、会社員世帯の専業主婦は保険料を徴収しない形で強制加入となりました。
その結果、専業主婦が保険料を支払わずに年金を受給できるようになったのです。
③第3号被保険者のメリットとデメリットを比較
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さらに、第3号被保険者には、離婚するとつぎのようなリスクや不利な点があります。
㋐年金分割の不確実性
離婚時に年金分割が行われる場合、配偶者の同意が必要なので、同意がなければ年金分割が難しくなるケースもあります。
㋑経済的自立の難しさ
第3号被保険者は収入が限られているため、離婚後の経済的自立が難しくなる可能性があります。
とくに、長期間にわたり第3号被保険者であった場合は再就職や収入の確保が課題となるケースもありえるのです。
㋒年金受給額の減少
第3号被保険者は国民年金のみを受給するため、厚生年金に比べて受給額が少なくなります。
離婚後の生活費を賄うために、ほかの収入源を確保しなければなりません。
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(2)第3号被保険者制度の議論のポイントと今後の方向性 ~ 廃止や縮小の方向にある
第3号被保険者制度の廃止や制度改正に関する議論は、近年ますます活発化しています。
議論のポイントや今後の方向性はつぎのとおりです。
①公平性の確保
第3号被保険者は保険料を負担せずに基礎年金を受給できるため、共働き世帯や単身世帯と比べて不公平だという指摘があります。
②就労調整問題
年収が一定額を超えると扶養から外れ、保険料を負担しなければならなくなります。
そのため、多くの第3号被保険者が就労時間を調整している現状があります。
③社会構造の変化
共働き世帯の増加や女性の社会進出が進むなかで、専業主婦を前提とした第3号被保険者制度は時代にそぐわないとの意見があります。
④段階的な廃止
厚生労働省は、第3号被保険者制度の廃止を検討する方向性を示しており、段階的に廃止される可能性があります。
⑤社会保険の適用拡大
社会保険の加入要件が拡大され、第3号被保険者の数が減少する見込みです。
⑥女性の経済的自立支援
女性の経済的自立を促進するため、働きやすい環境の整備や支援策が検討されています。
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(3)現在と将来のそれぞれの視点から第3号被保険者のメリットとデメリットを考えて自分に最適な選択をする
ここでは、第3号被保険者でいる場合を「年収の壁の範囲内で働く」、それ以外の場合を「年収の壁を超えて働く」とします。
第3号被保険者が廃止されたり縮小されたりした場合も「年収の壁を超えて働く」に含めることにします。
簡単に言えば、「年収の壁の範囲内を超えて働く」と、現在の税金や社会保険料などの支払い負担が増えて手取り収入が減ります。
その代わり将来の収入は増えることになるのです。
現役世代である現在と老後世代である将来のそれぞれの視点からメリットとデメリットを比較するとつぎの表のとおりとなります。
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第3号被保険者でいることがよいのかそうでないかは、こうしたメリットとデメリットを考慮して判断する必要があります。
そして自分のライフスタイルや将来の計画に合わせて最適な選択をすることが重要なのです。
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具体的なアドバイスやシミュレーションについては、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談するとよいでしょう。