育児休業取得促進に向けた最近の法改正
わが国の出生数は、2000年代初頭には年間約120万人の出生数がありましたが、減少傾向が続いています。
2016年には初めて100万人を下回り、その後も減少が続いています。
2023年は約73万人でした。
政府は、2033年には80万人、2046年には70万人、2058年には60万人、2072年には50万人を、それぞれ下回ると予測しています。
出生数の減少は、少子高齢化社会の進行を示しており、社会全体での対応が求められています。
総務省統計局「労働力調査詳細集計」によると、2023年には、共働き世帯数は約1,278万世帯まで増加しています。
一方、専業主婦世帯数は約517万世帯に減少しました。
女性の社会進出や働き方改革の進展に伴い、共働き世帯数は今後も増加傾向が続くと予測されています。
共働き世帯の増加に伴い、家庭と仕事の両立を支援する政策や制度の充実が求められています。
少子化の進展と共働き世帯の増加のなか、育児休業を取りやすい環境を整備するための最近の法改正についてお話しします。
1 育児休業取得率
育児休業取得率の男女別の推移はつぎのとおりとなっています。
厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」から引用します。
2023年度の男性の育児休業取得率は30.1%で、前年の17.1%から大幅に増加して過去最高となっています。
一方、女性の育児休業取得率は、2009年以降8割台で横ばいとなっています。
2023年度の女性の育児休業取得率は84.1%でした。
男性の育児休業取得率は増加傾向にありますが、依然として女性に比べて低い水準にあります。
2025年に50%という政府目標達成に向けてさらなる上積みが必要となっています。
また、女性は6カ月以上が92.5%と、長期間の育児休業を取得する傾向が強くなっています。
一方で、男性は1カ月未満が58.1%と、短期間の取得が多い傾向がありますが、2週間以上取得する割合は増加してきています。
2 妊娠・出産・育児期の両立支援制度
働く人々が仕事と家庭を両立しやすくするためのさまざまな制度があります。
3 2025年改正育児・介護休業法
(1)改正の経緯
厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」(2023年6月19日)ではつぎのような課題を指摘しています。
①男性の育児休業のさらなる取得促進
女性労働者に育児休業の利用や育児負担が偏っており、キャリア形成上の課題が生じている。
②子の年齢に応じた残業をしない働き方や柔軟な働き方、休暇のニーズへの対応
柔軟な働き方へのニーズは男女ともに小学校就学前の間も見られる。しかし、所定外労働の制限(残業免除)は現在3歳になるまでに限られ、テレワークの導入は育児・介護休業法上規定されていない。
また、子の看護休暇制度は小学校就学以降の子が対象外であり、休暇取得事由が限定されており、ニーズに十分に対応できていない。
③多様な状況にある子や親に関するニーズへの対応
障害児や医療的ケア児を養育する場合のニーズなどに十分に対応できていない。
そこで、働く人々が育児や介護と仕事を両立しやすくするため、2024年5月に改正育児・介護休業法が公布されました。
以下、育児に関する部分のみを取り上げます。
(2)2025年4月1日施行の改正点
①所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲の拡大
現行の3歳未満の子から、小学校就学前の子までが対象となります。
②育児のためのテレワークの導入が努力義務化
3歳未満の子を育てる労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが事業主に努力義務化されます。
③子の看護休暇の見直し
④育児休業等の取得状況の公表義務の拡大
常時雇用労働者数が300人(現行1,000人)を超える企業に対して、育児休業等の取得状況の公表が義務付けられます。
(3)2025年10月1日施行予定の改正点
①柔軟な働き方を実現するための措置の義務化
3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置を事業主に義務化します。
事業主は、つぎのなかから2以上の制度を選択して措置する必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(10日/月)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(10日/年)
・短時間勤務制度
労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
事業主が措置を選択する際、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。
事業主は、選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認の措置をとる必要があります。その方法は、面談や書面交付等とされる予定です。
②仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化
妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務づけられます。
意向聴取の方法は、面談や書面の交付等とされる予定です。
さらに、指針で次のようなことが示される予定です。
㋐自社の状況に応じた具体的な配慮の例
・勤務時間帯・勤務地にかかる配置
・業務量の調整
・両立支援制度の利用期間等の見直し
・労働条件の見直し など
㋑配慮に当たって望ましい対応
・子に障害がある場合等で希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長すること
・ひとり親家庭の場合で希望するときは、子の看護等休暇等の付与日数に配慮すること
育児と仕事の両立にしっかり取り組めるように環境が整備されてきています。
ご自身で休業制度などをよく理解して上手に活用することが大事です。