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奨学金は返還についても理解しておくことが大事
日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査」によると、奨学金を受給している学生の割合はつぎの通りとなっています。
大学(昼間部):55.0%
短期大学(昼間部):61.5%
大学院修士課程:51.0%
大学院博士課程:58.9%
大学生の2人に1人が奨学金を受給していることになります。
日本学生支援機構の奨学金は、返還が不要な給付奨学金と、返還が必要な貸与奨学金とがあります。
2022年度は、給付奨学金が34万人、貸与奨学金が113万人の学生に支給されています。
給付奨学金は、収入などの要件が厳しいため対象者が限られてしまいます。
そのため、貸与奨学金を活用する学生が多くなるのです。貸与奨学金は第1種奨学金(利子なし)と第2種奨学金(利子あり)の2つの種類があります。
昨今、社会人となってから収入が少ないなどの理由で奨学金の返還に苦しんでいる方々が少なくありません。
奨学金は、貸与を受けるときに、将来の返還についてもよく理解しておく必要があります。
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1 返還方法
奨学金の返還は、貸与終了の翌月から数えて7カ月目から始まります。原則として毎月27日に口座振替(引落し)されます。
返還方法は、(1)定額返還方式と(2)所得連動返還方式の2つがあります。
第1種奨学金(利子なし)は、(1)と(2)から選択できますが、第2種奨学金(利子あり)は(1)のみとなります。
(1)定額返還方式
月々の返還額が一定になります。
返還月額と返還年数は、貸与総額に応じて自動的に決まります。
月賦返還と、月賦半年賦併用返還の二つの方法があります。
①月賦返還
毎月同一額の返還となります。
②月賦・半年賦併用返還
貸与総額を月賦分と半年賦分とに二分し、それぞれの金額に応じた返還額が計算されます。月賦分は毎月、半年賦分は6カ月ごと(1月と7月)の返還となります。
採用時に提出する返還誓約書により①または②を選択しますが、提出後は原則として変更できません。
学校種別ごとの返還額の例がJASSOのホームページに掲載されているので参考になります。
(2)所得連動返還方式
前年の課税所得に応じて向こう1年間の毎月の返還額が決まります。毎年変動するので、変動に伴って返還期間も変わることになります。
2017年度以降に第1種奨学金に採用された方のみが対象になります。また、保証方式は機関保証(保証機関の連帯保証を受ける制度)のみとなり、人的保証(父母等の親族の保証)は選択できません。
(1)(2)のいずれも残額の全部または一部を返還する繰上償還ができます。お金に余裕があるときに一部繰上償還して、その後の返還を楽にするということもできるのです。
なお、機関保証の場合は、繰上償還すると保証料の一部について保証機関から返還される場合があります。
また、日本学生支援機構のホームページに奨学金貸与・返還シミュレーションがあります。いくつかの質問に回答することで、貸与総額や毎月返還していく金額、返還が完了となる時期等を試算することができます。
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2 利子、利率
第2種奨学金(利子あり)は、在学中は無利子ですが、貸与終了の翌月1日から利子が発生します。
ですから、返還が必要なのは貸与総額と利子の合計金額になります。
利率は、奨学金の申込時に「利率固定方式」または「利率見直し方式」のいずれかを選択することにより算定されます。
①利率固定方式
貸与終了時点で決定した利率が、返還完了まで適用されます。
②利率見直し方式
貸与終了時点で決定した利率を、返還期間中おおむね5年ごとに見直します。
いずれの方式も利率は年3%が上限です。
直近の利率は、日本学生支援機構のホームページで確認できます。2024年6月現在、①利率固定方式は1.24%、②利率見直し方式は0.6%です。
なお、利率の算定方法は、貸与が終了する一定期間前まで変更ができます。
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3 返還が困難になったとき(救済制度)
経済困難、失業、傷病、災害などにより返還できない事情が生じた場合は、返還月額減額と返還期限猶予という救済制度があります。
いずれの場合でも返還総額は変わりません。
(1)減額返還(返還月額を減額して返還)
当初の返還月額を1/2または1/3に減額し、返還期間を延長して返還することができます。
1/2に減額した場合は6カ月分の返還月額を12カ月で、1/3に減額した場合は4カ月分の返還月額を12カ月で返還することになります。
適用期間の上限は通算15年(180カ月)です。
なお、延滞している場合は減額返還の対象になりません。
(2)返還期限猶予(返還期限の先送り)
経済困難などの事情により返還が困難になった場合、返還期限を先送りすることができます。
通算10年(120カ月)が限度です。ただし、災害、傷病、生活保護受給中、産前休業・産後休業および育児休業などは、取得年数の制限はありません。
1年ごとに願い出る必要があります。
延滞者であっても、猶予事由に合った証明書が提出できる場合は猶予を願い出ることができます。傷病、生活保護受給中など、真に返還が困難な場合は、延滞分を据え置いて猶予を適用できる場合があります。
なお、返還期限猶予制度は、返還を先送りできますが、将来へ返還の負担を残すことになります。
将来の負担を少しでも軽くするために、無理のない限り、当初の返還月額を減額して返還する減額返還制度を利用するほうがよいでしょう。
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4 返還支援制度
(1)地方公共団体による奨学金返還支援制度
地方公共団体と地元産業界が協力し、地元企業に就職した者に対して奨学金の返還を支援する仕組みが設けられています。
日本学生支援機構のホームページで、「条件」や「大学名、団体名」から検索を行うことができます。
(2)企業の奨学金返還支援(代理返還)制度
各企業の担い手となる奨学金返還者を応援するための取組として、社員に対し、返還額の一部または全額を支援する制度があります。
日本学生支援機構のホームページで、「条件」や「企業等名」から検索を行うことができます。
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5 返還が滞った場合のペナルティ
(1)延滞金の賦課
約定の返還期日を過ぎると、延滞している返還月額(元金のみ)に対し、延滞金が賦課されます。延滞金は、年3%の割合で、返還期日の翌日から延滞している日数に応じて算出されます。
(2) 個人信用情報機関への登録
返還開始から6カ月経過後に延滞3カ月以上になった場合、個人信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター)に個人情報を登録する対象となります。登録されると、クレジットカードの作成や新規のローンの借入などが困難になる可能性が高くなります。
なお、登録された情報は返還完了から5年後に削除されます。
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奨学金は、経済的に厳しい世帯の学生でも教育機会を失わなくて済むというメリットが大きいです。
しかし、社会人になって返還のために生活が苦しくなっては大変です。返還できる無理のない範囲で貸与を受けることが大事です。
そして、なるべく、どのように返還していくのかをあらかじめ理解しておいたほうがよいでしょう。
もし、返還が厳しくなった場合は、救済制度を利用するなどして絶対に延滞しないことが重要です。できるだけ早めに対処することが、ペナルティを受けないためのカギとなります。