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「年収の壁」問題をわかりやすく整理

「年収の壁」は、そのキーワードを見ない日はないほど、いま、話題になっています。
年収の壁は、税金や社会保険のいくつかの制度が絡んでいて、よくわかりにくいという方が多いのではないでしょうか。
年収の壁は何が問題なのか、どのような内容なのかなどについて整理してみました。


1 年収の壁はそもそも何が問題なのか


年収の壁が問題となっているのは、特定の年収を超えると税金や社会保険料の負担が急増し、手取り収入が減少するためです。
具体的にはつぎのような問題点があげられます。
 
(1)手取り収入の減少
年収の壁を超えると、税金や社会保険料の負担が増加し、結果的に手取り収入が減少します。
たとえば、年収が103万円を超えると所得税が課され、130万円を超えると社会保険料の負担が発生します。
その結果、働く時間を増やしても手取り収入が減少することがあるのです。
 
(2)働く意欲の低下
年収の壁を意識して働く時間を調整する人が多くなっています。
パートタイムやアルバイトで働く場合、年収の壁を超えないようにしようと、働く時間を制限する人々が少なくありません。
その結果、労働市場における労働力の供給が制約されてしまうという懸念があります。
 
(3)経済的な不安定さ
年収の壁を超えると、急激に税金や社会保険料の負担が増加するため、経済的な不安定さが増してしまいます。
扶養家族がいる場合や、家計の収入が限られている場合には、年収の壁を超えることで家計に大きな影響を与えることがあるのです。
 
(4)社会保険制度の複雑さ
年収の壁に関連する社会保険制度は非常に複雑であり、理解するのが容易ではありません。
その結果、どのように対処すればよいのか適切な判断ができず、結果的に不利な状況に陥ることがあるのです。
 
(5)労働市場への影響
年収の壁が存在することで、労働市場における労働力の供給が制約されることがあります。
短時間労働者は、年収の壁を意識して、働く時間を制限するようになっています。
その結果、労働市場全体の効率性が低下する可能性があるのです。
 
こうした問題点を解消しようと、いま、税制や社会保険制度の見直しが進められているのです。

2 年収の壁とは何を指すのか


年収の壁とは、ある特定の年収を超えると税金や社会保険料の負担が増加し、手取り収入が減少する現象を指します。
 
いくつかの種類があります。
大きく分けると、(1)税金に関わる壁、(2)社会保険に関わる壁、(3)配偶者手当に関わる壁の3つになります。

 
(1)税金に関わる壁
 
①100万円の壁
年収が100万円を超えると住民税が課されます。
住民税は自治体によって異なりますが、一般的には年収100万円を超えると課税対象となります。

(出所)厚生労働省「年収の壁について知ろう」を加工

 
②103万円の壁
年収が103万円を超えると所得税が課されます。
配偶者控除の対象から外れるため、配偶者の所得税負担が増加します。

(出所)厚生労働省「年収の壁について知ろう」を加工

 
⑤150万円の壁
年収が150万円を超えると配偶者特別控除の対象から外れるため、配偶者の所得税負担が増加します。
 
⑥201万円の壁
年収が201万円を超えると配偶者特別控除の控除額が減少し、最終的には控除がなくなります。

(出所)厚生労働省「年収の壁について知ろう」を加工

 
(2)社会保険に関わる壁
 
③106万円の壁
年収が106万円を超えると社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が発生し、社会保険料の負担が増加します。
 
加入対象は従業員51人以上の会社に勤務する人(2024年10月から適用拡大)です。
加入要件は、月額賃金8.8万円(年収計算で約106万円)、週の労働時間が20時間以上などです。
 
④130万円の壁
年収が130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要があり、保険料の負担が増加します。

(出所)厚生労働省「年収の壁について知ろう」を加工

 
(3)配偶者手当に関わる壁
配偶者の年収が一定額(たとえば103万円や130万円)を超えると、配偶者手当が支給されなくなることがあります。
企業独自の制度であり、手当支給の要件(配偶者の収入制限)はさまざまです。
 
以上をまとめるとつぎの表のとおりになります。

(出所)厚生労働省「年収の壁について知ろう」を加工

3 年収の壁への対応策~「年収の壁・支援強化パッケージ」


年収の壁の問題に対応するため、政府は、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」を始めています。
 
(1)目的
 
①働き方の自由度向上
年収の壁を意識せずに働ける環境を整え、短時間労働者がより自由に働けるようにすることです。
 
②所得向上
年収の壁を超えても手取り収入が減少しないようにし、所得向上を図ることです。
 
③人手不足の解消
働き方の制限をなくし、企業の人手不足を解消することです。
 
(2)支援強化パッケージの内容
 
①106万円の壁対策
 
㋐キャリアアップ助成金
事業主が従業員の年収を106万円以上に引き上げる場合、キャリアアップ助成金が支給されます。
従業員の手取り収入が減少しないように支援するものです。
 
㋑社会保険適用促進手当
社会保険に新たに加入する従業員に対して手当を支給し、手取り収入の減少を防ぎます。
 
②130万円の壁対策
繁忙期などで一時的に収入が増加し年収が130万円を超えた場合でも、事業主の証明により引き続き被扶養者になれるようにします。
 
③配偶者手当の見直し
配偶者手当の支給条件を見直し、年収の壁を意識せずに働ける環境を整えます。
企業の配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示すなど、わかりやすい資料を作成し公表しています。

4 検討されている今後の「年金の壁」対策


現在の健康保険・厚生年金への加入要件はつぎのとおりです。
・従業員51人以上の会社に勤務
・1週の所定労働時間が20時間以上
・賃金の月額が8.8万円(年収計算で約106万円)以上
・継続して2カ月を超えて使用される見込み
・学生ではない
 
(1)106万円の壁の撤廃
2025年以降、年収106万円の壁が撤廃される予定です。
短時間労働者は、週20時間以上働けば厚生年金に加入できるようになります。
短時間労働者の年金受給額が増加することが期待されます。
 
(2)企業規模要件の撤廃
従業員数が51人以上の企業に適用されている要件を撤廃し、すべての企業に対して適用範囲を拡大する方針が検討されています。
そうなれば、中小企業で働く短時間労働者も厚生年金に加入しやすくなります。
 
(3)保険料負担軽減措置
月収13万円未満の労働者に対して、保険料負担を軽減する措置が検討されています。
低所得者層の負担を軽減し、厚生年金への加入を促進するものです。
 
(4)103万円の壁の見直し
103万円の壁を178万円に引き上げるべく検討が進められています。
2024年11月衆議院選挙の国民民主党の公約である「103万円の壁を178万円に引き上げる」案が現実味を帯びてきています。
具体的な引き上げの時期は未定ですが、労働力不足の解消や国民の手取り所得の増加が見込まれています

5 年収の壁を越えて働くことにはメリットもある


年収の壁を越えて働くことについては、マイナス面ばかり強調されていますが、いくつかのメリットもあります。
 
(1)手取り収入の増加
年収の壁を越えると税金や社会保険料の負担が増加する一方で総収入も増加します。
結果として手取り収入が増えることが期待でき、生活の質が向上し、経済的な安定が得られるのです。
 
(2)社会保険の充実
年収の壁を越えて社会保険に加入すれば、健康保険や厚生年金などの社会保険制度の恩恵を受けられます。
病気や怪我、老後の生活に対する備えが充実することにつながります。
 
(3)キャリアアップの機会
年収の壁を越えて働くことで職場での評価が高まり、昇進や昇給の機会が増える可能性があります。
キャリアアップが期待でき、長期的な収入の増加にもつながります。
 
(4)労働市場での競争力向上
年収の壁を越えて働くことでスキルや経験が蓄積され、労働市場での競争力が向上します。
将来、よりよい職場環境や高い給与を得るチャンスが広がります。
 
(5)自己実現と満足感
年収の壁を越えて働くことで自己実現や仕事に対する満足感が得られる可能性があります。
自分の能力を最大限に発揮し、達成感を感じる結果、仕事に対するモチベーションも向上します。
 
(6)家計の安定
年収の壁を越えて働くことで家計の収入が増加し、経済的な安定が得られます。
将来の教育費や住宅ローンの返済など、大きな支出に対する備えがしやすくなります。
 

 
年収の壁を越えて働くことがプラスかマイナスかは、メリットもデメリットも考慮する必要があります。
足もとの手取り収入の減少だけ注目するのではなく、幅広く長期的な視点をもつとよいでしょう。
自分や世帯にとってどのような影響があるのかを慎重に検討することが重要です。

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