
マンションの修繕積立金について正しい知識をもとう
マンションは、竣工後40~50年経つと、老朽化が進み修繕が必要になる箇所がどんどん増えていきます。
建て替え新築するには、高額の費用がかかり、区分所有者の5分の4以上の賛成が必要なので、ハードルが高くなります。
実際、2023年3月までに建て替えられたマンションは、累計で282件しかありません(国土交通省集計)。
そこで、修繕をして寿命を延ばそうというマンションが大半となります。
マンションの共用部分の修繕や維持・管理に必要な資金をまかなうため、毎月徴収して積み立てるものが修繕積立金です。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によるとつぎの通りとなっています。
・修繕積立金の平均額は13,054円であり、5年前よりも増加している。
・修繕積立金が計画に比べて不足しているマンションは36.6%となっている。そのうち、不足の割合が20%超のマンションは11.7%である。
修繕積立金が不足すると、将来、必要な修繕ができず、マンションの維持・管理に問題が生じてしまいかねません。
いま、多くのマンションが課題として抱えている修繕積立金についてお話しします。

1 修繕積立金の役割と使いみち
修繕積立金は、マンションの資産価値を維持し、入居者の安全・快適な生活を守るために重要な役割を果たしています。
管理費は日常的な管理のために使われるのに対し、修繕積立金は長期的な修繕に備える役割があります。
修繕積立金の使いみちは、国土交通省が管理規約の標準モデルとして作成した「マンション標準管理規約」28条に定められています。
①定期的に計画を立てて行う修繕
長期的なスパンで必要となる大規模修繕工事に使われます。
たとえば、外壁の補修、屋根の改修、共用施設の改善などです。
②不測の事故や事情によって必要な修繕
災害や事故などにより急きょ修繕が必要になった場合です。
たとえば、水漏れや配管の修理、地震で破損した非常階段の手すりの交換などです。
③敷地や共用部分の変更
たとえば、バリアフリー化工事や耐震工事などです。
④建物の売却や敷地の売却にあたる調査
マンションの建て替えに際しての調査費用としても使えます。
⑤その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

2 修繕積立金の適正額
修繕積立金は築年数やマンションの規模によって異なりますが、適正な金額を把握しておくことが大切です。将来値上げされた場合などに、その額が適切かどうか検証することができます。
修繕積立金の適正額は、国土交通省「マンション修繕積立金に関するガイドライン」にもとづいて算出する方法があります。

(注)「平均値」とともに「事例の3分の2が包含される幅」が合わせて示されています。これは、事例のばらつきが大きいため、事例の大部分が収まるような範囲を示すという観点からです。
(例)10階建て、建築延床面積が8,000㎡のマンションで、専有部分の面積が80㎡の場合
252円/㎡・月 × 80㎡ = 20,160円
が月当たりの適正額となります。

3 修繕積立金が不足している場合の対処方法
修繕積立金が不足している場合は、つぎのような対処法を検討することになります。
(1)最優先の工事だけに絞って行う
緊急性の高い工事を先行して行い、ほかの不要不急な工事は後年に延期する方法です。
部位ごとに劣化の進行度を判断し、必要な部分を優先して工事を実施します。
(2)施工業者を変更する
施工業者を変更することにより工事金額を削減できる場合があります。
なお、工事見積りは複数の施工業者に依頼して比較検討する必要があります。
(3)一時金を徴収する
区分所有者から一時金を集めて不足分を補う方法です。ただし、区分所有者の負担とのバランスを考慮しなければなりません。慎重に検討しましょう。
(4)金融機関から借入れする
管理組合が不足分を借入れて工事代金に充てる方法です。適切な返済計画を立てる必要があります。また、将来の返済負担が生じることも考慮しなければなりません。
(5)延期して修繕積立金を貯める
直近では大規模修繕工事を先送りし、積立金を貯めてからあらためて工事をするという方法です。ただし、マンションの劣化の進行や、建設費の上昇などに注意が必要です。
(6)修繕積立金を値上げする
収支状況を見直し、将来的な負担を抑えるために修繕積立金を値上げする方法です。

4 修繕積立金の値上げを拒否できるか
(1)値上げには管理組合総会決議が必要
修繕積立金を値上げするには、管理組合の総会で普通決議を行う必要があります。普通決議には、議決権の過半数以上の賛成が必要です。
管理規約や細則に修繕積立金額が明記されている場合は、規約の変更に関わるため、特別決議が必要となります。特別決議では管理組合員の4分の3以上の賛成が必要です。
(2)値上げ拒否は区分所有法違反
総会決議があった後は、支払いたくないなどと値上げを拒否することはできません。区分所有法には、持分に応じて共有部分の負担をしなければならないと定められているからです。

5 修繕積立金を滞納すると
修繕積立金を滞納すると、つぎのような問題が発生する可能性があります。
(1)督促を受ける
修繕積立金は法的に負担することが義務付けられています。
管理組合や管理会社から、電話や訪問による督促、内容証明郵便による督促状により、滞納分の支払いを求められます。
(2)法的手続き
(1)を無視して滞納が続く場合、訴訟などの法的手続きが取られることがあります。最悪の場合、競売申立され、所有権を失う可能性もあります。
(3)共用施設の維持が困難になる
修繕積立金は共用部分の修繕や維持に使われます。滞納が続くと、共用施設の維持が難しくなります。他の住戸の入居者に迷惑をかけることになるのです。
修繕積立金の滞納は避けるべきです。
どうしても支払いが難しい場合は、管理組合や専門家に相談し、適切な対処を行いましょう。

6 中古マンションを購入するときの注意点
中古マンション購入時には、長期修繕計画を確認し、修繕積立金が適正に貯められているかチェックする必要があります。
修繕積立金額が必要額を満たしていない場合は、急に値上げされたり、一時金が徴収されたりすることがあります。
入居直後に修繕積立金が値上がりすることもあるので、段階的な値上げがある場合はタイミングを確認しましょう。

築年数の高いマンションが増えてきており、大規模修繕により寿命を延ばすことが避けて通れなくなっています。区分所有者の高齢化も進み、修繕積立金の負担が重くなるケースもありえます。
管理組合や管理会社に任せきりにせず、区分所有者一人ひとりが現状を認識して将来に備えることが必要です。修繕積立金について正しい知識をもつことが大事といえます。