見出し画像

65歳以上の高年齢者雇用を推進する政策・制度

総務省「統計からみた我が国の高齢者-敬老の日にちなんで-」(2023年9月17日)から引用します。
2021年の高齢就業者数(65歳以上)は18年連続で増加し、909万人と過去最多となっています。
15歳以上の就業者総数に占める高齢就業者の割合は13.5%と過去最高です。
2022年の高齢者の就業率は25.2%でした。年齢別では65~69歳は50.8%、70~74歳は33.5%と、いずれも過去最高となっています。
 
また、「令和元年度高齢者の経済生活に関する調査結果」から引用します。
「何歳まで収入を伴う仕事をしたいか」という質問に対し、「働けるうちはいつまでも」との回答が約2割となっています。65歳を超えて働きたいという回答は全体の約6割を占めます。
働く意欲のある高齢者が多いことを示しています。
 
定年延長や継続雇用などにより、高齢者が働きやすい環境が整ってきています。
65歳以上の就労を推進している政策や制度にはどのようなものがあるのかについてお話しします。


1 高年齢者雇用安定法の改正


高年齢者雇用安定法は、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できる環境を整備するための法律です。正式名は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」です。
2025年の改正では、次の①~⑤のいずれかにより、70歳までの就業機会を確保するよう、事業主に努力義務を課しています。
なお、70歳までの定年年齢の引上げを義務付けるものではありません。
 
①70歳までの定年引上げ
 
②定年制の廃止
 
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
 
④希望する場合は70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
 
⑤希望する場合は70 歳まで継続的にa、bの事業に従事できる制度の導入
 a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

2 雇用保険マルチジョブホルダー制度


雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者を対象としています。
2つの事業所での勤務を合計して一定要件を満たす場合に適用されます。
本人からハローワークに申出を行い、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となる制度です。
 
(1)適用要件
 
①複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
 
②2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
 
③2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
 
(2)雇用保険マルチジョブホルダー制度のメリット
 
①雇用保険の被保険者としての資格維持
この制度を利用することで、複数の事業所で働く高齢者は、雇用保険の被保険者としての資格を維持できます。
その結果、失業時の給付を受ける権利を保持できます。
 
②収入の安定
複数の仕事を持つことで、収入の安定が期待できます。
とくに、単一の事業所での収入が不安定な場合や、年金収入だけでは生活が厳しい場合に有用です。
 
③スキルや経験の活用
複数の職場で働くことで、異なるスキルや経験を活かす機会が増えます。
多様な環境で働くことで、自己成長やスキルアップにもつながります。
 
(3)雇用保険マルチジョブホルダー制度のデメリット
 
①複数の職場での調整が必要
複数の事業所で働くため、シフトや休暇の調整が必要になります。
異なる職場のスケジュールを合わせることが難しい場合、ストレスを感じることがあるかもしれません。
 
②社会保険料の計算が複雑
複数の雇用主から給与を受け取るため、社会保険料の計算が複雑になります。
適切な保険料を支払うために、自身で計算や申告を行う必要があります。
 
③労働時間の増加
複数の仕事を持つことで、週の労働時間が増加する可能性があります。
過度の労働時間は健康に悪影響を及ぼすことがあるため、注意が必要です。
 
ただし、以上のデメリットは個々の状況により異なります。
具体的なケースごとに、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。

3 高年齢雇用継続給付金の縮小・廃止


高年齢雇用継続給付金は、60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者を対象とした雇用保険の給付です。
雇用保険の被保険者であった期間が5年以上あることが必要です。
 
60歳以上の労働者が継続雇用または再雇用された場合、現役時代よりも賃金が減るケースが少なくありません。
賃金が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下した賃金を補てんするために支給されます。
受給金額は賃金低下率に連動し、最大で引き下げられた賃金の15%に相当する額が支給されます。
 
高年齢雇用継続給付金は、2025年4月から段階的に縮小され、最終的には廃止されることが決まっています。
この制度は、高齢者の就労を促進し、減少した収入を補填する役割を果たしてきました。
昨今、高齢者の雇用環境が整備されていることを考慮し、廃止が決定されたのです。
 
具体的な縮小・廃止の流れはつぎのとおりです。
2024年度までは現行の給付率15%を維持します。
2025年4月から、新たに60歳に到達する人から給付率を10%に縮小します。
2025年度以降、給付金は段階的に廃止されます。


4 高年齢労働者処遇改善促進助成金


高年齢労働者処遇改善促進助成金は、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善に向けた助成金です。
就業規則等の定めるところにより高年齢労働者に適用される賃金規定等の増額改定に取り組む事業主に対して支給されます。
高年齢雇用継続給付金の見直しに伴い、2021年に新設されました。
 
(1)支給要件
 
①以下のAとBを算出・比較し、75%以上であることが確認できる事業主であること
Aすべての算定対象労働者の60歳到達時点での1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
B賃金規定等を増額改定した後のすべての算定対象労働者の、1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
 
②賃金規定等の改定後の高年齢雇用継続基本給付金の総額が、賃金規定等の改定前よりも減少している事業主であること
 
③支給申請日において増額改定後の賃金規定等を継続して運用している事業主であること
 
(2)支給額
支給額の計算式(いずれも100円未満切り捨て)
 
①中小企業
(A-B) × 2/3
 
②中小企業以外
(A-B) × 1/2
 
A賃金規定等の改定前の高年齢継続基本給付金の総額
B賃金規定等の改定後に、各支給対象期を支給対象期間として算定対象労働者が受給した高年齢雇用継続基本給付金の総額
 
(3)支給申請回数
1回の申請における対象期間は6カ月で、2年間で最大4回まで申請できます。
 

 
高齢者雇用を後押しするための政策はほかにもあります。
全国300カ所のハローワークに「生涯現役支援窓口」が設けられ、おおむね60歳以上を対象に再就職などの支援を行っています。
また、東京都は「シニア就業応援プロジェクト」を通じて、高齢者の再就職支援やセカンドキャリアの学習機会を提供しています
 
少子高齢化に伴って労働人口が減少するなかで、働く意欲のある高齢者が就業できる環境整備は今後も進められていくでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?