いいことばかりでない超長期返済の住宅ローンの注意点
住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2024年4月調査)】から引用します。
新規に住宅ローンを借入れした人の返済期間について、35年超が増加傾向にあります。
2021年4月の8.6%から2024年4月には16.0%と、ほぼ倍増しています。
最近では住宅ローンの返済期間を35年以上の超長期に設定する金融機関が増えてきています。
なかには50年以内とする金融機関も出てきました。
返済期間が長期になるほど毎月の返済負担は楽になりますが、トータルでみた場合には必ずしも負担が軽減されるとは限りません。
住宅ローンの返済期間を超長期にする場合のメリットとデメリット、注意すべきポイントなどについてお話しします。
1 住宅ローンの返済期間を超長期とするケースが増えてきた背景
(1)住宅価格の上昇
住宅価格が上昇しているため借入額が増加し、毎月の返済額を抑えるために返済期間を延長するニーズが高まっています。
(2)低金利環境
最近まで低金利環境が続いていました。
そのため、長期のローンでも金利負担が比較的軽減されるので、超長期ローンが選ばれるようになりました。
(3)家計の負担軽減
返済期間を延長することで、毎月の返済額を抑え、家計の負担を軽減できます。
2 住宅ローンの返済期間を長期にするメリットとデメリット
(1)メリット
①毎月の返済額の軽減
返済期間を長くすれば、毎月の返済額が減少します。
その結果、家計の負担が軽減され、ほかの生活費や貯蓄に回す余裕が生まれます。
②借入可能額の増加
返済期間を長くすれば、同じ毎月の返済額でも借入可能額が増えるため、希望する物件を購入しやすくなります。
③金利の固定期間が長くなる
長期固定金利のローンを選ぶことで、金利変動のリスクを避けられます。
その結果、将来的な金利上昇の影響を受けにくくなるのです。
④ライフプランの柔軟性
毎月の返済額が軽減されるので、教育費や老後資金など、ほかのライフイベントに対する資金計画が立てやすくなります。
(2)デメリット
①総返済額の増加
返済期間が長くなる分、支払う利息も増えるため、総返済額が増加します。
その結果、最終的な負担が大きくなる可能性があるのです。
②老後の負担
返済期間が長くなると、老後まで返済が続く可能性があります。
その結果、退職後の収入が減少するなかでの返済が負担となりえるのです。
③金利変動リスク
変動金利型のローンを選んだ場合、金利が上昇すると毎月の返済額が増加するリスクがあります。
長期返済では、このリスクが長期間にわたって続くことになるのです。
④資産価値の変動
住宅の資産価値が下落した場合、ローンの残高が資産価値を上回るオーバーローン状態になるリスクがあります。
その結果、売却時に損失が発生する可能性があるのです。
3 シミュレーション
住宅ローンの返済期間をより長期にすれば、毎月の返済額が軽減され、家計の負担が減ります。
また、返済期間が長くなることで、同じ毎月の返済額でより多くの金額を借りられます。
しかし一方で、返済期間が長くなる分、支払う利息が増えるため、総返済額が増加するのです。
具体的な事例でシミュレーションをしてみましょう。
【シミュレーションA】
・返済期間を35年とする場合に比べ、50年の場合は、毎月の返済額は20,754円軽減されます。
・一方、総返済額は4,081,950円増加します。
【シミュレーションB】
・返済期間を35年とする場合に比べ、50年の場合は、同じ毎月の返済額でより多くの金額を借りられます。
毎月の返済額を91,900円程度に設定した場合の借入可能額を比較します。
返済期間が35年の場合は3,000万円ですが、返済期間が50年の場合は3,875万円(+875万円)まで借入可能となるのです。
4 住宅ローンの返済期間を決める際に注意すべきポイント
住宅ローンの返済期間を長期にするにはさまざまなリスクが伴います。
つぎのようなポイントを考慮し、慎重に計画を立て、リスクを軽減して安心して返済を続けられるようにすることが重要です。
(1)返済能力を把握する
自分の収入と支出をしっかりと把握し、無理のない返済計画を立てることが大切です。
毎月の返済額が家計に過度な負担をかけないようにしましょう。
返済期間を短くすると、毎月の返済額は増えますが、総返済額は減少します。
逆に返済期間を長くすると、毎月の返済額は減りますが、支払う利息の総額が増えるので総返済額は増加します。
結果として最終的な総返済額が大きくなるため、長期的な負担に耐えられるかを考慮しなければなりません。
(2)老後の負担を考慮する
返済期間が長くなると、老後まで返済が続く可能性があります。
退職後の収入が減少するなかでの返済が負担となることがあります。
何歳までに完済するかも含め、老後の生活設計を考慮することが重要です。
(3)金利の種類と変動リスクを考慮する
固定金利型は返済期間中の金利が一定で、将来的な金利上昇のリスクを避けられます。
一方、変動金利型は金利が市場の動向に応じて変動すします。
金利が低い時期には有利ですが、将来的な金利上昇のリスクがあります。
変動金利型のローンを選んだ場合、金利が上昇すると毎月の返済額が増加するリスクがあります。
長期返済では、このリスクが長期間にわたって続くことになるのです。
(4)資産価値の変動リスクを考慮する
住宅の資産価値が下落した場合、ローンの残高が資産価値を上回るオーバーローン状態になるリスクがあります。
その結果、売却時に損失が発生する可能性があります。
(5)ライフイベントを考慮する
自分のライフプランに合わせて、適切な返済期間を選びましょう。
結婚、出産、子供の教育、転職、退職など将来のライフイベントを考慮して返済計画を立てることが重要です。
長期返済を選ぶ際には、将来的な収入や支出の変動に対応できるよう、柔軟な計画を立てることが重要です。
(6)返済中は返済計画の見直しを検討する
返済期間中に定期的に返済計画を見直し、必要に応じて繰り上げ返済や返済期間短縮の条件変更を検討しましょう。
総返済額の減少により経済的な負担の軽減につながります。
(7)保険の内容等を検討する
失業や病気など、予期せぬ事態に備えて、緊急時の対応策を考えておくことが重要です。
住宅ローンには団体信用生命保険が付帯されることが一般的です。
返済期間が長くなる場合、保険の内容や保険料についても十分な検討が必要です。
さらに、緊急時に備えて一定の貯蓄を確保しておくことも有効です。
(8)専門家への相談と情報収集を行う
必要に応じ、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けるとよいでしょう。
また、各金融機関のローン商品や金利、条件について十分に情報収集し、自分に最適なローンを選ぶことが大切です。
5 繰上げ返済
繰上げ返済とは、予定された返済スケジュールよりも早く、ローンの一部または全額を返済することです。
利息の支払いを減らし、総返済額を軽減できます。
(1)メリット
①利息の軽減
繰上げ返済を行うことで、元金が減少し、それに伴って利息の支払いも減少します。
その結果、総返済額を大幅に削減できます。
②返済期間の短縮
繰上げ返済を行うことで、返済期間を短縮することができます。
これにより、早期にローンを完済し、経済的な負担を減らせます。
③精神的な安心感
早期にローンを完済することで、将来的な経済的負担を軽減し、精神的な安心感を得られます。
(2)デメリット
①手元資金の減少
繰上げ返済を行うことで、手元の資金が減少します。
その結果、緊急時の資金が不足してしまうリスクがあります。
②ほかの投資機会の喪失
繰上げ返済に資金を充てることで、ほかの投資機会を逃す可能性があります。
たとえば、株式や不動産などの投資に資金を回せば、より高いリターンを得られる可能性があります。
③手数料の発生
一部の金融機関では、繰上げ返済に対して手数料が発生する場合があります。
(3)注意すべきポイント
①手数料の確認
繰上げ返済を行う前に、金融機関に手数料が発生するかどうかを確認しましょう。
手数料が高い場合、繰上げ返済のメリットが減少する可能性があります。
②手元資金の確保
繰上げ返済を行う際には、手元に十分な資金を確保しておくことが重要です。
緊急時の資金が不足しないように、生活費や予備資金を確保しておきましょう。
③ほかの投資機会の検討
繰上げ返済に資金を充てる前に、ほかの投資機会についても検討しましょう。
繰上げ返済による利息軽減と、ほかの投資によるリターンを比較し、どちらが有利かを考えることが重要です。
④税制優遇の確認
住宅ローン控除などの税制優遇が適用されている場合、繰上げ返済を行うことで控除額が減少する可能性があります。
税制優遇の影響についても確認しておきましょう。
住宅ローンの返済期間を長期にすることには、毎月の返済額を軽減し、家計の負担を抑えるメリットがあります。
しかし、総返済額の増加や老後の負担といったデメリットも存在します。
自分のライフプランや返済能力に応じて、返済期間を慎重に検討することが重要です。