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会社員(給与所得者)の源泉徴収の仕組み

会社員(給与所得者)にとって源泉徴収制度は身近な存在ですが、内容をきちんと理解している人はそう多くはないかもしれません。
源泉徴収制度の仕組みについてお話しします。


1 源泉徴収制度とは


所得税は納税者本人が自主的に申告して納税するのが建前ですが、給与所得などについては源泉徴収制度も併せて存在します
源泉徴収制度は、給与や報酬を支払う際に所得税を天引きし、納税者の負担を軽減するための重要な制度です。
所得税を支払う者(給与支払者)が、支払う際に所得税額を計算し、その金額を差し引いて国に納付する仕組みになっています。
 
(1)源泉徴収の対象
給与・賞与等、退職金等、公的年金等、報酬・料金、利子、配当などが源泉徴収の対象です。
支払者が所得税を計算し、支払金額からその税額を差し引いて国に納付します。
 
(2)源泉徴収制度が創設された経緯
源泉徴収制度は納税の公平性と効率性を高めるために導入されました。
利子所得については1899年から、給与所得については1940年から採用されています。
 
次章以降、給与所得者側からみた給与所得の源泉徴収の流れについてお話ししていきます。

2 給与所得者の扶養控除等申告書の提出


まず、「給与所得者の扶養控除等申告書(給与所得者の扶養控除等(異動)申告書)」の提出からスタートします。

給与所得者が扶養控除などの所得控除を受けるために提出する書類です。
 
(1)提出目的
扶養控除等申告書の提出により、給与所得者はつぎのような控除を受けられ、所得税の負担が軽減されます。
 
①扶養控除 : 扶養親族がいる場合に適用される控除
②配偶者控除 : 配偶者が一定の条件を満たす場合に適用される控除
③障害者控除 : 障害者がいる場合に適用される控除
 
(2)提出しない場合の影響
扶養控除等申告書を提出しない場合、つぎのような影響があります。
 
①所得控除が受けられない
結果として、毎月の給与から引かれる所得税が高くなってしまいます。
 
②年末調整が行われない
年末調整による税金の精算ができず、確定申告が必要になる場合があります。
 
(3)提出の流れ
 
①記入
必要事項を記入し、扶養親族や配偶者の情報を正確に記載します。
記入例や記入要領は国税庁のウェブサイトに掲載されています。
(注)リンクは2024年分のものです。

②提出
給与支払者(雇用主)に提出します。通常、年末調整時または就職時に提出します。
なお、当初提出した申告書の記載内容に異動があった場合には、異動の内容などを記載した申告書を提出します。
 
③保管
給与支払者が保管し、必要に応じて税務署に提出します。

3 給与所得者に対する源泉徴収税額の計算方法


給与や賞与が支給される都度、つぎのような手順にしたがって計算されます。
 
(1)社会保険料の控除
まず、給与から厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料などの社会保険料を控除します。この控除後の金額が所得税の課税対象額となります。
 
(2)税額表の使用
つぎに、(1)で算出された課税対象額をもとに「給与所得の源泉徴収税額表」を使用して税額を計算します。
この税額表には、つぎのような区分があります。
 
【甲欄】扶養控除等申告書を提出している人に適用
【乙欄】扶養控除等申告書を提出していない人に適用
【丙欄】日雇い労働者などに適用
 
(3)税額の計算
税額表にもとづき、控除後の給与額と扶養親族等の数に応じた税額を求めます。
税額表は国税庁のウェブサイトに掲載されています。
 
給与所得の源泉徴収税額表(月額表) : 毎月の給与に対して適用
給与所得の源泉徴収税額表(日額表) : 日雇い労働者など、日ごとに支払われる給与に対して適用
賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表 : 賞与に対して適用
 (注)各表のリンクは2024年分のものです。

【具体例】
・給与等の支給額(月額) : 374,000円
・給与等から控除する社会保険料等 : 58,008円
・扶養親族等の数 : 2人(源泉控除対象配偶者あり、控除対象扶養親族1人)
 
①社会保険料等控除後の給与等の金額は、
374,000円 - 58,008円 = 315,992円となります。
②月額表の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄で、315,992円が含まれる行は「314,000円以上317,000円未満」です。
その行と「甲」欄の「扶養親族等の数2人」の欄との交わるところに記載されている金額は5,740円です。
この額がその給与等から源泉徴収される税額となります。

(出所)国税庁「令和6年分 源泉徴収税額表」を加工

4 年末調整


年末調整は、給与所得者の年間の所得税額を正確に計算し、過不足を調整するために行われる手続きです。
毎月の給与から概算で天引きされている所得税額と、実際の年間所得にもとづく正確な所得税額を比較して差額を精算します。
 
(1)年末調整の目的
 
①所得税の過不足を調整
年間の所得税額を正確に計算し、過不足を精算します。
 
②納税者の負担軽減
個々の給与所得者が確定申告を行う手間を省きます。
 
(2)年末調整の対象
年末調整の対象となるのは、年末調整の対象となっているのは、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人です。会社員、公務員、アルバイトやパートタイム労働者などです。
ただし、給与の収入金額が2,000万円を超える人など、一定の人は年末調整の対象とはなりません。
 
(3)年末調整の手順
 
①各種申告書の提出
毎年10下旬~11月ころに、従業員はつぎのような書類を勤務先へ提出します。
(注)各申告書(記載例)のリンクは2024年分のものです。
 
扶養控除等申告書
基礎控除申告書
配偶者控除等申告書
所得金額調整控除申告書
保険料控除申告書
住宅借入金等特別控除申告書
 
②年末調整の計算
勤務先が従業員の年間所得をもとに、正確な所得税額を計算します。
 
勤務先は、源泉徴収票を作成し、1月31日までに各従業員の住所地の市区町村へ提出します。
 
(4)年末調整を行わない場合
年末調整を行わない場合、給与所得者は自分で確定申告を行い、所得税の過不足を精算する必要があります。
 
(5)年末調整における定額減税額の精算(2024年分のみ)
2024年度の税制改正により定額減税が実施されています。
2024年分の年末調整では、年末調整時点の定額減税額を算出し、年間の所得税額から控除を行う必要があります。
 
①定額減税の概要
定額減税は、つぎの条件を満たす給与所得者に対して、一定額の所得税を減額する制度です。
・2024年分の所得税の納税者であること(居住者に限る)
・合計所得金額が1,805万円以下であること
 
定額減税額はつぎのとおりです。
・本人 : 30,000円
・同一生計配偶者または扶養親族(いずれも居住者に限る) : 1人につき30,000円
 
2024年6月1日以後に支払われる給与等に対する源泉徴収税額から定額減税額が控除されます。控除しきれなかった場合は、以後の給与等に対する源泉徴収税額から順次控除されます。
 
②年末調整または確定申告
年末調整時に年間の所得税額と定額減税額を精算します。
年末調整時に配偶者控除または配偶者特別控除および同一生計配偶者に係る定額減税を受けるためにはつぎの書類の提出が必要です。
配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書
 
なお、扶養控除等申告書を提出していない場合は勤務先で定額減税を受けられず、確定申告で定額減税を受けることになります。

(出所)国税庁「令和6年分年末調整についてのお知らせ」を加工

5 源泉徴収票


源泉徴収票は、給与所得者が1年間に受け取った給与総額や支払った所得税額が記載されます。
源泉徴収票は、住宅ローンやクレジットカードの審査時や保育園の利用申請などで収入証明のために使用します。
転職時には年末調整を行うために新しい勤務先に提出します。
また、必要に応じて確定申告時に使用する場合もあります。
 
源泉徴収票には、つぎのような情報が記載されています。
 
①支払金額
1年間に受け取った給与の総額
 
②給与所得控除後の金額
支払金額から給与所得控除を差し引いた金額
 
③所得控除の額の合計額
配偶者控除や社会保険料控除などの合計額
 
④源泉徴収税額
1年間に徴収された所得税額。
 
源泉徴収票は、通常、年末調整が完了した後の12月末から翌年1月中旬にかけて発行されます。退職者の場合は、退職後1カ月以内に発行されます。
 
源泉徴収票は、勤務先から受け取る書類であり、紛失しないように大切に保管する必要があります。
紛失時などは勤務先に再発行を依頼することも可能です。
 

 
ふだん何気なく受け取っている給与明細表や源泉徴収票の重要性を理解し、紛失しないよう保管しておくことが大事です。

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