フリーランスが労災保険に特別加入できるようになる
2024年11月から、フリーランスも労災保険に特別加入できるようになります。
労災保険に特別加入すれば、仕事中や通勤中のケガ、病気、障害、死亡に対して、補償を受けられるようになるのです。
具体的な支給内容は、治療に必要な給付、休業期間の給付、治療後に障害が残った場合の給付、死亡の場合の遺族への給付などです。
1 特別加入制度とは
労災保険は、労働者が仕事または通勤によって災害に遭ったときに補償を受けられる制度です。
特別加入制度とは、労働者以外でも、一定の要件を満たせば任意加入でき、補償を受けられる制度です。
2 どのようなフリーランスが対象となるのか
①フリーランス(特定受託事業者(注))が企業等(業務委託事業者)から業務委託を受けて行う事業(特定受託事業)
(注)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)に規定する、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しないもの
<例>
・翻訳、通訳(外国書籍の翻訳、海外出張時の同行通訳)
・講師、インストラクター(ピアノ教室、スポーツジムのインストラクター)
・デザイン、コンテンツ制作(広報用のイラスト作成、集計プログラム作成)
・調査、研究、コンサルティング(商品売買のための市場調査)
・営業 (商品(保険、電子機器等)の営業代行)
②フリーランスが消費者から①と同種の事業について委託を受けて行う事業
<例>
(同種の事業を企業等から業務委託を受けて行う場合のみ対象となる事業)
・企業からの業務委託で宣伝写真の撮影の事業を行っているフリーランスのカメラマンが、消費者からも家族写真の撮影を委託されて事業を行う場合
消費者のみから委託を受ける場合は対象となりません。
また、企業等からの業務委託を受けているが、その業務と異なる事業について消費者から委託を受ける場合も対象となりません。
①②とも、ほかに特別加入可能な事業または作業を除きます(次章参照)。
3 特定フリーランス事業として加入できない場合
特別加入は、特定の事業または作業ごとに、特別加入団体を通じて加入できる制度です。
つぎの事業や作業に従事する場合は、特定フリーランス事業ではなく、該当する特別加入団体を通じて加入することになります。
・個人タクシー業者、個人貨物運送業者
・建設業の一人親方等
・漁船による自営漁業者
・林業の一人親方等
・医薬品の配置販売業者
・再生資源取扱業者
・船員法第1条規定の船員
・柔道整復師
・創業支援等措置に基づく高年齢者
・あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師
・歯科技工士
・特定農作業従事者
・指定農業機械作業従事者
・国、地方等が実施する訓練従事者
・家内労働者等
・労働組合等の一人専従役員
・介護作業従事者
・家事支援従事者(いわゆる家政婦(夫))
・芸能関係作業従事者
・アニメーション制作作業従事者
・ITフリーランス
4 どのような給付を受けられるか
おもな給付内容はつぎの通りです。
①療養(補償)等給付
【支給事由】
仕事または通勤によるケガや病気により療養するとき
【保険給付の種類・内容】
労災病院または労災指定病院等において必要な治療等が無料で受けられます。それ以外の医療機関等で治療等を受けた場合には、治療等に要した費用が支給されます。
②休業(補償)等給付
【支給事由】
仕事または通勤によるケガや病気による療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき
【保険給付の種類・内容】
休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額(注)の60%(特別支給金20%と合わせて80%)が支給されます。
③障害(補償)等給付
㋐障害(補償)等年金
【支給事由】
仕事または通勤によるケガや病気の状態が安定し、治療してもこれ以上改善しない状態(治ゆ(症状固定))となり、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき
【保険給付の種類・内容】
1年当たり給付基礎日額(注)の313日(第1級)~131日(第7級)分が支給されます。
㋑障害(補償)等一時金
【支給事由】
仕事または通勤によるケガや病気が治ゆ(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき
【保険給付の種類・内容】
給付基礎日額(注)503日分(第8級)~56日(第14級)分が支給されます。
④遺族(補償)等給付
㋐遺族(補償)等年金
【支給事由】
仕事または通勤が原因で死亡したとき
【保険給付の種類・内容】
遺族の人数に応じ、1年当たり給付基礎日額(注)の245日(4人以上)~153日(1人)分が支給されます。
㋑遺族(補償)等一時金
【支給事由】
遺族(補償)等年金を受ける遺族がないとき
【保険給付の種類・内容】
給付基礎日額(注)の1000日分が支給されます。
(注)1日当たりの収入を基準として加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選択し、都道府県労働局長が承認した額
5 特別加入の手続きはどうするのか
今後設立予定の特定フリーランス事業の特別加入団体に加入申請書等を提出します。
そして、特別加入団体から加入申請書等を所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出することになります。
なお、特別加入の手続きは、特別加入団体によって異なる場合があります。
6 保険給付の手続き
労働災害に遭い、労災保険の給付を受けるためにはつぎのような手続きが必要になります。
①請求書の提出
労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出します。
②調査と決定通知
労働基準監督署は、請求書にもとづいて労災に該当するかどうかを調査し、支給・不支給の決定通知を送ります。
③給付の振り込み
支給の決定があれば、厚生労働省から指定口座へ振り込まれます。
具体的な申請手続きや請求書の記載方法については、労災保険相談ダイヤル(TEL: 0570-006031)に問い合わせることができます。
7 保険料はどれくらいか
年間の保険料は、休業(補償)等給付などの給付額算定の基礎となる給付基礎日額(注)の365日分の0.3%です。
(注)1日当たりの収入を基準として加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選択し、都道府県労働局長が承認した額
<例>給付基礎日額10,000円を選択した場合の年間保険料
10,000円 × 365日 × 3/1000 = 10,950円
以上の詳細については、都道府県労働局または最寄りの労働基準監督署へ問い合わせることができます。
勤務者と違ってフリーランスはいざというときの公的なサポートが少ないです。労災保険に特別加入できるようになることは一歩前進といえます。
とはいえ、必要保障額は人によりまちまちです。不足するようなら民間の保険に加入するなど対策が必要になります。