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不妊治療にかかる費用に対してどのような公的支援を受けられるか

2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大されました。
不妊治療の大きな負担のひとつであった費用面のハードルが下がったことで、ますます不妊治療は身近なものとなっているのです。
健康保険を中心に、不妊治療にかかる費用に対する公的支援についてお話しします。


1 不妊治療は特別なことではなくなった


不妊を心配したことがある、または現在心配している夫婦の割合は年々増えており、2021年には39.2%となっています。約2.6組に1組の割合です。
多くの夫婦が不妊に対する心配を抱えていることがわかります。
 
また、不妊治療を受けたことがある夫婦の割合も同様に増えており、2021年には22.7%となっています。約4.4組に1組の割合です。

(出所)こども家庭庁のウェブサイト

 
不妊治療の経験者が増加している背景には、つぎのような要因があります。
 
①晩婚化 : 結婚年齢の上昇に伴い、妊娠しにくくなるケースが増えています。
②医療技術の進歩 : 不妊治療の技術が進歩し、治療を受ける選択肢が増えています。
③社会的認知の向上 : 不妊治療に対する理解と受け入れが進み、治療を受けることが一般的になっています。
 
さらに、体外受精により出生した赤ちゃんの数は年々増加しており、2021年には69,797人でした。全出生数の約8.6%、約11.6人に1人に相当します。
体外受精が一般的な不妊治療の一環として広く受け入れられていることを示しています。

(出所)こども家庭庁のウェブサイトを加工

2 不妊治療において健康保険が適用される範囲


2022年4月より「一般不妊治療」および「生殖補助医療」が広く保険適用されるようになりました。
保険適用により基本的に3割負担となります。
 
不妊治療の全体像と、保険適用範囲はつぎの図のとおりです。

(出所)厚生労働省「不妊治療に関する支援について」を加工

 
不妊治療の保険適用を受けるための条件はつぎのとおりです。
 
①年齢制限(生殖補助医療のみ。一般不妊治療は制限なし)
治療開始時に女性の年齢が43歳未満であること。
 
②回数制限(生殖補助医療のみ。一般不妊治療は制限なし)
体外受精や顕微授精の回数制限は、40歳未満の女性は1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満の女性は1子ごとに通算3回まで。
回数は胚移植の回数でカウントされ、採卵回数ではありません。
 
③結婚していること(事実婚も含む)
受診の際に医療機関から、事実婚関係について確認されたり書類を求められたりすることがあります。
 
また、不妊治療が保険適用されたことにより、高額療養費制度が利用できるようになりました。
高額療養費制度は、1カ月にかかった医療費が一定の限度額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
医療費の自己負担額が軽減されます。

3 不妊治療における先進医療の保険適用


先進医療は最新の医療技術を用いた治療法で保険適用外のものが多いですが、一定の条件を満たす場合には保険適用となります。
不妊治療において保険適用の対象となる先進医療や、保険診療と併用できる先進医療にはつぎのようなものがあります。

(出所)こども家庭庁のウェブサイトをもとに作成

4 不妊治療に対する地方自治体の助成制度がある


2022年3月までは国の助成金(特定不妊治療助成金)がありましたが、不妊治療の保険適用に伴い終了しました。
一方で、つぎのような独自の助成制度を設けている地方自治体があります。
 
①東京都
体外受精や顕微授精と併用して実施される先進医療の費用を助成する制度があります。
 
②大阪府
不妊治療の保険診療の制限回数を超えた場合に、追加の治療費を助成する制度があります。
 
③愛知県
先進医療を除く保険適用外の不妊治療(たとえば卵子凍結など)に対して助成金を支給する制度があります。全額自己負担となる治療費の一部が補助されます。
 
また、青森県は、公的医療保険が適用される生殖補助医療にかかる自己負担額の全額を助成する制度を設けています。
 
くわしい情報は、各地方自治体のウェブサイトや窓口で確認するとよいでしょう。

5 不妊治療を対象とする民間の医療保険や融資商品もある 


民間の医療保険には、不妊治療特約を付けられる商品があります。
体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療に対する費用をカバーするものです。
治療の種類や回数に応じて給付金が支払われます。
具体例はつぎのとおりです。
【A社の不妊治療特約】体外受精1回につき10万円の給付金が支給される
【B社の不妊治療特約】顕微授精1回につき15万円の給付金が支給される
 
不妊治療特約を付けることで保険料が上がる場合があるため、加入前に確認しましょう。
また、不妊治療を開始したあとでは特約を追加できない場合もあるので、治療開始前に手続きをする必要があります。
くわしい情報は、各保険会社のウェブサイトや窓口で確認するとよいでしょう。
 
また、不妊治療にかかる費用を対象にした融資商品としてつぎのようなものがあります。

6 不妊治療の費用負担について残る課題


不妊治療が保険適用となったことで経済的負担は大幅に軽減されましたが、依然としていくつかの課題が残っています。
 
(1)自己負担額の存在
保険適用後も、自己負担額が完全にゼロになるわけではありません。
たとえば、体外受精や顕微授精の自己負担額は6~8万円程度です。
治療を繰り返す場合には大きな負担となる可能性があります。
 
(2)保険適用外の治療
保険適用外の治療や検査も存在します。
たとえば、先進医療や特定の検査は保険適用外となることがあり、その費用は全額自己負担となるのです。
 
(3)年齢制限と回数制限
保険適用には年齢(治療開始時に女性が43歳未満)や回数(40歳未満で通算6回、40歳以上43歳未満で通算3回)の制限があります。
一定の年齢や回数を超えると保険適用外となり、全額自己負担となって経済的に厳しくなる可能性があるのです。
 
(4)高額療養費制度の限界
高額療養費制度を利用することで自己負担額を軽減できますが、制度の上限額を超える場合には依然として高額な負担となります。
 
(5)精神的負担
経済的負担だけでなく、治療の成功率や治療期間の長さによる精神的な負担も大きな課題です。
治療が長引くことで、経済的負担と精神的負担が重なることがあります。
 
以上のような課題を解決するためには、さらなる制度の改善や支援が必要です。
 

 
不妊治療には経済的にも精神的にも身体的にも時間的にもかなりの負担がかかるものです。
公的な相談窓口として全国各地にある「性と健康の相談センター」もあります。
公的支援などを上手に活用して治療に取組むとよいでしょう。

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