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亡くなった人の確定申告「準確定申告」の重要ポイント

所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について計算します。
1年間の所得金額に対する税額を算出して、翌年の2月16日から3月15日までの間に申告と納税をすることになっています。
 
しかし、年の中途で死亡した人の場合は、本人は申告や納税ができません。
相続人(包括受遺者を含む)が、本人に代わって「準確定申告」をする必要があります。
相続人が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算します。
そして、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に申告と納税をすることになるのです。
 
準確定申告の要否や、申告の際に注意すべきポイントなどについてお話しします。


1 準確定申告が必要な場合と不要な場合

 
(1)準確定申告が必要な場合
 
①自営業や不動産収入がある場合
被相続人が自営業を営んでいたり、不動産収入があったりした場合です。
 
②給与所得が2,000万円以上の場合
被相続人の給与所得が2,000万円以上であった場合です。
 
③複数の給与所得がある場合
被相続人が複数の企業から給与を受け取っていた場合です。
 
④年金受給額が400万円以上の場合
被相続人が年金受給者で、年金受給額が400万円以上であった場合です。
 
⑤副収入が20万円以上の場合
被相続人が副収入を得ており、その額が年間20万円以上であった場合です。
 
(2)準確定申告が不要な場合
 
①給与所得者で年末調整が行われている場合
被相続人が給与所得者であり、勤務先で年末調整が行われている場合です。
 
②年金受給額が400万円以下で、副収入が20万円以下の場合
被相続人が年金受給者で、年金受給額が400万円以下であり、副収入が年間20万円以下であった場合です。
 
③相続放棄をした場合
相続人が相続放棄をした場合、その相続人は準確定申告を行う必要はありません。
 
ただし、準確定申告が不要なケースでも医療費控除などで還付金を受けるためには申告が必要です。
この点については後述します。

2 準確定申告を行う際に注意すべきポイント


(1)申告期限
準確定申告は、被相続人が相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内に行わなければなりません。
たとえば、被相続人が12月2日に亡くなり、その事実を12月3日に知った場合、申告期限は翌年の4月3日までとなります。
申告期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるので注意が必要です。
また、55万円または65万円の青色申告特別控除も受けられなくなり、青色申告特別控除の適用が10万円に制限されます。
 
(2)必要書類
おもな必要書類はつぎのとおりです。
発行に時間がかかるケースもあるので、早めに揃えるようにしましょう。
 
・確定申告書の第1表・第2表(通常の確定申告書と同様の形式。「準確定申告書」と明記する)
・被相続人の所得に関する書類(源泉徴収票、給与明細、年金の支払通知書、配当金の支払通知書など)
・控除証明書類(医療費の領収書、保険料の控除証明書など)
・相続人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
 
(3)準確定申告の手続き
 
①死亡の確認と相続人の決定
死亡証明書や戸籍謄本を取得し、だれが相続人になるかを確認します。
 
②所得の把握
死亡した人の収入を確認します。
給与明細や年金の源泉徴収票、不動産の賃貸契約書などが必要です。
 
③申告書の作成と提出
必要な書類を揃え、申告書を作成し、死亡を知った日の翌日から4カ月以内に被相続人の死亡当時の納税地の税務署長に提出します。
 
相続人が複数いる場合は、相続人全員が署名のうえ提出します。
各相続人の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した準確定申告書の付表の添付が必要です。
また、還付金の受領を相続人の代表者に委任する場合には、委任状も必要になります。
ただし、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。
この場合、申告書を提出した相続人は、ほかの相続人に申告した内容を通知しなければなりません。

3 準確定申告の所得計算で注意すべきポイント

 
(1)固定資産税
固定資産税は、賃貸用不動産などの収益を生む資産に対して課される税金で、必要経費として計上できます。
 
①相続開始前に納税通知書の交付があった場合
準確定申告において、被相続人の不動産所得等の必要経費として計上する金額は、つぎのいずれかを選択できます。
 
・当該年度の固定資産税の全額
・被相続人の死亡時までに納期が到来した固定資産税の額
・被相続人の死亡時までに実際に納めた固定資産税の額
 
②相続開始後に納税通知書の交付があった場合
被相続人の所得計算において必要経費として計上できません。
この場合、その賃貸不動産を相続した相続人の不動産所得等の必要経費として計上します。
 
(2)減価償却費
減価償却費は、建物や設備などの固定資産の価値を年々減少させるための費用で、必要経費として計上できます。
準確定申告において、被相続人が所有していた資産については、相続開始日までの月数案分(1カ月未満切り上げ)で減価償却費を計上します。
相続開始後の減価償却費は、相続人が相続開始日以降の月数案分(1カ月未満切り上げ)で減価償却費を計上します。
たとえば、相続開始日が9月5日の場合、被相続人の準確定申告で9/12を計上し、相続人の確定申告で4/12を計上します。
 
(3)配当金
配当金は、株主総会での決議日において権利が確定します。
したがって、相続開始日までに決議された配当金は、被相続人の所得として計上します。
被相続人が亡くなったあとに支払われる配当金(未収配当金)は、相続財産として計上する必要もあります。
 
相続開始日の翌日以降に決議された配当金は、相続人の配当所得として計上します。
配当基準日(決算日)の翌日から決議日までの間に相続が開始した場合は、配当期待権を相続財産として計上する必要もあります。
 
(4)給与所得
被相続人が亡くなった日までに支払われた給与は、被相続人の所得として計上します。
被相続人が亡くなったあとに支払われる給与(未収給与)は、相続財産として計上します。
 
(5)雑所得(公的年金等)
公的年金は、年金受給者が亡くなった日までに支払われた分を準確定申告の対象とします。
被相続人が亡くなったあとに遺族に支払われる年金(未支給年金)は、遺族の一時所得として計上します。
相続財産としては計上されません。

4 準確定申告の所得控除

 
(1)物的控除
死亡日までに被相続人が実際に支払った分が対象です。
死亡日時点で未払いの分は対象となりません。
 
①医療費控除
被相続人が亡くなるまでに支払った医療費が対象です。
医療費控除を受けるためには、医療費の領収書を保管しておく必要があります。
 
②社会保険料控除
健康保険料、介護保険料、年金保険料など、被相続人が支払った社会保険料が対象です。
 
③生命保険料控除
被相続人が支払った生命保険料が対象です。
生命保険料控除証明書を保管しておく必要があります。
 
④地震保険料控除
被相続人が支払った地震保険料が対象です。
地震保険料控除証明書を保管しておく必要があります。
 
⑤寄附金控除
被相続人が行った寄附金が対象です。
寄附金の領収書を保管しておく必要があります。
 
(2)人的控除
死亡日の現況により判定を行います。
 
①配偶者控除
被相続人に配偶者がいる場合、配偶者控除が適用されます。
配偶者の所得が一定額以下であることが条件です。
 
②扶養控除
被相続人に扶養家族がいる場合、扶養控除が適用されます。
扶養家族の所得が一定額以下であることが条件です。
 
③障害者控除
被相続人やその扶養家族が障害者である場合、障害者控除が適用されます。
 
④寡婦(寡夫)控除
被相続人が寡婦(寡夫)である場合、寡婦(寡夫)控除が適用されます。
 
⑤勤労学生控除
被相続人が勤労学生である場合、勤労学生控除が適用されます。

5 準確定申告により還付金を受けられる場合に注意すべきポイント


還付申告書を提出できるケースでは、申告義務がなくても準確定申告を行うことで過払いの税金が還付される場合があります。
 
(1)還付申告の期限
相続が開始した年の翌年1月1日から5年間です。
たとえば、2024年の所得に対する還付申告は、2025年1月1日から2029年12月31日までに行うことができます。
 
(2)還付金額と相続税
還付金額は相続財産の一部とみなされるため、相続税の課税対象となります。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。
還付金額が相続税の課税対象となる場合は、この期限に間に合わせる必要があります。
 

 
なお、被相続人が個人事業主で、消費税や事業税の課税対象であった場合には、それぞれの申告も必要になります。
申告期限は、消費税は被相続人が亡くなった日の翌日から2カ月以内、事業税は被相続人が亡くなった日の翌日から4カ月以内です。
 
準確定申告は、亡くなった方の最終的な税務手続きであり、正確に行うことが重要です。
実際の申告においては、税理士などの専門家に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。

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