不動産広告の規制内容を知れば確認すべきポイントがわかる
住宅を購入したいとき、賃貸住宅を借りたいときなどに、不動産のチラシやインターネット広告を判断材料とする人が多いでしょう。
不動産業者は、成約したいがために、より魅力的な内容にしようと虚偽広告や誇大広告をしてしまわないとも限りません。
そこで、不動産広告には「規制」があります。
つぎの法律や規約に基づいて、不動産広告は消費者に正確で公平な情報を提供することが求められています。
不動産広告について、具体的にどのような規制があるのか、広告をどのように見ればよいのかについてお話しします。
1 不動産広告に関する違反事例や相談事例
不動産広告に関する違反事例や相談事例として、つぎのようなケースがあります。
(1)違反事例
①おとり広告
実際には存在しない物件を広告に掲載し、問い合わせを誘導する手法です。
たとえば、非常に魅力的な条件の物件を掲載します。そして問い合わせがあった際に「その物件はすでに契約済みですが、ほかにも良い物件があります」と別の物件を紹介するのです。
②誤解を招く表示
物件の実際の状態や条件を誤って伝える広告です。
たとえば、駅からの距離を実際よりも短く表示したり、物件の面積を実際よりも広く表示したりします。
③不適切な価格表示
実際の価格よりも低い価格を広告に掲載し、問い合わせを誘導する手法です。
たとえば、契約時に追加費用が発生することを明示せずに広告を出します。
(2)相談事例
①契約後のトラブル
広告に記載されていた内容と実際の物件が異なる場合、契約後にトラブルが発生した事例があります。
たとえば、広告には「新築」と記載されていたが、実際にはリノベーション物件だったというケースです。
②費用に関する相談
広告に記載されていた費用と実際に請求された費用が異なるという事例があります。
たとえば、広告には「礼金なし」と記載されていたが、契約時に礼金が請求されたというケースです。
③物件の状態に関する相談
広告に記載されていた物件の状態と実際の状態が異なるという事例があります。
たとえば、広告には「リフォーム済み」と記載されていたが、実際にはリフォームが不十分だったというケースです。
2 宅地建物取引業法(宅建業法)による規制
宅建業法は、消費者保護と公正な取引を促進するため、不動産広告に関してつぎのようなルールを定めています。
(1)誇大広告の禁止
実際の物件の状態や条件を過大に表現することは禁止されています。
たとえば、物件の面積や設備について誤解を招くような表現は避けなければなりません。
(2)取引態様の明示
広告には、宅建業者としての取引の態様(売主、代理、媒介など)を明示する必要があります。
消費者は取引の相手方が誰であるかを明確に理解できるようにするためです。
(3)広告開始時期の制限
物件の販売や賃貸の広告を開始する時期には制限があります。
たとえば、建築確認が下りていない未完成物件の広告は行えません。
(4)必要な表示事項
広告には、物件の所在地、価格、面積、構造、築年数などの基本情報を正確に表示する必要があります。
3 不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)
表示規約は、不動産広告における表示の公正性を確保するための自主的なルールです。
この規約は、景品表示法にもとづき、公正取引委員会および消費者庁長官によって認定されています。
公正取引委員会が広告の不当性を判断する際にはこの規約が参酌されます。
一般消費者が「居住すること」を前提として取引される物件を規制の対象としています。
たとえば、新築住宅やマンション、賃貸アパート、住宅用地として取引される宅地などです。
店舗や事務所など「事業をすること」を前提として取引される物件は規制の対象外となります。
表示規約は、広告に掲載する情報の正確性や明確性を確保するため、つぎのような基準が定められています。
(1)広告表示の開始時期
未完成の住宅や新たに造成する宅地は、建築確認や開発許可など、許可などの処分を受けていないと広告できません。
未完成物件を広告する時は、建築確認番号や開発許可番号の記載が必要です。
(2)表示すべき事項
①必要な表示事項
必要な表示事項とは、いわゆる「物件概要」です。
インターネット広告、チラシ(新聞折込み、投げ込みなど)、新聞、雑誌、パンフレットなどには必ず記載しなければなりません。
つぎの要領で表示する必要があります。
・見やすい場所に
・見やすい大きさ(原則として7ポイント以上の文字)で
・見やすい色彩の文字で
・分かりやすい表現で
・明りょうに
②予告広告の特例
予告広告とは、価格などが確定していない物件について取引開始時期を告知する広告です。
予告広告(14ポイント以上の文字)で価格未定であること、予定の価格帯などの明示が必要です。
分譲宅地、新築分譲住宅、新築分譲マンション、新築賃貸マンション、新築賃貸アパートに限られます。
③特定事項の明示義務
売買物件で、つぎのいずれかに該当する場合は、その旨をすべての広告媒体に表示しなければなりません。
・建築条件付土地の条件などの内容
・セットバックを必要とする土地
・都市計画施設の区域にかかる土地
・再建築(建築)できない土地
・条例による敷地形態制限に適合しない土地
・市街化調整区域内に所在する土地
・古家が存在する土地
・30%以上の路地状部分を含む土地
・30%以上の傾斜地を含む土地
・著しい不整形地
・擁壁によっておおわれないがけ上、がけ下にある土地(建築制限がある場合には、その内容も併記)
・高圧線下の土地
・地下鉄の線路を敷設するなどにおいて、地上権が設定されている土地
・沼沢地、湿原または泥炭地
・建築工事を相当期間中断した新築物件
・国土利用計画法の適用がある物件
(3)表示基準・使用基準
①物件の内容および取引条件に係る表示基準
㋐取引態様
「売主」、「貸主」、「代理」または「媒介(仲介)」の別を表示
㋑物件の所在地
都道府県(県庁所在地などの場合は省略可)、郡、市区町村、字、地番を表示
㋒交通の利便性
最寄駅などの名称および物件から最寄駅などまでの徒歩所要時間を明示して表示など
㋓各種施設までの距離または所要時間
・起点と着点を明示して表示(マンションやアパートの起点は建物の出入口)
・徒歩所要時間は道路距離80mにつき1分間を要するものとして算出 など
㋔団地の規模
㋕面積
・面積はメートル法により表示
・土地は水平投影面積、建物は延べ面積を表示
・畳1枚の広さは1.62㎡以上の広さがあるという意味で用いる など
㋖物件の形質
・建築基準法において居室と認められない納戸その他の部分については、その旨を「納戸」などと表示
・地目は登記簿に記載されているものを表示
・リフォームなどをしたことを表示する場合には、その内容と実施時期を表示 など
㋗写真・絵図
・宅地または建物の写真は取引するものの写真を用いて表示
・宅地または建物の見取図や完成図または完成予想図はその旨を明示して用いる。当該物件の周囲の状況について表示するときは現況に反する表示をしない
㋘設備・施設など
ガスは、都市ガス、LPガス集中方式またはLPガス個別方式などの別を明示して表示 など
㋙生活関連施設
学校、病院、官公署、公園などの公共・公益施設やスーパーなどの商業施設は物件からの道路距離または徒歩所要時間を明示して表示 など
㋚価格・賃料
・土地の価格は上下水道施設・都市ガス供給施設の設置のための費用その他宅地造成に係る費用(消費税を含む)を含めて表示
・住宅(住戸)の価格は1戸当たりの価格(敷地の価格、建物(電気、水道、ガス供給施設の費用などを含む)の消費税の含む)を表示 など
㋛住宅ローンなど
金融機関の名称、融資限度額、借入金の利率、利息を徴する方式などを表示 など
②特定用語の使用基準(規約第18条)
(ア)定義
㋐新築 : 建築後1年未満かつ居住の用に供されたことがないもの
㋑新発売 : 新たに造成された宅地または新築の住宅(未完成のものを含む)について一般消費者に初めて購入の申込み勧誘を行うこと
㋒ダイニング・キッチン(DK) : 台所と食堂の機能が1室に併存している部屋で、用途に使用するために必要な広さ、形状、機能を有するもの
㋓リビング・ダイニング・キッチン(LDK) : 居間と台所と食堂の機能が1室に併存する部屋で、用途に使用するために必要な広さ、形状、機能を有するもの
㋔宅地の造成工事の完了 : 宅地上に建物をただちに建築することができる状態に至ったこと(完了検査が必要な場合は検査に合格したこと)
㋕建物の建築工事の完了 : 建物をその用途でただちに使用できる状態になったこと
(イ)合理的な根拠がないと使用できない用語
㋐完全、完ぺき、絶対、万全など
まったく欠けるところがないことまたはまったく手落ちがないことを意味する用語
㋑日本一、日本初、業界一、超、当社だけ、ほかに類を見ない、抜群など
競争事業者の供給するものまたは競争事業者よりも優位に立つことを意味する用語
㋒特選、厳選など
一定の基準により選別されたことを意味する用語
㋓最高、最高級、極、特級など
最上級を意味する用語
㋔買得、土地値、格安、激安、安値など
著しく安いという印象を与える用語
㋕完売など
著しく人気が高く、売行きがよいという印象を与える用語
(4)不当表示の禁止
①不当な二重価格表示
二重表示とは、たとえば、「3,580万円 → 3,280万円」、「新価格 3,000万円! 200万円引き」などと表示することです。
二重価格表示は原則禁止ですが、一定の条件をクリアできれば表示可能となります。
㋐過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
つぎの要件のすべてに該当し、かつ、実際に販売していたことを客観的に明らかにできる場合に認められます。
・過去の販売価格の公表時期および値下げの時期を明示したものであること
・比較対照価格に用いる過去の販売価格は、値下げの直前の価格で、かつ、値下げ前2カ月以上、実際に公表していた価格であること
・値下げの日から6カ月以内に表示するものであること
・過去の販売価格の公表日から二重価格表示を実施する日まで物件の価値に同一性が認められるものであること
・土地または建物について行う表示であること
㋑一定の条件に適合する取引の相手方に対し、販売価格、賃料などから一定率または一定額の割引をする場合
当該条件を明示して、割引率、割引額または割引後の額を表示すれば表示可能となります。
たとえば次のようなケースです。
・売買代金全額をキャッシュで支払う場合は10%引きとする
・2年分の家賃を一括払いした場合は総額から10%引きとする など
②おとり広告
つぎのような「おとり広告」は禁止されています。
・物件が存在しないため、実際には取引することができない物件の表示
・物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件の表示
・物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示
③その他の不当表示
不当表示とは、つぎのいずれかに該当する表示で、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあるものをいいます。
㋐物件の所在、形質その他の内容について、実際またはほかの競争事業者のものよりも優良と一般消費者に誤認されるおそれのある表示
【例】
・「〇〇駅徒歩10分」⇒ 実際は15分(直線距離で算出した分数を表示)
・「間取り 4LDK」⇒ 実際は3LDK+納戸(4.5畳の納戸を居室とカウント)
㋑物件の価格、支払方法その他の取引条件について、実際またはほかの事業者よりも有利と一般消費者に誤認されるおそれのある表示
【例】
・「価格 4,050万円」⇒ 4,150万円(水道、ガスの引込工事代金を含めず)
・「諸費用 -」⇒ 契約時に、保証料40,000円、鍵交換費用15,000円が必要(記載していない)
㋒事業者の信用その他物件の取引に関連する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示
不動産広告を見る際には、以上のポイントを踏まえて注意深く確認することで、トラブルを未然に防ぐことが大切です。
実際に物件を見学する際に確認したり、契約条件や特約事項についてもきちんと理解したりすることも重要です。
必要に応じ、ほかの不動産業者やファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談してもよいでしょう。