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遺贈により死後にだれかの役に立つという選択

いわゆるおひとりさまや子供がいない夫婦が増えてきています。遺産を、疎遠にしている甥や姪などに相続させたくないという方が少なくありません。
一方で、相続人になれないパートナーやペットに遺したいとか、病院などの施設や慈善団体に使ってほしいなどと考える方もいます。
また、相続人がいない場合、最終的には国庫に帰属することになります。国庫に帰属した遺産は、2022年度は過去最多の768億円にまで増加しました。
 
せっかくの虎の子の財産を自由に活用できないのはもったいない話です。さらに、不本意な形で相続人や国庫に渡り、何に使われるかわからないのでは、財産を築き上げた苦労が水の泡ではないでしょうか?
 
相続人の有無に関わらず、自分の死後に遺産をどう使うか、自分の意思で決めたいと考える方が増えています。
お世話になった人に報いたい。だれかのために役に立てたい。あるいは社会貢献したい。
そうした思いは、人生最期の日の満足感にもつながることでしょう。
 


1 遺贈とは


 遺産をだれに引き渡すかを自分で決める方法は、「遺言」を作成することです。
そして、遺言により法定相続人以外の人に自分の財産を無償で譲ることを「遺贈」といいます。
 

2 遺贈の種類


 遺贈には次のような種類があります。

(1)包括遺贈


遺産の全部または一部(割合をもって示す)を譲る方法です。
包括受遺者(遺産をもらう人)は相続人と同一の権利義務をもちます。そのため、遺言者に借金などの負債があれば遺贈の割合にしたがって引き受けなければなりません。また、放棄するには自己のために遺贈のあったことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に対して申述をしなければなりません。

(2)特定遺贈


特定の財産を指定して譲る方法です。たとえば、どこどこの不動産を遺贈すると指定するケースです。
遺言者の指定がない限り負債を引き継ぐことはありません。放棄は遺贈者の死後いつでもできます。

(3)負担付遺贈


遺贈者が受遺者(遺産をもらう人)に対して対価とは言えないほどの義務を負担するよう求める場合です。たとえば、ペットの世話を条件に遺贈するといったケースです。
受遺者は放棄することができます。
 

3 遺贈の注意点


(1)遺留分に配慮する


法定相続人がいる場合は、遺贈により遺留分を侵害しないようにしなければなりません。
遺留分のある法定相続人は、配偶者、子や孫などの直系卑属、父母や祖父母などの直系尊属です。兄弟姉妹や甥、姪には遺留分はありません。

(2)有効な遺言を作成する


遺言は形式や手続きが厳格に定められています。所定の要件が欠ければ無効となってしまいます。

自分で作成する「自筆証書遺言」が簡単ですが、不備があれば無効となりますし、紛失のリスクもあります。法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法もあります。

公証人が作成する「公正証書遺言」は、無効や紛失のリスクがなくなりますが、費用がかかり2人の証人が必要になります。

遺言の作成にあたっては、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家へ相談することが無難でしょう。

(3)税金の支払いも考慮する


 ①相続税
遺贈は相続税の対象となり、受遺者(遺産をもらう人)の負担となります。
相続税の税率は10~55%で、遺産が高額になるほど税率が高くなります。
また、受遺者が配偶者・一親等の親族以外であれば相続税が2割加算になり、通常よりも相続税が高くなります。

高額の遺贈の場合は相続税の負担が重くなることに注意する必要があります。
 
②不動産取得税
相続人以外が特定遺贈で不動産を譲り受けた場合、不動産取得税が課税されます。
 
遺贈にかかる税金の具体的な計算が必要になる場合は、税理士に相談することをおすすめします。

4 遺贈寄付


遺贈寄付とは、遺言により遺産の全部または一部を、公益法人、NPO法人、学校法人、その他の団体や機関などに寄付する方法です。
遺贈寄付は、人生最後の社会貢献として注目されています。
 

(1)具体例


 ①母校への寄付
母校の大学や高校に遺贈寄付することで、母校の維持・発展や学生の支援に貢献できます。
 
②医療研究機関への寄付
病気や健康の研究をしている機関に遺贈寄付することで、医療研究の進歩や新薬の開発に寄与できます。
 
③環境保護団体への寄付
環境問題に取り組む団体に遺贈寄付することで、地球環境の保護や持続可能な社会の実現に貢献できます。
 
④社会福祉施設への寄付
老人ホームや障がい者支援施設などの社会福祉団体に遺贈寄付することで、高齢者・障がい者や福祉活動の支援ができます。
 
⑤文化・芸術団体への寄付
美術館、劇場、音楽団体などの文化・芸術団体に遺贈寄付することで、文化振興や芸術活動を応援できます。

(2)遺贈寄付の注意点


①専門家に相談する
遺贈寄付を検討する際には、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家と相談したほうがよいでしょう。
どの団体に寄付するか慎重に選び、自分に合った方法を選択することが大事です。
 
②自分が貢献したい相手先を選ぶ
自分の遺産を役立ててもらいたいと考える先であることが満足感につながるでしょう。
遺贈寄付が非課税になる団体を選ぶ方法もあります。国立大学法人、公益社団法人および公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人などです。
 
③不動産は活用できる形で遺贈する
不動産を譲り受けても有効活用や管理、換金化が困難なケースがあります。ひとつの方法として、不動産は現金化して遺贈寄付すると活用しやすくなるでしょう。
 
④相手先に事前に意向を確認する
事前に遺贈寄付先が遺贈を受け取る意思があるかどうかを確認したほうがよいでしょう。受け入れてくれないのであれば意味がなくなってしまいます。

(3)遺贈寄付の手順


①遺贈寄付の意思を固め情報収集する
自分の大切な財産を死後に、だれにどのように役立てもらいたいかを考えます。
遺贈寄付を受け入れているさまざまな団体の資料を取り寄せたり、ネットで調べたりして情報収集するとよいでしょう。さまざまな事例を調べる方法もあります。
そうして心から応援したい団体を選ぶことが大事です。
 
②専門家に相談する
弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談し、遺言書作成や遺贈寄付先選定をサポートしてもらいましょう。
 
③遺贈寄付先を選ぶ
心から支援したいと思える先を慎重に選びます。
必要に応じて候補先と接触して相性や意向を確認するとよいでしょう。
 
④遺贈する財産を決める
財産の洗い出しと遺留分の確認を行い、遺贈寄付する対象財産を特定します。
 
⑤遺言書を作成して保管する
専門家のサポートを受けて遺言書を作成します。
 
⑥死後に遺言が執行される
相続が開始したら、遺言執行者が相続人や受遺者(遺産をもらう人)に対して遺言内容の開示を行います。
そして遺言書の指示にしたがって遺贈寄付が実行されます。
 



自分の遺産をだれに引き継いでもらうのかを決めることも、今や多様化しています。特定の人への感謝でも、社会貢献目的でも自由なのです。
死後においても自分の想いを伝え、だれかの役に立つことができれば、たいへんうれしいことなのではないでしょうか。

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