老朽化マンションが抱える問題
老朽化したマンションが増加しています。
国土交通省によると、2021年末時点でのマンション総数は約685.9万戸です。
これに2020年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.21をかけると約1,516万人となります。
国民の1割超がマンションに居住している推計となるのです。
また、2022年末時点で、築40年以上のマンションは約125万7千戸存在しており、マンション総数の約18%に相当します。
さらに、10年後に約2.2倍の249万千戸、20年後には約3.7倍の425万4千戸に急増すると予測されています。
老朽化マンションの問題点として、居住者の高齢化、空き住戸の増加、管理組合の担い手不足などが挙げられます。
その結果、適切な管理や再生が行われず、居住環境の悪化や安全性の問題が生じるおそれがあります。
老朽化マンション問題と対策の現状についてお話しします。
1 マンションの居住と管理の実態
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」から引用します。
(1)世帯主の年齢
2003年度からの変化をみると、60歳代、70歳以上の割合が増加、50歳代以下の割合が減少しており、居住者の高齢化の進展がうかがわれます。
完成年次別内訳をみると、完成年次が古いマンションほど70歳以上の割合が大きくなっています。
(2)賃貸戸数割合
2018年度と比較すると、賃貸住戸のあるマンションの割合は増加しています。
完成年次別内訳をみると、完成年次が古いマンションほど賃貸住戸があるマンションの割合が大きくなる傾向があります。
(3)空室戸数(3カ月以上)割合
2018年度と比較すると、空室があるマンションの割合は減少しています。
しかし、完成年次別内訳をみると、完成年次が古いマンションほど空室があるマンションの割合が大きくなる傾向があります。
また、完成年次が古いマンションほど所在不明・連絡先不通の住戸があるマンションの割合が大きくなる傾向があります。
(4)老朽化対策についての議論の有無、及び議論の方向性
マンションの老朽化問題についての対策の議論を行い、建替え・解体等又は修繕・改修の方向性が出た管理組合は13.3%です。
一方、議論は行ったが方向性が出ていない管理組合は12.5%、議論を行っていない管理組合の割合は66.1%です。
2 老朽化マンション問題とは
老朽化マンション問題は、日本の都市部を中心に深刻化しています。
(1)建物の老朽化
①構造の劣化
築年数が経過するにつれて、建物のコンクリートや鉄筋が劣化し、耐震性や防水性が低下します。
②設備の老朽化
給排水設備や電気設備、エレベーターなどの共用設備も老朽化し、故障や事故のリスクが高まります。
(2)居住者の高齢化
①高齢化率の上昇
老朽化マンションに住む住民の多くが高齢者であり、管理組合の運営や修繕費の負担が難しくなっています。
②孤立の問題
高齢者が多いマンションでは、住民同士の交流が少なくなり、孤立が進む懸念があります。
(3)空き住戸の増加
①空き住戸の増加
老朽化や立地条件の悪化により、空き住戸が増加し、マンション全体の価値が下がることがあります。
②管理費の負担増
空き住戸が増えると、残りの住民に対する管理費の負担が増加し、修繕や維持管理が難しくなります。
(4)管理組合の課題
①担い手不足
高齢化により、管理組合の役員を務める人材が不足し、適切な運営が困難になることがあります。
②資金不足
修繕積立金が不足している場合、大規模修繕が行えず、建物の劣化が進行するリスクがあります。
(5)再生・建て替えの難しさ
①合意形成の難しさ
再生や建て替えには住民の合意が必要ですが、意見の対立や高齢者の反対などで合意形成が難航することがあります。
②費用の問題
再生や建て替えには多額の費用がかかるため、資金調達が難しい場合があります。
3 最近のマンション建替えの動向
(1)建替えの実績
2024年4月1日時点で、マンションの建替え実績は累計で297件(約2万4千戸)に過ぎません。
近年では、マンション建替円滑化法による建替えが多く選択されています。同法は、建替えの手続きを簡素化し、住民の合意形成を支援するものです。
(2)敷地売却の増加
建替えが難しい場合に敷地を売却して新たな開発を行う手法を使った実績は、累計で11件(約700戸)となっています。
(3)再生手法の多様化
建替えだけでなく、大規模修繕やリノベーションを通じてマンションの再生を図るケースも増えています。住民の負担を軽減しつつ、住環境の改善を図るものです。
(4)行政の支援
国土交通省や地方自治体は、マンションの建替えや再生を支援するための補助金や相談窓口を設けています。住民が安心して建替えや再生に取り組める環境が整えられてきています。
(5)住民の合意形成
建替えや再生には住民の合意が不可欠です。
最近では、専門家のアドバイスを受けながら、住民同士のコミュニケーションを深める取り組みが進められています。
4 建替えと大規模修繕・リノベーションの比較
それぞれのメリットとデメリットの比較は、つぎの表のとおりです。
5 老朽化マンションにおける建替えとリノベーションの選択の判断基準
国土交通省「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」(令和4年3月改訂)が参考になります。
マンション建替えの合意形成を図る過程で行われる、建替えと修繕その他の方法との比較検討の方法について詳述しています。
つぎのような基準を総合的に考慮し、専門家のアドバイスを受けながら最適な選択を検討することになります。
(1)建物の老朽度
①構造の劣化
建物の耐震性や安全性が著しく低下している場合、建替えが必要となることが多くなります。
②設備の老朽化
給排水設備や電気設備などが老朽化している場合、リノベーションで対応できるかどうかを検討します。
(2)費用対効果
①コストの比較
建替えとリノベーションの費用を比較し、どちらが経済的に有利かを判断します。
②改善効果
それぞれの方法で得られる改善効果を評価し、費用対効果を考慮します。
(3)法的制約
①建築基準法
建替えの場合、新しい建築基準法に適合する必要があります。建替えが難しい場合もありえます。
②既存不適格
既存の建物が現在の法規制に適合していない場合、建替えが必要となることがあります。
(4)住民の合意形成
①合意の必要性
建替えやリノベーションには住民の合意が不可欠です。
とくに建替えの場合、全住民の合意を得ることが難しい場合があります。
②コミュニケーション
住民同士のコミュニケーションを深め、合意形成を図ることが重要です。
(5)住環境の改善
①居住性の向上
バリアフリー化やエレベーターの設置など、住環境の改善が求められる場合、建替えが有効です。
②エネルギー効率
省エネルギー性能の向上が求められる場合、リノベーションで対応できるかを検討します。
6 区分所有法の2024年改正予定内容
高経年マンションの問題を解決するために、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)の2024年中の改正が予定されています。
老朽化マンションの建替えや管理がより円滑に進むことが期待されています。
(1)決議要件の緩和
①建替え決議の要件緩和
耐震性や火災の安全性に問題がある場合、建替え決議に必要な所有者の同意割合が5分の4から4分の3に緩和されます。
②所在不明所有者の除外
所在が不明な所有者は、裁判所の認定を受けることで決議の母数から除外できるようになります。
(2)新たな管理制度の創設
①所有者不明専有部分管理制度
所有者が不明な専有部分について、裁判所が管理人を選任し、管理を命じることができる制度が導入されます。
②管理不全専有部分管理制度
管理が不適当な専有部分についても、裁判所が管理人を選任し、管理を命じることができるようになります。
③管理不全共用部分管理制度
共用部分の管理が不適当な場合にも、同様の管理制度が適用されます。
(3)代理人制度の導入
区分所有者が海外に居住する場合、国内に住所を有する代理人を選任し、管理に関する事務を行わせることができるようになります。
(4)被災マンションの特例
災害により被害を受けたマンションについては、建替え決議の要件が5分の4から3分の2に緩和されます。
高経年マンションが増加し、さまざまな政策が打ち出されてきましたが、建替えのハードルが高いことに変わりはありません。
大規模修繕・リノベーションで対応するにしても修繕積立金の不足といった問題もあります。
老朽化マンション問題に対処するには、行政や専門家の支援を受けながら、住民同士の協力とコミュニケーションが重要になります。