亡くなった人の預貯金口座の手続きはどうする?
銀行や信用金庫、郵便局などの預貯金口座は、口座名義人が亡くなったら引き出せなくなると聞いたことがありませんか?
私の場合、父が亡くなってからも母が父の口座から住宅ローンを返済し、公共料金や税金を支払っていました。
完済するまで約20年間、亡父の口座を使うことができていたのです。
住宅ローンの完済に伴う手続きをする段階になってはじめて銀行に亡くなった事実を伝えました。その時点から口座が入出金できなりました。
つまり、金融機関が亡くなったことを知らなければ、そのまま亡くなった人の口座の出し入れを続けることは可能なのです。
私の例では、父の相続人全員が、父の遺産をすべて母が相続すると合意していたため問題が起きませんでした。
もし、相続で争いがあれば、勝手に引き出したなどと、もめる原因となるケースもありえます。
相続放棄したい場合でも、引き出してしまうと単純承認したとみなされ相続放棄できなくなってしまいます。
また、相続人の一人が亡くなると利害関係人が増えて複雑化してしまいかねません。
ですから、金融機関には、口座名義人が亡くなったことを早めに連絡したほうがよいのです。
具体的にどのような手続きが必要なのかについてお話しします。
1 金融機関への連絡が必要な理由
預貯金口座も含めて、亡くなった人の遺産は、亡くなった時点で相続人全員の共有財産となります。
相続人全員の同意なしに相続人の一人が勝手に口座から引き出したりしてはトラブルになる可能性があります。
ですから、金融機関は、亡くなった人の口座の入出金ができなくなるようにするのです。
遺産分割協議で、亡くなった人の口座を相続する人が決まれば、その人が金融機関に申出て手続きをします。その結果、再び口座の入出金ができるようになります。
手続きには期限がありませんが、後々のトラブルなどを避けるためにも、できるだけ早く行ったほうが無難です。
2 亡くなった人の預貯金口座にかかる金融機関での手続き
亡くなった人の金融機関の口座の相続手続きは、つぎのとおり行います。
具体的な手続きや必要書類は、金融機関によって異なりますので、取引金融機関に問い合わせすることをおすすめします。
(1)金融機関に連絡をする
口座名義人が亡くなったら、金融機関にその旨を連絡します。
それを受けて、金融機関は、亡くなった人の口座について、入出金などの取引ができないようにします。これを口座凍結といいます。
(2)必要書類の準備
手続に必要な書類を準備します。金融機関からの案内にしたがいます。
具体的にどのような書類が必要なのかは後述します。
(3)必要書類の提出
(2)で準備した書類と合わせて、金融機関所定の届出書類への必要事項記入と相続人全員の署名捺印の後、金融機関に提出します。
(4)口座の凍結解除と払戻し
手続が完了すれば、口座の凍結が解除され、口座の払戻しなどの手続が行われます。
手続に日数がかかる場合もあるので注意が必要です。
3 必要書類
金融機関の口座の相続手続きのための代表的な必要書類はつぎの通りです。
具体的な手続きや必要書類は、金融機関によって異なりますので、取引金融機関に問い合わせすることをおすすめします。
(1)遺言書がある場合
①遺言書
②検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
③被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
④その預金を相続される人(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
⑤遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合)
(2)遺言書がない場合
①遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印があるもの)
②被相続人(亡くなった人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
③相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
④相続人全員の印鑑証明書
(3)家庭裁判所による調停調書・審判書がある場合
①家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
②その預金の相続人の印鑑証明書
戸籍謄本や印鑑証明書などは原本の提出が必要です。コピーを取って返却してくれる場合もありますので、原本返却が必要な場合はその旨を申し出るとよいです。
また、戸籍謄本や印鑑証明書などは、発行日から3カ月~1年以内のものなどと、期限が決められている場合があります。金融機関によって異なるので案内にしたがいましょう。
このほか、被相続人(亡くなった人)の口座の通帳やキャッシュカードの提出も求められることがあります。
4 遺産分割前の相続預金の払い戻し制度
遺産分割協議には時間がかかるケースがあります。
その間、遺族の当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になる場合がありえます。
そこで、遺産分割終了前でも、相続人による相続預金の払戻しができる制度があります。
2018年の相続法改正により新たに導入され、2019年7月1日から実施されています。
(1)家庭裁判所の判断により払戻しができる制度
家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合が対象です。相続人が、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることで、相続預金の全部または一部を金融機関から単独で払戻しを受けられます。
ただし、生活費の支払いなどの事情により必要性が認められ、ほかの共同相続人の利益を害しない場合に限られます。
単独で払戻しができる額は、家庭裁判所が認めた金額となります。
本人確認書類、家庭裁判所の審判書謄本、払戻希望者の印鑑証明書を金融機関へ提出することが必要になります。
(2) 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
相続人は、相続預金のうち、口座ごとにつぎの計算式で求められる額について、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。家庭裁判所の判断を経る必要はありません。
相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分
ただし、同一の金融機関からの払戻しは150万円が上限になります
つぎの書類を金融機関へ提出することが必要になります。
・本人確認書類
・被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
・(出生から死亡までの連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・払戻希望者の印鑑証明書
なお、(1)(2)ともに、具体的な手続きや必要書類は金融機関ごとに異なりますので、取引金融機関に問い合わせるとよいでしょう。
死後に必要な事務手続きはほかにも数多くあります。預貯金口座の相続手続きは後回しになるケースもあるでしょうが、なるべく早めに行うことをおすすめします。
遺産分割協議成立前でも、葬儀費用などのために一定金額を引き出せることも知っておけば、いざというとき役立つかもしれません。
なお、最近はネット銀行や、通帳のない口座も増えてきています。相続人が口座の存在を把握できないこともありえます。
どこの金融機関に口座をもっているのかを、相続人となる親族と共有しておくことも必要でしょう。