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リカレント教育(社会人の学び直し)に使える制度

「リカレント(recurrent)」とは、「繰り返す」「循環する」という意味です。
リカレント教育とは、学校教育を終えて社会に出たあとも、必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
わが国では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれます。
社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも呼ばれます。
 
これまでの人生モデルは3ステージが一般的でした。
学校で勉強した後、就職し、ある程度の年齢になったら退職し、リタイヤ後の生活を送るというスタイルです。
 
しかし現在は、キャリアアップ、キャリアチェンジしていく「マルチステージ」の人生モデルへの移行が求められています。
社会に出たあとも、会社をいったん辞めて留学する。
転職や起業で新たな仕事を始める。
子育てをしながら働く。
定年後も新たな仕事に挑戦していく。
背景には、平均寿命の延び、情報技術の進展、働き方改革の推進といった変化があります。

(出所)政府広報オンライン「『学び』に遅すぎはない! 社会人の学び直し『リカレント教育』」


日本政府は、人生100年時代や技術革新の進展に対応するため、リカレント教育を積極的に推進しています。
具体的な取り組みはつぎのようなものです。
 
①文部科学省
・大学や専修学校でのリカレントプログラムの拡充
・産学連携による実践的なプログラムの開発支援
・社会人向けの短期集中講座やオンライン授業の提供
 
②厚生労働省
・職業訓練の充実
・教育訓練給付金制度の拡充
・キャリアコンサルティングの提供
 
③経済産業省
・ITスキルの習得を支援するプログラムの開発
・中小企業の競争力向上を目指した人材育成
 
そして、教育訓練給付金や高等職業訓練促進給付金、キャリアコンサルティングといった支援制度を設けています。
 
リカレント教育は、個人のキャリアアップやキャリアチェンジを支援するとともに、企業の競争力向上にも寄与するものとして注目されています。
リカレント教育に使える支援制度にはどのようなものがあるのかについてお話しします。


1 ハロートレーニング(公的職業訓練)


ハロートレーニングは、求職者が就職に必要なスキルや知識を習得するための訓練プログラムです。
未経験の分野に挑戦したい方や新しいスキルを身につけたい人にとって非常に有益な制度です。
 
(1)特徴
 
①受講料無料
基本的に受講料は無料ですが、テキスト代などの実費は自己負担となる場合があります。
 
②多様なコース
IT、介護、事務、製造など、さまざまな分野のコースが提供されています。
全国の訓練コースを、都道府県、分野、募集期間、訓練期間ごとに検索できます。

③就職支援
訓練終了後の就職支援も行われ、キャリアコンサルティングや求人情報の提供が受けられます。
 
(2)種類

(出所)厚生労働省のウェブページを加工


(3)受講期間中の給付金

 
①雇用保険を受給できる人
雇用保険を受給しながら訓練を受講できます。
そのほかに、つぎの給付金を受けられます。
 
㋐基本手当(離職前の賃金に応じて支給額が異なります)
㋑受講手当:日額500円(上限あり)
㋒通所手当(通所方法により支給額が異なります(上限あり))
㋓寄宿手当
 
②雇用保険を受給できない人
すべての支給要件に該当すれば職業訓練受講給付金の支給を受けられます。
 
【職業訓練受講給付金】
㋐職業訓練受講手当:月額10万円
㋑通所手当(通所方法により支給額が異なります(上限あり))
㋒寄宿手当
 
【支給要件】
ⓐ本人の収入が月8万円以下
ⓑ世帯全体の収入が月30万円以下
ⓒ世帯全体の金融資産が300万円以下
ⓓ現在住んでいるところ以外に土地・建物を所有していない
ⓔすべての訓練実施日に出席している
ⓕ世帯のなかに給付金を受給して訓練を受けている人がいない
ⓖ過去3年以内に不正行為により特定の給付金の支給を受けたことがない
ⓗ過去6年以内に職業訓練受講給付金の支給を受けたことがない
 
ⓐまたはⓑを満たさなくても、つぎのすべての要件を満たす場合は訓練施設への交通費(通所手当)を受給できます。
・本人収入が月12万円以下
・世帯収入が月34万円以下
・ⓒ~ⓗを満たす
 
(4)受講の流れ
受講するためには、まずハローワークに求職申込をします。
その後、ハロートレーニングを実施する施設等が行う選考に合格し、ハローワークで受講あっせんを受ける必要があります。
受講あっせんは、ハローワークが職業相談を通じてつぎの要件に該当すると判断した場合に行います。
①訓練を受講することが適職に就くために必要であると認められる
②訓練を受けるために必要な能力等を有する

(出所)厚生労働省のウェブページを加工

2 教育訓練給付金


教育訓練給付金は、働く人々のスキルアップやキャリア形成を支援するための制度です。
 
(1)種類
対象の講座数は約16,000あり、教育訓練給付制度[検索システム]で検索できます。

(出所)厚生労働省「教育訓練給付制度のご案内」を加工

 
(2)給付条件

(出所)厚生労働省「教育訓練給付制度のご案内」を加工

 
(3)手続き

(出所)厚生労働省「教育訓練給付制度のご案内」を加工

3 高等職業訓練促進給付金


高等職業訓練促進給付金は、ひとり親家庭の人が対象となります。就職に有利な資格を取得するために養成機関で修業する期間の生活費を支援する制度です。
ひとり親家庭の人が経済的な負担を軽減しながら、キャリアアップや新しい職業に挑戦するために支援するものです。
 
(1)対象者
つぎの要件を満たす必要があります。
・児童扶養手当を受給している、または同等の所得水準にあるひとり親家庭
・6カ月以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得が見込まれる
・仕事や育児と修業の両立が困難であると認められる
 
(2)支給内容
・訓練期間中:月額10万円(住民税課税世帯は月額70,500円)
(訓練期間の最後の1年間は4万円増額)
・訓練修了後:5万円(住民税課税世帯は25,000円)
 
(3)対象資格
就職の際に有利となり、養成機関において6カ月以上修業する資格です。
(例)看護師、准看護師、保育士、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、調理師、製菓衛生師等の国家資格
シスコシステムズ認定資格、LPI認定資格等のデジタル分野等の民間資格
 
(4)申請手続き
①ハローワークや市区町村の窓口で相談する
②必要書類を提出し、審査を受ける
③給付金の支給が決定したら、訓練期間中の生活費として受け取る

4 キャリアコンサルティング


キャリアコンサルティングは、個人が自分のキャリアを見つめ直し、理想的な職業選択や能力開発を支援するプロセスです。
在職中の方を対象に、今後のキャリアなどについて、キャリア形成サポートセンターでキャリアコンサルタントに無料相談できます。オンラインによる相談も可能です。
内容はつぎのとおりです。
 
①自己理解の促進
自分の興味や適性、スキルを明確にするためのサポートを行います。
これまでの経験や価値観を整理し、自己理解を深めます。
 
②職業理解の支援
現在の仕事や目指す職業についての理解を深めるプロセスです。
必要なスキルや資格、業界の動向などの情報提供を行います。
 
③キャリアプランの策定
相談者の目標に基づき、具体的なキャリアプランを立てます。
転職やスキルアップ、資格取得などの具体的なステップを計画します。
 
④意思決定のサポート
相談者が自分のキャリアに関する重要な決定を下す際の支援を行います。
相談者の強みや目標を見つけ、納得のいく結論を導き出すための助言を提供します。
 
⑤実行と適応
キャリアプランにもとづいた行動を開始し、新しい役割や仕事に適応するための支援を行います。

5 マナパス


マナパスは、社会人の学び直しを支援するためのポータルサイトで、文部科学省が運営しています。
社会人が自分に合った学びの機会を見つけやすくするための情報を提供しています。
 
(1)おもな機能
 
①講座検索
分野別、資格別、給付金や奨学金の有無、土日・夜間開講など、さまざまな条件で講座を検索できます。
たとえば、ITスキル、ビジネススキル、語学など、幅広い分野の講座が掲載されています。
講座の詳細情報を確認し、受講申し込みを行います。
 
②目的別ガイド
「まずは気軽に受けてみたい」
「ある程度まとまったプログラムを受講したい」
「学位を取得したい」
といったように目的に応じた講座の選び方をガイドしています。
 
③受講生の声
実際に講座を受講した人たちのインタビューや体験談が掲載されており、受講の参考になります。
 
④特集ページ
特定のテーマに沿った講座を紹介しています。
たとえば、「女性のための学び直し」「就職氷河期世代支援と学び」「人生100年時代シニア層の学び」などです。

 
新たな知識やスキルを身につける学び直しは、生き方や働き方の選択肢を増やし、人生の幅を広げることにつながります。
さまざまな支援制度から自分に合ったものを選び、上手に活用するとよいでしょう。

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