医療費控除とセルフメディケーション税制を解説
1 医療費控除
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その超過分を所得から控除できる制度です。
その結果、所得税や住民税の負担を軽減することができます。
(1)医療費控除の対象となる医療費
①対象
自分自身、配偶者、その他生計を一にする親族のために支払った医療費
②対象期間
その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費
(未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります。)
(2)医療費控除の対象となる費用と対象とならない費用
①医療費控除の対象となる費用
医療費控除の対象となる医療費は次のとおりです。
その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とされています。
㋐診療・治療費
・医師や歯科医による診療や治療費
・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術費用
・保健師、看護師、准看護師による療養上の世話の費用
㋑医薬品の購入費用
・治療や療養のために必要な医薬品の購入費用(風邪薬など)
㋒医療器具の購入費用
・義手、義足、松葉杖、補聴器、義歯、眼鏡(治療用)などの購入費用
㋓通院費
・公共交通機関を利用した通院費(タクシー代は緊急時のみ)
㋔入院費用
・入院中の部屋代や食事代
②医療費控除の対象とならない費用
医療費控除の対象とならない医療費は次のとおりです。
治療行為にあたらないものです。
㋐美容目的の費用
・美容整形やホワイトニングなど
㋑予防・健康増進のための費用
・健康診断や人間ドックの費用(ただし、重大な疾病が発見され、その後の治療が必要な場合は対象
・予防接種の費用
㋒日常生活に関連する費用
・自家用車のガソリン代や駐車料金
・入院中のシーツのクリーニング代や個室の差額ベッド代(病状により個室が必要な場合を除く)
㋓その他
・サプリメントや健康食品の購入費用
・美容目的の歯列矯正費用(治療上必要と認められる場合は対象)
③ケース別具体例
国税庁のウェブサイト「タックスアンサー(よくある税の質問)」に、医療費控除の対象となるか否かの具体例が掲載されています。
㋐出産費用、入院費用
○妊娠診断後の定期検診や検査などの費用、通院費用
(注)領収書のないものが多い通院費用は、家計簿に記録するなどして実際の費用を明確に説明できるようにしておく
×医師や看護師に対するお礼
×本人や家族の都合だけで個室に入院したときなどの差額ベッドの料金
○付添人を頼んだときの付添料(所定の料金以外の心付けなどは除く)
×親族などに付添料の名目で支払ったお金
○出産で入院する際に、電車、バスなどの通常の交通手段が困難なためタクシーを利用した場合
×実家で出産するために実家に帰省する交通費
×入院に際し、寝巻きや洗面具など身の回り品を購入した費用
○病院に支払う入院中の食事代
×出前や外食
㋑歯の治療費用
×保険外の自由診療や高価な材料を使用する場合など、一般的に支出される水準を著しく超える特殊なもの
○年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用
×容ぼうを美化するための歯科矯正の費用
○治療のための通院費
○小さい子の通院に必要な付添人の交通費
×自家用車で通院したときのガソリン代や駐車場代
(3)医療費控除の計算方法
<計算式>
(注1) その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費
(注2) 高額療養費、入院給付金、家族療養費、出産育児一時金など
(注3)その年の総所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%
【具体例】
・年間の医療費:30万円
・保険金などで補填される金額:5万円
・総所得金額:250万円
・所得税の税率:10%
・住民税の税率:10%
医療費控除額 = 300万円 - 5万円 - 10万円 = 15万円
所得税の還付金額 = 15万円 × 10% = 1万5千円
住民税の還付金額 = 15万円 × 10% = 1万5千円
2 セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は、特定の一般用医薬品(OTC医薬品)を購入した際に、その費用を所得から控除できる制度です。
医療費控除の特例として税負担を軽減できるものです。
(1)対象者
①自分自身、配偶者、その他生計を一にする親族のためにスイッチOTC医薬品や特定の一般用医薬品を購入した人
かつ
②健康の保持増進や疾病予防のために一定の取組を行っている人
厚生労働省のウェブページにスイッチOTC医薬品の対象品一覧(2024年9月1日現在)が掲載されています。
なお、対象医薬品を購入した際のレシート等に「★印はセルフメディケーション税制対象商品です」といった記載があります。
一部の対象医薬品については、パッケージに識別マークが掲載されています。
(2)対象期間
その年の1月1日から12月31日までに支払った費用
(未払いの費用は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります。)
ただし、適用期限は2017年1月1日から2026年12月31日までです。
(3)一定の取組
つぎのいずれかの健康維持活動を行う必要があります。
・健康診断(人間ドック、各種健診)
・予防接種(インフルエンザワクチンなど)
・定期健康診断(勤務先での検診)
・特定健康診査(メタボ検診)や特定保健指導
・市区町村が実施するがん検診
(4)セルフメディケーション税制の計算方法
<計算式>
ただし、控除額の上限は88,000円です。
【具体例】
・年間の対象医薬品の購入費用が50,000円
・所得税の税率:10%
・住民税の税率:10%
控除額 = 50,000円 - 12,000円 = 38,000円
所得税の還付金額 = 38,000万円 × 10% = 3,800円
住民税の還付金額 = 15万円 × 10% = 1万5千円
(5)注意点
医療費控除とセルフメディケーション税制は、選択制なので併用できません。
どちらがお得になるかは、所得金額、支払った医療費、医薬品購入費によって異なります。
判断が難しい場合は、確定申告前に実際に計算して確認するとよいでしょう。
3 確定申告する際の手順と注意点
(1)医療費控除の確定申告手順
①医療費の集計
1年間に支払った医療費を集計します。
領収書やレシートを整理し、支払先ごとにまとめます。
医療費の領収書が多い場合は、国税庁のウェブページにある医療費集計フォームをダウンロードして入力すると便利です。
②保険金などで補填された金額の集計
③医療費控除の明細書の作成
国税庁のウェブサイトから医療費控除の明細書をダウンロードし、必要事項を記入します。
医療費の支払先、支払日、金額などを明細書に記入します。
医療保険者から交付を受けた医療費通知がある場合は、その添付により医療費控除の明細書の記載を簡略化できます。
また、マイナンバーカードを保険証として利用すると、マイナポータルからe-Taxに連携することで手続きが簡単になります。
マイナポータルで医療費の情報を確認できるため、紙の領収書を保管する必要がありません。
確定申告書作成時に、マイナポータルから医療費のデータを自動で転記できるため、手入力の手間が省けます。
④確定申告書の作成
確定申告書を作成します。
インターネットを利用して確定申告書等作成コーナーで申告書を作成することもできます。
⑤提出
作成した確定申告書を税務署に提出します。郵送や電子申告(e-Tax)も可能です。医療費控除の明細書を添付します。
(2)セルフメディケーション税制の確定申告手順
①対象医薬品の集計
対象となるOTC医薬品の購入費用を集計します。領収書やレシートを整理し、購入先ごとにまとめます。
②一定の取組の証明書類の準備
健康診断や予防接種の領収書や結果通知書を準備します。
③セルフメディケーション税制の明細書の作成
国税庁のウェブサイトからセルフメディケーション税制の明細書をダウンロードし、必要事項を記入します。
購入した医薬品の名称、金額、購入先などを明細書に記入します。
④確定申告書の作成
確定申告書を作成します。
インターネットを利用して確定申告書等作成コーナーで申告書を作成することもできます。
⑤提出
作成した確定申告書を税務署に提出します。郵送や電子申告(e-Tax)も可能です。セルフメディケーション税制の明細書を添付します。
(3)注意点
①証明書類の保管
医療費控除やセルフメディケーション税制の領収書、一定の取組の証明書類は、申告後も5年間保管する必要があります。
②選択適用
医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか適用できません。
医療費控除もセルフメディケーション税制も年末控除が受けられず、確定申告が必要です。
なお、共働き夫婦の場合は、同一世帯の分をまとめて一方が申告することも、別々に申告することもできます。一方が医療費控除、もう一方がセルフメディケーション税制を受けるということも可能です。
また、確定申告を行うと、ふるさと納税ワンストップ特例の申請が無効となります。ワンストップ特例の申請をした分も含めて寄附金控除額を計算する必要があるので注意が必要です。