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どうする? 老後の資産運用と金融資産の終活
2019年の金融庁の報告書は、老後の生活費は年金だけでは不足なので夫婦で約2,000万円の資金が必要になると指摘し、話題となりました。
それをきっかけとして多くの人々が老後の資金不足に対する不安を抱くようになったのです。
また、政府や金融機関は老後資金の準備や資産運用の重要性を強調するようになりました。
個人型確定拠出年金(iDeCo)やNISAなどの制度を活用して、老後資金を積み立てることを推奨しています。
では、老後資金としての金融資産をいつまで増やせばよいのでしょうか?
また、いつから老後資金として使い始めればよいのでしょうか?
そうした問題についてお話しします。
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1 資産運用はリタイア後も継続して資産寿命を延ばす
老後資金の確保としての金融資産については、リタイアする年齢(60歳~65歳)まで積み立てと資産運用を続けることが基本です。
ただし、収入や支出の状況は人によって異なるため、具体的な年齢は一概には言いきれません。
十分な金融資産があれば早期にリタイアして取り崩しを始めてもよいでしょう。
逆に、リタイアまでに十分な金融資産を確保できなければさらに増やす努力を続ける必要があります。
いずれのケースでもリタイア後も資産運用を継続することが推奨されます。
平均寿命の長期化が進み人生100年時代と言われています。
長生きして生活費や介護費用などでお金を使い果たしてしまったら、その後の生活が困窮することになります。
また、インフレが進行して資産価値が目減りしてしまったら同様の事態になりかねません。
よって、リタイア後も一部の資産を運用し続けることで、資産の減少を抑えて資産寿命を延ばすことが必要なのです。
老後の生活資金を確保するための資産運用は計画的に行うことが重要です。
また、リスクの高い投資に失敗したら、若い人とは違って取り返しがつかなくなります。
そこで、高齢になるにつれてリスクの高い投資を減らし、リスクの低い投資へ切り替えていくという基本方針をもつようにします。
(1)リスク分散
資産を複数の投資先に分散することで、リスクを軽減します。
株式、債券、不動産、預金など、異なる資産クラスに分散投資することが重要です。
(2)ライフステージに応じた資産配分
若いうちはリスクを取ってリターンを追求できますが、高齢になるにつれてリスクを抑えることが重要です。
年齢に応じた資産配分を見直しましょう。
①株式の割合を減らす
株式は高リスク・高リターンの投資先です。
高齢になるにつれて、株式の割合を減らし、リスクを抑えたほうがよいでしょう。
②債券の割合を増やす
債券は比較的リスクが低く、安定した収益を期待できる投資先です。
株式よりも債券の割合を増やすことにより資産の安定性を高められます。
③預金や定期預金の活用
預金や定期預金は元本保証があり、リスクが非常に低い投資先です。
生活費の一部を預金に預けることで安心できます。
具体的な資産配分の例はつぎの図のとおりです。
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④定期的な見直し
資産配分は定期的に見直すことが重要です。
経済状況や個人のライフスタイルの変化に応じて、適切な資産配分を維持しましょう。
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2 金融資産の終活を行う
資産運用を継続したり資産を取り崩したりする際の羅針盤とするためにも、金融資産の終活を行うとよいでしょう。
(1)資産の整理
①預金口座の整理
すべての預金口座をリストアップし、使用していない口座は解約します。
主要な口座を選定し、情報を一元化します。
②証券口座の整理
保有している株式や債券、投資信託などの証券を整理し、必要なものだけを残します。
③保険の確認
生命保険や医療保険などの契約内容を確認し、不要な保険は解約します。
受取人の情報も最新のものに更新します。
(2)資産のリスト化
①資産目録の作成
所有しているすべての資産(預金、不動産、証券、保険など)をリスト化し、詳細な情報を記載します。
資産のポートフォリオの全体像を把握できるという効果も見込めます。
②負債のリスト化
借入金やローンなどの負債もリスト化し、返済計画を立てます。
(3)家族への情報共有
①エンディングノートの作成
自分の希望や資産情報を記載したエンディングノートを作成し、家族と共有します。
判断能力が低下したときや相続開始の際に、家族がスムーズに手続きを進められるように準備しておきます。
また、必要に応じて遺言を作成しておくとよいでしょう。
②定期的な見直し
資産や遺言の内容を定期的に見直し、最新の情報に更新していきます。
(4)専門家の活用
ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談し、資産運用や相続対策についてアドバイスを受けるとよいでしょう。
また、相続税や贈与税の対策については税理士、遺言書作成や相続トラブル防止については弁護士へ相談できます。
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3 金融資産の取り崩しはどうするか
金融資産の取り崩し方法にはいくつかの選択肢があります。
それぞれメリットとデメリットがあり、個々の状況や目標に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
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最適な取り崩し方法は、個々の状況や目標によって異なります。
安定した収入を確保したい場合は、定額取り崩しが適しています。
資産の長持ちを重視する場合は、定率取り崩しや定口数取り崩しが適しています。
柔軟性を重視する場合は、必要時取り崩しが適しています。
また、複数の方法を組み合わせることも検討してもよいでしょう。
たとえば、基本的な生活費は定額取り崩しで確保し、余裕資金は定率取り崩しで運用するといった方法があります。
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4 判断能力が低下したあとの資産の運用や取り崩しはどうするか
判断能力が低下したあとにも金融資産の運用や取り崩しを行うためには、つぎのような方法があります。
(1)財産管理等委任契約の締結
財産管理等委任契約は信頼できる人や専門家に財産管理を依頼する契約です。契約内容にもとづいて財産を管理・運用します。
財産管理契約を作成し、管理内容や報酬などを明確にします。
契約は公証役場で公正証書として作成することが推奨されます。
(2)任意後見制度の利用
任意後見制度は、判断能力が低下する前に信頼できる人(任意後見人)を選び、将来の財産管理や生活支援を依頼する制度です。
任意後見契約を公証役場で作成し、任意後見人を選定します。
契約内容には、財産管理や生活支援の具体的な内容を記載します。
(3)家族信託の活用
家族信託は、信頼できる家族に財産を託し、管理・運用を任せる制度です。
信託契約に基づいて財産を管理するため、柔軟な運用が可能です。
信託契約を作成し、信託財産や信託の目的、受益者などを明確にします。
信託契約は公証役場で公正証書として作成することが推奨されます。
(4)成年後見制度の利用
成年後見制度は、判断能力が低下したあとに家庭裁判所が後見人を選任し、財産管理や生活支援を行う制度です。
判断能力が低下した場合に家庭裁判所に後見人の選任を申し立てます。
後見人は家庭裁判所が選任し、財産管理や生活支援を行います。
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金融資産を運用により増やすことも大事ですが、せっかくの資産を無駄にしないために出口戦略も早めに立てることが重要です。
金融資産の終活においても、ファイナンシャル・プランナーや弁護士、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
専門家からアドバイスを得ることで、適切な財産管理や運用の計画を立てられます。