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家族・親族間であっても重要な取引においては契約書を作成することが望ましい
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起業にあたり親から200万円を借りることにしました。
事業が成功したら返済するという口約束でかまわないと言われたので、とくに借用書は作成していませんが問題はありますか?
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1 契約書は取引や約束を明確にするための重要な文書である
「契約書」とは、契約内容を明確にし、また後日の証拠とするために作成される、当該契約の内容を表示する文書をいいます。
わが国の法律上では、保証契約など一部の例外を除き、契約の成立には契約書の作成を必要としない不要式契約が原則です。
ただし、重要な契約については、合意内容の明確化や紛争の防止などの理由から、契約書が作成されることが多くあります。
契約書が作成される場面と目的にはつぎのようなものがあります。
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契約書を作成することで見込める効果にはつぎのようなものがあります。
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2 家族・親族間であっても契約書を作成しないとデメリットやトラブルが発生することがある
家族・親族間ではお金や物品の貸し借りや譲渡などの取引があっても、いちいち契約書を作成しないケースが多くあります。
つぎのような理由が考えられます。
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とはいえ、家族・親族間で契約書を作成しなかったために実際にトラブルが発生するケースが少なくありません。
(1)誤解やトラブルの発生
口頭での約束だけでは、後に解釈の違いが生じることがあります。
双方が合意した内容を正確に記録しておかないと、誤解やトラブルが発生しやすくなるのです。
(2)法的保護の欠如
契約書がない場合、万が一トラブルが発生しても法的に保護されることが難しくなります。
とくに金銭の貸し借りや不動産の売買などの取引では契約書の存在が重要です。
(3)信頼関係の損失
契約内容について後になって争いが生じると、家族・親族間の信頼関係が損なわれる可能性があります。
契約書を作成しておけば双方の合意内容が明確になり、信頼関係を維持しやすくなるのです。
(4)証拠の欠如
契約書がない場合、取引の内容や条件を証明する証拠がありません。
そうなると裁判所や仲裁機関といった第三者に対して自身の立場を立証することが難しくなります。
(5)財産の保護不足
不動産や高価な財産の取引において契約書がないと、所有権の移転が不明確になります。
その結果、後に所有権を巡る争いが生じる可能性があります。
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3 家族・親族間で契約書を作成しないと対税務署との関係でトラブルが発生することがある
(1)税務調査での確認困難
税務署は、取引が本当に行われたのか、条件がどうであったのかを確認するために契約書を求めることがあります。
契約書がないと、取引の実態を証明するのが難しくなり、税務署からの確認に対して十分に対応できなくなる可能性があるのです。
(2)贈与税や所得税の問題
①贈与税
親から子へのお金の貸し借りや物品の譲渡などの際に、贈与と見なされて贈与税が課されるリスクがあります。
契約書があれば、贈与ではなく貸し借りや売買であることを明確に示せるのです。
②所得税
親からの借入金が返済されていない場合、税務署からは所得とみなされて課税されることがあります。
契約書があれば、借入金の条件や返済計画を明示し、所得ではないことを証明できるのです。
(3)不動産の売買や賃貸借
不動産の売買や賃貸借に関しても、契約書がないと売買価格や賃料の適正性、取引の実態を証明するのが難しくなります。
その結果、税務署から疑念を抱かれる可能性があります。
(4)相続税のトラブル
相続税の計算や納税において家族間の財産移動が問題となることがあります。
契約書がないと、相続財産の正確な評価や分配が不明確になり、税務署とのトラブルが発生するリスクが高まります。
(5)課税リスクの増大
税務署が取引内容を誤解し、適正でない課税を行うリスクが高まります。
また、過去に遡って取引が調査される場合、契約書がないと税務署に対して十分な説明ができなくなるかもしれません。
そうなると不利な扱いを受ける可能性があります。
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4 家族や親族間でも重要取引の際には契約書を作成し取引の実態を明確に記録しておくことが望ましい
家族・親族の間であっても明確な契約書を作成することは、後々のトラブルを避けるためにも非常に重要です。
契約書を作成したほうがよい具体的なケースはつぎのようなものです。
(1)金銭消費貸借
少額でない金銭を家族や親族に貸す場合には、返済条件や利息について明確にするために契約書を作成しましょう。
また、返済期限や月々の返済額を明示することで誤解を防げます。
(2)売買
家族・親族間で車や不動産など高価な物品を売買する場合には、価格や支払い条件を明確にするために契約書が必要です。
また、売買に伴う所有権の移転を正式に記録するためにも契約書が役立ちます。
(3)贈与
家族・親族に不動産を贈与する場合には、贈与税や登記手続きを考慮して契約書を作成しましょう。
また、宝石や絵画など高価な財産を贈与する場合にも、その条件や目的を明示するために契約書を作成したほうがよいです。
(4)賃貸借
家族・親族間で不動産を貸し借りする場合、賃料や契約期間、修繕の責任などを明確にするために契約書が必要です。
また、家族・親族間で車や機械などを貸し借りする場合にも、使用条件や賃料について契約書を作成したほうがよいでしょう。
(5)その他のケース
①ビジネスの共同経営
家族・親族間で共同してビジネスを始める場合には、役割分担や利益配分を明確にするために契約書を作成しましょう。
②生活費の分担
同居している家族間で生活費を分担する場合にも、各自の負担額や支払い方法を明確にするために契約書が役立ちます。
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家族や親族間の信頼関係を維持し、トラブルを避けるためには、重要な取引には契約書を作成することが推奨されます。
必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談して適切なアドバイスを受ければ法律や税務に関するリスクを減らせるでしょう。