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おひとりさま、高齢者が活用できる「財産管理等委任契約」

国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2024年推計」から引用します。
単独(一人暮らし)世帯の割合は、2020年の38.0%から2050年には44.3%へと6.3ポイント上昇する見込みです。

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2024年推計」を加工


高齢のおひとりさまが活用しうる「財産管理等委任契約」についてお話しします。
 
身体状況による利用期間からみた「財産管理等委任契約」の位置づけはつぎの図のとおりです。


1 財産管理等委任契約の概要


財産管理等委任契約とは、本人が自分の財産管理や生活上の法律行為を、信頼できる人に委任する契約のことです。
家族や専門家などの信頼できる人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える形になります。
 
具体的な委任内容は契約当事者で定めます。
たとえば、預貯金の払戻しや、印鑑証明書・戸籍謄本の取得といったことです。
 
対象となるのは、車椅子生活、寝たきり、手が不自由で文字が書けないといった状態にある高齢者や身体が不自由な人です。
ただし、判断能力があることが前提となります。

2 財産管理等委任契約でできること、できないこと

 
(1)できること
 
①財産管理
 
㋐預貯金の管理
銀行口座の管理や預金の引き出し、振り込みなどの代行
 
㋑不動産の管理
賃貸物件の管理や家賃の収受、修繕の手配などの代行
 
㋒税金の申告
所得税や固定資産税の申告、納税などの代行
 
②生活支援
 
㋐日常生活の支援
食料品の購入や公共料金の支払い、病院への付き添いなど
 
㋑介護サービスの手配
介護サービスの契約や変更、費用の支払いなどの代行
 
③医療・介護の手続き
 
㋐医療機関との連絡
病院や介護施設との連絡や手続きなどの代行
 
㋑介護保険の申請
介護保険の申請や更新手続きなどの代行
 
(2)できないこと
 
①本人の意思決定に関する行為
 
㋐重要な意思決定
本人の意思に基づかない重要な意思決定(たとえば、財産の売却や大規模な投資など)はできません。
 
㋑医療行為の同意
本人の意思に反する医療行為の同意はできません。
 
②法律で禁止されている行為
法律で禁止されている行為(たとえば、脱税や詐欺など)は当然ながらできません。
 
③本人の権利を侵害する行為
本人の財産を不正に利用することや、本人のプライバシーを侵害する行為はできません。

3 財産管理等委任契約のメリットとデメリット

 
(1)メリット
 
①柔軟な対応
本人の判断能力が低下する前に契約を結ぶことで、柔軟に対応できます。
たとえば、急な入院や介護が必要になった場合でも、スムーズに対応できます。
また、委任内容は当事者間で自由に決められます。
 
②信頼性
信頼できる人に委任することで、安心して財産管理を任せられます。
とくに、家族や親族が遠方に住んでいる場合などに有効です。
 
③生活の安定
日常生活の支援や医療・介護の手続きを代行してもらうことで、本人の生活が安定し、安心できるようになります。
 
④財産の保全
信頼できる人に財産管理を委任することで、財産の適切な管理が行われ、無駄な支出や不正利用を防げます。
 
(2)デメリット
 
①監督機関の不在
公的な監督機関がなく、受任者の行動をチェックする仕組みが不足しているため、受任者が不正行為を行うリスクがあります。
 
②契約解除の困難
一度契約を結ぶと、解除が難しい場合があります。
とくに、受任者との信頼関係が崩れた場合に問題が発生することがあります。
 
③費用の発生
財産管理等委任契約を結ぶ際には、契約書の作成や公証人の手数料などの費用が発生します。
また、受任者に対する報酬も必要です。
 
④意思決定の制約
本人の意思に基づかない重要な意思決定(たとえば、財産の売却や大規模な投資など)はできません。
その結果、本人の意思が十分に反映されないケースが出てきます。
 
⑤取消権の制限
受任者には、委任者が行った法律行為を取り消す権限がありません。
たとえば、委任者が詐欺に遭って高額な商品を購入した場合、受任者はその契約を取り消せません。
取消権はあくまで委任者本人にのみ認められる権利です。

4 財産管理等委任契約を締結する際に注意すべきポイント

 
(1)信頼できる受任者の選定
委任する相手は信頼できる人物や専門家を選ぶことが重要です。
家族や親族、信頼できる友人、または専門の弁護士や司法書士などが適しています。
受任者が専門家などの場合は、実績や評判を確認し、過去のトラブルがないかを調べることが大切です。
 
(2)契約内容の明確化
委任する業務の具体的な内容を明確にし、契約書に詳細に記載します。
たとえば、財産管理、生活支援、医療・介護の手続きなどです。
また、委任する範囲や制限を明確にし、受任者がどこまでの権限をもつかをはっきりさせておきます。
 
(3)契約書の確認と理解
契約書の内容をしっかり確認し、不明点があれば事前に質問して解決しておきましょう。
もし、契約書の内容について不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
 
(4)費用の確認
契約にかかる初期費用や受任者への報酬を確認し、予算に合っているか検討します。
さらに、サービス利用中に追加費用が発生する場合があるので、その点も確認しておきます。
 
(5)監督体制の整備
受任者に対して定期的な報告を求め、業務の進捗や財産の状況を把握できるようにします。
また、必要に応じて、第三者による監督体制を整え、受任者の行動をチェックする仕組みをつくっておきます。
 
(6)契約解除の条件
契約解除の条件を明確にし、契約書に記載します。
とくに、信頼関係が崩れた場合や受任者が不正行為を行った場合の対応を明示します。
また、契約解除の手続き(解除条件や費用の返金など)についても確認し、スムーズに解除できるように準備しておきます。

5 財産管理等委任契約を利用したほうがよい人、利用しないほうがよい人

 
(1)利用したほうがよい人
 
①高齢者
判断能力が低下する前に、自分の財産や生活を信頼できる人に管理してもらうことなどにより、安心して生活できるようになります。
 
②身体が不自由な人
日常生活の支援や医療・介護の手続きを代行してもらうことなどにより、生活の質を向上できます。
 
③家族や親族が遠方に住んでいる人
近くに信頼できる家族や親族がいない場合、専門家に財産管理を委任することで、安心して生活を送れるようになります。
 
④信頼できる第三者がいる人
信頼できる友人や専門家がいる場合、その人に財産管理を委任することで、安心して生活を送れるようになります。
 
⑤おひとりさま(独身で頼める家族や親族がいない人)
おひとりさまにとって、財産管理等委任契約は、将来の不安を軽減し、安心して生活を送るための有効な手段となりえます。
 
(2)利用しないほうがよい人
 
①信頼できる家族や親族が近くにいる人
近くに信頼できる家族や親族がいて、その人たちに財産管理を任せられるのであれば、必要ないでしょう。
 
②費用を負担できない人
財産管理等委任契約には費用がかかるため、経済的に余裕がない場合は、ほかの方法を検討する必要があります。
 
③契約内容に不安がある人
契約内容に不安がある場合や、信頼できる委任者が見つからない場合は、契約を結ぶ前に専門家に相談することをおすすめします。

6 財産管理等委任契約の手続き


財産管理等委任契約の手続きの流れはつぎのとおりです。
 
(1)受任者の選定
信頼できる家族や友人、または専門職(司法書士や行政書士など)を受任者として選びます。
 
(2)委任内容の決定
委任する内容を具体的に決めます。
たとえば、銀行からの預金引き出しや振り込み、不動産の管理、家賃の支払い、納税手続きなどです。
 
(3)契約書の作成
委任内容を明記した契約書を作成します。
契約書には、つぎのような内容を記載します。
・契約の目的
・受任者の義務
・管理を委任する財産の目録
・委任内容の詳細
・必要となる費用の負担者
・受任者に対する報酬の有無やその金額、支払い方法 など
 
契約書の作成は専門家に依頼することをおすすめします。
個人で作成した契約書は記載漏れや不備が多くなりやすいためです。
 
また、契約書は公正証書で作成するとよいでしょう。
法的効力や信頼性が高まり、安心して財産管理等委任契約を進められるようになるからです。
 
(4)金融機関への対応確認
金融機関によっては、代理手続きを認めていない場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。
 
(5)代理届出の提出
作成した契約書を金融機関に提出し、代理手続きを行うための届出を行います。
 
(6)費用
費用は、依頼する内容や受任者によって異なりますが、一般的な目安はつぎのとおりです。
 
①契約書作成費用
契約書の作成には、5万円程度かかります。
 
②受任者への報酬
受任者が専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)の場合、月額報酬は1~5万円程度です。
 
③その他の費用
公正証書の作成費用や郵送費用など、追加の費用が発生する場合があります。
公正証書の作成には、1万円程度の手数料がかかります。
 
(7)ほかの契約との併用
財産管理等委任契約と「任意後見契約」をセットにする「移行型任意後見契約」という形があります。
本人の判断能力が低下する前から財産管理を行い、判断能力が低下したのちに任意後見契約に移行する仕組みです。
判断能力が低下する前後の財産管理をスムーズに行うことができるというメリットがあります。
 
さらに、本人の健康状態や生活状況を定期的に確認する「見守り契約」をセットにするとよいでしょう。
早期に異変を察知し、任意後見契約への移行を的確に行えるようになります。
 

 
財産管理等委任契約にはメリットもデメリットもあります。
身体能力の低下がみられるようになったときに検討できる選択肢のひとつとして覚えておくとよいでしょう。


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