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おひとりさま、高齢者が活用できる「日常生活自立支援事業」

高齢者が直面しうる困りごととして、買い物や病院への通院、家事の遂行などが挙げられます。
高齢のおひとりさまが活用しうる「日常生活自立支援事業」についてお話しします。
 
身体状況による利用期間からみた「日常生活自立支援事業」の位置づけはつぎの図のとおりです。


1 日常生活自立支援事業の概要


日常生活自立支援事業は、高齢者や障害者が安心して日常生活を送るために、必要な支援を提供する事業です。
 
(1)対象者
対象者はつぎのいずれにも該当する人です。
 
①判断能力が不十分な人(つぎのいずれにも該当)
・認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等である
・日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難
 
②本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる人
 
なお、認知症の診断や障害者手帳は要件としていません。
 
また、本人に利用契約の内容が理解できる能力と利用意思があることが必要です。
利用契約の内容が理解できないなど、判断能力が低下している場合は、成年後見制度の利用を検討します。
 
(2)援助の内容
 
①福祉サービスの利用援助
・福祉サービスを利用し、または利用をやめるために必要な手続き
・福祉サービスについての苦情解決制度を利用する手続き
・住宅改造、居住家屋の賃借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続きに関する援助、その他福祉サービスの適切な利用のために必要な一連の援助
・福祉サービスの利用料を支払う手続き
 
②日常的金銭管理サービス
・年金及び福祉手当の受領に必要な手続き
・医療費を支払う手続き
・税金や社会保険料、公共料金を支払う手続き
・日用品等の代金を支払う手続き
・上記の支払いに伴う預金の払い戻し、解約、預入の預け入れの手続き
 
③書類等の預かりサービス
・年金証書
・預貯金の通帳
・権利証
・契約書類
・保険証書
・実印・銀行印
・その他、実施主体が適当と認めた書類(カードを含む)
 
(厚生労働省のウェブページ掲載の「日常生活自立支援事業の概要と支援の現状」から引用)
 
(3)日常生活自立支援事業の利用状況
全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業月次状況調査」から引用します。
2023年度の実利用者数は56,398件となっており、最近は実利用者数の伸びが鈍化しています。

(出所)全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業月次状況調査」を加工

 
2023年度の実利用者の内訳をみると、もっとも多いのは認知症高齢者等ですが、精神障害者の割合が増加傾向にあります。

(出所)全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業月次状況調査」を加工

2 日常生活自立支援事業でできること、できないこと

 
(1)できること

①日常生活の支援
・食事の準備や掃除、洗濯などの日常生活のサポート
・病院への付き添いや買い物の代行など
 
②金銭管理の支援
・日常的な金銭管理のサポート
たとえば、公共料金の支払い、年金の受け取り、医療費の支払いなどの代行
 
③福祉サービスの利用支援
・必要な福祉サービスの利用手続きの支援
たとえば、介護保険の申請や更新手続き、福祉施設の利用手続きなど
 
③相談・助言
・日常生活に関する相談や助言の提供
たとえば、健康管理や生活習慣に関するアドバイスなど
 
(2)できないこと
 
①医療行為
直接医療行為を行うことはできません。
医療行為が必要な場合は、医療機関に連絡し、適切な対応を依頼します。
 
②法律行為
本人の自宅の処分や賃貸の解約など、法律に関する手続きや相談は行えません。
弁護士などの専門家に依頼する必要があります。
また、施設入所等にともなう身元引受人や保証人なども対象外です。
 
③高度な介護
高度な介護が必要な場合は、介護保険サービスや専門の介護施設を利用する必要があります。
また、外出援助、ヘルパーが対応するような買い物なども行えません。
 
④財産管理
大規模な財産管理や投資に関する支援は行えません。
専門の財産管理サービスを利用する必要があります.
 
⑤預かれない書類等
・自宅の鍵、貸金庫の鍵、遺言書
・宝石、書画、骨董品、貴金属、現金
・大きな価格変動の可能性がある有価証券 など

3 日常生活自立支援事業のメリットとデメリット

 
(1)メリット
 
①安心感の提供
判断能力が低下している場合に、日常生活の支援や金銭管理のサポートを受けることで安心して生活を送れます。
 
②生活の質の向上
食事の準備や掃除、洗濯などの日常生活のサポートを受けることで、生活の質が向上します。
 
③金銭管理の支援
公共料金の支払い、年金の受け取り、医療費の支払いなど、日常的な金銭管理のサポートにより金銭管理の負担が軽減されます。
 
④福祉サービスの利用支援
必要な福祉サービスの利用手続きを支援してくれるので、介護保険の申請や更新手続き、福祉施設の利用手続きなどが行えます。
 
(2)デメリット
 
①費用の発生
日常生活自立支援事業には費用がかかります。
利用料金はサービス内容や利用時間に応じて異なりますが、一定の負担が発生します。
 
②サービスの限界
医療行為や高度な介護、大規模な財産管理など、専門的な業務は行えません。
これらの業務が必要な場合は、別途契約や制度を利用する必要があります。
 
③依存のリスク
支援に依存しすぎると、本人の自立心が低下する可能性があります。
適度なサポートを受けつつ、自立した生活を維持することが重要です。

4 日常生活自立支援事業を利用したほうがよい人、利用しないほうがよい人 


(1)利用したほうがよい人
 
①判断能力が低下している高齢者
 
②知的障害や精神障害をもつ人
 
③家族や親族が遠方に住んでいる人
近くに頼れる家族や親族がいない場合、日常生活自立支援事業を活用することで、必要な支援を受けられます。
 
④日常生活に不安がある人
日常生活に不安を感じている方が対象です。
たとえば、公共料金の支払いが難しい、病院への付き添いが必要といった人です。
 
(2)利用しないほうがよい人
 
①自立した生活ができる人
自分で日常生活を管理できる場合は、とくに支援を受ける必要はありません。
 
②家族や親族が近くに住んでいる人
近くに信頼できる家族や親族がいて日常生活のサポートを任せられる場合は、支援を受ける必要はありません。
 
③費用を負担できない人
日常生活自立支援事業には費用がかかるため、経済的に余裕がない場合は、ほかの方法を検討する必要があります。
 
④高度な医療や介護が必要な人
高度な医療行為や介護が必要な場合は、日常生活自立支援事業では対応できません。
専門の医療機関や介護施設を利用する必要があります。

5 日常生活自立支援事業を利用するための手続き

 
(1)相談・申請
まずは、お住まいの地域の社会福祉協議会に相談し、支援が必要な内容や状況を説明します。
相談後、必要な書類を揃えて申請書を提出します。
申請書には、支援が必要な理由や具体的な支援内容を記載します。
 
(2)面談・調査
申請後、専門員が自宅や施設を訪問し、面談を行い、具体的な支援内容や支援の必要性を確認します。
面談と併せて、生活状況の調査が行われます。
支援が必要な範囲や内容を明確にするためです。
 
(3)支援計画の作成
面談や調査の結果をもとに支援計画が策定されます。
支援計画には、具体的な支援内容や支援の頻度、費用などが記載されます。
支援計画にもとづき、利用者と社会福祉協議会との間で契約を締結します。
契約内容を十分に理解し、納得したうえで契約を結びます。
 
なお、初回相談から契約締結までにかかる期間は、おおむね2~6カ月です。
 
(4)支援の開始
契約が締結されると支援が開始されます。
日常生活の支援や金銭管理のサポートが行われます。
支援が開始されたあとも、定期的に支援内容や支援計画の見直しが行われ、利用者の状況に応じた適切な支援が提供されます。
 
(5)費用の負担
相談や支援計画の作成にかかる費用は無料です。
福祉サービス利用手続き、金銭管理などのサービスを利用する際は料金がかかります。
費用は、サービス内容や利用時間に応じて異なります。
1カ月の平均利用回数は約2回、1回あたりの平均利用料は1,200円です。
具体的な料金については、地域の社会福祉協議会に問い合わせるとよいでしょう。
 

 
日常生活自立支援事業は、利用条件や支援内容は限定されていますが、費用は比較的低めです。
身体能力や判断能力の低下がみられるようになったときに検討できる選択肢のひとつとして覚えておくとよいでしょう。


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