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「生命保険信託」で生命保険を活用した相続の可能性を広げる

生命保険契約では、死亡保険金の受取人は通常、配偶者や子などの一定の親族に限られます。
ところが、「生命保険信託」を利用すれば、死亡保険金の受取人を親族以外の第三者に指定することが可能になります。
生命保険金の活用範囲を広げられるというメリットがあるのです。
 
そもそも「信託」とは何でしょうか?
一般社団法人信託協会によれば、「信託」はつぎのように定義されています。
「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理・継承してもらう制度」

(出所)一般社団法人信託協会のウェブページを加工

・委託者(自分):財産を預ける(信託する)人
・受託者(信託銀行等):財産を預かって(信託されて)管理・運用する人
・受益者(恩恵を受ける人):財産から生じる利益を得る人
 
信託の目的は、財産管理、相続対策、資産運用、社会貢献、教育資金の確保といったことです。
 
信託には、生命保険信託のほかにも金銭信託、不動産信託、投資信託、教育資金信託といった種類があります。
 
「生命保険信託」について、仕組みや活用方法などについてお話しします。


1 生命保険信託の概要


生命保険信託は、生命保険の保険金を信託銀行などの信託機関に預け、契約者が指定した方法で受取人に支払う仕組みです。
 
(1)生命保険信託の仕組み

(出所)一般社団法人信託協会のウェブページを加工

①契約者(委託者)
生命保険契約を結ぶ人で、信託契約も結びます。
 
②受託者
信託銀行などの信託機関が受託者となり、保険金を管理・運用します。
死亡保険金の受取人になります。
 
③受益者
保険金を受け取る人で、契約者が指定します。
受益者を複数設定することも可能です。
 
④指図権者
受託者に対して指示を出す権利をもつ人で、契約者が指定します。
指図権者は、受益者の状況に応じて支払い方法を変更できます。
受益者が障害者や認知症、未成年者等で、財産の管理が難しい場合などに指定することがあります。
 
(2)手続きの流れ
 
➊生命保険契約の締結
まず、生命保険会社と生命保険契約を結びます。
 
➋信託契約の締結
つぎに、信託銀行などの信託機関と信託契約を結びます。
このとき、保険金請求権を信託します。
 
➌保険金の請求
契約者が亡くなった後、信託銀行が生命保険会社に対して保険金を請求します。
 
➍保険金の受け取りと管理
生命保険会社から信託銀行に保険金が支払われ、信託銀行がその保険金を管理・運用します。
 
➎➏受益者への支払い
信託契約にもとづき、信託銀行が受益者に対して保険金を支払います。
支払い方法やタイミングは契約内容にしたがいます。
なお、指図権者を定めている場合は、指図権者の指示を受けて、保険金を支払います。

2 生命保険信託の利用シーン


生命保険信託は、特定の状況やニーズに応じて利用されることが多くあります。
 
(1)未成年の子がいる場合
親が亡くなった際に、未成年の子が一括で大金を受け取ると、その管理が難しくなる可能性があります。
生命保険信託を利用し分割払いにすれば、子の成長に応じて段階的に保険金を支払う計画を立てられます。
 
(2)障害をもつ家族がいる場合
障害をもつ家族がいる場合、その人が適切に保険金を管理できるかどうかが心配です。
生命保険信託を利用して、信託銀行などが保険金を管理し、必要なときに必要な額を支払うことができます。
 
(3)認知症の家族がいる場合
認知症の家族がいる場合も同様に、保険金の管理が難しくなることがあります。
生命保険信託を利用して、信託銀行が保険金を管理し、家族のために適切に支払うことができます。
 
(4)特定の目的に保険金を使いたい場合
保険金を特定の目的(たとえば、教育費や医療費)に使いたい場合があります。
生命保険信託を利用して、その目的に応じた支払いを確実に行うことができます。
 
よって、生命保険信託の利用を検討したほうがよいのはつぎのような人になります。
 
①未成年の子がいる親
②障害をもつ家族がいる人
③認知症の家族がいる人
④特定の目的に保険金を使いたい人

3 生命保険だけではできないことができるようになる


生命保険信託では、通常の生命保険契約だけではできないことができるようになります。
具体的にはつぎの表のとおりです。

 生命保険信託は、契約者の意向に沿った柔軟な資産分配を可能にする有効な手段となりえます。
生命保険信託では、受取人を親族以外の第三者に指定できるので、つぎのような利用例も可能です。
 
①友人やパートナーへの支援
親族以外の友人やパートナーに保険金を渡したい場合、生命保険信託を利用すれば、確実に支払いが行われます。
 
②慈善団体への寄付
保険金を慈善団体に寄付したい場合も、生命保険信託を利用すれば、契約者の意向に沿った寄付が実現します。

4 生命保険信託にかかる費用


生命保険信託にはつぎのような費用がかかります。
それぞれの費用は信託機関(信託銀行など)や信託内容によって異なります。
 
(1)信託契約締結時の費用
信託契約を締結する際にかかる手数料です。
一般的には5千~5万円程度かかります。
 
(2)信託期間中の費用
 
①管理費用
信託財産の管理にかかる費用です。
年間で2万円程度が一般的です。
 
②運用費用
信託財産を運用する際に発生する費用の一部です。
具体的な金額は信託銀行や運用内容によって異なります。
 
(3)保険金受取時の費用
保険金を受け取る際にかかる手数料です。
一括受け取りの場合は10万円程度、分割受け取りの場合は保険金総額の2%程度が一般的です。
 
(4)その他の費用
上記の手数料や管理費用には消費税がかかります。

5 おひとりさまを対象にした生命保険信託商品


独身で家族や親族がいない人が、自分の死後の手続きを信託銀行に委任できる商品もあります。
信託銀行の商品の一例を紹介します。
 
①対象者
信託銀行が募集する生命保険(対象商品に限る)の契約者兼被保険者
 
②信託の仕組み
契約者(委託者)から信託銀行に死亡保険金債権信託をする。生命保険契約は、契約者を保険契約者および被保険者とし、信託契約にもとづき信託銀行を死亡保険金受取人に指定する。死亡保険金額は250万円以上とする。
 
また、特約付合同運用指定金銭信託(50万円以上)を設定する。
 
さらに、信託銀行関連社団と死後事務委任契約を締結する。
 
契約者の相続発生時に、信託銀行が死亡保険金を請求、受領し、死亡保険金を金銭信託の信託財産に追加する。その後、死後事務委任契約に係る費用の精算のうえ、残余財産を帰属権利者(推定相続人などから1人指定)に支払う。
 
③付帯サービス
・信託銀行所定様式のエンディングノートを信託終了まで信託銀行が電子媒体で管理
・SNS安否確認サービス
 

 
生命保険信託は、残される親族などの将来を安心して託すための有効な手段になります。
具体的な利用方法や詳細については、商品取扱各機関やファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談するとよいでしょう。

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