Fan letter 8 あぶない☆スクールゾーン
なにげなくテレビをつけたら、千鳥の番組をやっていた。
クセがスゴいやつだ。
ぼんやり眺めていた。
このごろ、年のせいかヒットしてくるお笑いがない。
誰か笑わせてくれないかなと思っていたところに、「文豪と文豪の愛人」がきた。
大悟さん(千鳥)が「俺ら何見せられてんねん」と言っていたネタが、ツボにはまってしまった。
確かに最初は「何見せられてんねん」と思った。
のだが。
スクールゾーン。
名前は以前ちらっと見かけたことがあったが、お笑いに詳しくない私は、今まで彼らのことをよく知らなった。
橋本稜さんと、俵山峻さんのコンビ。
二人とも、演技力が凄まじい。
なにやら過去に炎上案件も抱えているようだ。
2011年にデビューしたものの、その後大きな活躍の場がなかったようだが、2018年からYouTubeなどに投稿し始めたSNS動画で急速に注目され始めたらしい。
番組の後、うっかり、検索して動画を観てしまった。
見事に番組の思うつぼだ。
そして、動画にハマる。
短期間に次々と観てしまった。
なにこの中毒性。こわ。
特に、『のぞき見シネマ』。
まさに「のぞき見」そのままの、映画の一場面のようなコントを、長回しで撮影した動画だ。
コントだから、たぶん編集が入ってない。
一発撮りかはわからないが、基本、カメラのアングルは変わらない。
コントを観ているのだ。
でも、コントを観ていることを途中で忘れてしまう。
どの動画もハズレがない。
これまで、ダラダラと動画を観ている人を見ると、「なんだかな」と思っていた。あまり動画を見る習慣もなかったし、「あれを観たい」と切実に思う動画も特になかった。
でもスクールゾーンは観てしまう。
番組で観たネタの「文豪と文豪の愛人」は、長いバージョンのネタもあった。
コントは、「見立て」によるステージセットが多い。
机と椅子、電話などが置いてあって、事務所、とか、警察、を表す。
背景を示す壁が用意されていることもある。
窓とか玄関とかドアとか。
セットが凝っている場合も中にはあるが、ステージ上の演出には制限もあるだろうから、ひとつのネタに対し、ゴリゴリに凝るわけにはいかない。
このあたり、背景が真っ白みたいなところで勝負していたのが「ラーメンズ」だったと思う。
初めてスクールゾーンの動画を観た時、「ラーメンズ」の逆、と、とっさに思った。
「ラーメンズ」にもハマった私だが、あの面白さはまさに、脚本の面白さにあったと思う。
背景の「見立て」に頼らない、真っ向勝負。時にシュールだ。
ラーメンズは背景や状況の「見立て」を台詞で表現していたが、スクールゾーンは背景が「見立て」どころか、逆に映画のようにしっかり作り込まれている。
独り暮らしの女性の部屋。
共働きの夫婦の部屋。
シングルファーザーと思春期の息子の部屋。
先にあげた、文豪の部屋もそうだ。
共働き夫婦の「平日朝の夫婦」なんて、なんと子供まで出演している。
どっから連れてきたのこの子。
ものすごいリアリティなんだけど。
「思春期の息子と喋りたいお父さん」の動画なんて、もはやショートムービーだ。橋本さんが本当に思春期の男子中学生に見える。仕草も言動も、毎日目にしているうちの中学生と全く同じ。
「韓国人店員と韓流好き女子」はシリーズ化していて、これもまたもう、長いのに見入ってしまう。
橋本さんの演じるイケメン店員さんの韓国語と日本語のちゃんぽん具合が見事だし、俵山さんの演じる30代後半女性の逆ナン攻勢がどぎつい。
俵山さんの『俵山の人間モノマネ』もすごい。
短い動画の中に、人間を観察しきった感が出まくっている。
「声優さん」とか、なんかいい。
どちらかといえば俵山さんが女性役が多いけれど、必ずしも決まっているわけではないようにみえる。そのコントにベストだと思われる役をやっているようだ。
女性を演じる場合、確かに「女装」なんだけれど、「女装」に見えない。そのまま普通に「女性」に見える。違和感がない。
基本は視点の動かない会話劇なので、なんのことはないような会話が続いたりする。途中、ダラダラしてしまいそうに思えるのだが、これが、不思議に飽きない。
たぶん、観ている世界が「日常」だからだ。
ただのモノマネとはひと味違う。
「シチュエーションまるごと」の、モノマネ。
お店に入ったら、隣の席でそんなことがありそうな感じ。
子供のサッカーを観に行ったら、隣にこういう夫婦がいそうな感じ。
飲みに行った先に、そういう男女がいそうな感じ。
気がつくと、日常生活が、「のぞき見シネマ」みたいに感じられることが多くなっていく。
さらには外出先で、自分が定点カメラになったような気がするほど、人間を観察してしまっていることに気づく。
普段の日常に侵食し始める「シネマ」。
さすがに「文豪と文豪の愛人」は日常に侵食するには時代背景や設定がファンタジーなのだが、今度はその分、印象が強く残る。
文章だけ並べると「なんのことかいな」と思う。
これは日常ではなく、実に「演劇的」「映画的」で変なのに、「はぁ~こういう人達いてはるわ。映画で観たわ。谷崎とか太宰で読んだわ」と(なぜか関西ことばで)思ってしまう。
この「あるあるあるあると思うのに知らない世界」「経験したこともないのにリアルに知ってる感がありすぎてヘンな感じ」が絶妙の面白さなのだ。
テレビのネタ披露では、音楽に椎名林檎と宮本浩次の『獣ゆく細道』が使われていて、これまた絶妙なマッチングだった。
そうよこれ。こういう感じなのよあの歌。
確かに番組では、「テレビネタ用」にちょっと過剰な演出になってしまっていたが、動画の「文豪と文豪の愛人」はしっとりしていて妙なエロも加わっている。
見てはいけない誰かの生活をのぞき見している感を味わえる、スクールゾーン。
ゲラゲラ笑うだけのお笑いではなく、ははっと乾いた笑いでもなく、羞恥心と隣り合わせの苦笑い。
ちょっと見ぬ間に、お笑いは進化を遂げている。
漫才ブームのなか、ただただ、テレビの中で繰り広げられる漫才に笑い転げていた少女の私に教えてあげたい。
未来の大人には、こういう「笑い」もあるみたいだわ。
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