みらっちセレクション⑥ わりと人生を豊かにしがち
高校時代。
わたしちょっと、病気をしてしまいまして。
それで半年くらい、あんまり本や漫画が読めなかった時期がありました。
あれは辛かったですね。
読めない、ということが。
なによりも辛かったです。
拷問に近かったです。
が。病気の前後はそりゃあもう、活字中毒・活字三昧でございました。
さて、高校時代に最もハマっていた少女漫画は、迷うことなく吉田秋生先生と、神坂智子先生と、清水玲子先生の作品。
もうこのかたがたは三神です。
順不同で。
『吉祥天女』吉田秋生
吉田秋生先生には、高校時代、かなりハマりました。ハマりすぎて、『ボビーに首ったけ』という片岡義男氏の小説のアニメ化の時は、吉田秋生先生がキャラクターを担当するということで、関連本や画集などをメチャメチャ買いました。でも、正直、ごめんなさい!内容はちっとも面白くなくて、今思えば若干の黒歴史。
昔は、片岡氏のような小説が、もてはやされた時代がありましたね…片岡義男&わたせせいぞう、みたいな。雰囲気、伝わります?笑
トレンディドラマが流行り、ダブル浅野が人気でした。そういえば片岡義男氏の『スローなブギにしてくれ』で浅野温子さんが初主演をつとめたのではなかったかしら。私は観たことがありませんが、確か角川映画のハシリだったような。
片岡義男さんの作品は、当時はものすごくたくさん出版されていましたし、雑誌などでも見かけないことはないくらい掲載されていましたが、今はほとんどが絶版だそうです。電子化は進められているそうなので、もしかしたらまた読める作品もあるかもしれませんが……『スローなブギにしてくれ』は直木賞候補作だったんですよね。
角川文庫の真っ赤な背表紙は鮮烈で、すぐに片岡義男氏の本だとわかります。私も何冊か買って読んだ気がします。強烈にアメリカナイズされた若者の青春のワンシーンを印象的に切り取った、という感じで、当時は爆発的に売れました。なんとなく、その後急速に飽きられてしまったような印象の作家さんです。
主人公も名前がないような「男」と「女」の話で、彼、彼女が基本人称。時折名前がボビーとかなぜか外国人名なのも特徴です。あ、今の『カムカムエブリバディ』もそんな感じですね。ジャズマンがジョーとか。あ、でも彼は本名も錠一郎さんでしたね。しかも俳優さんはオダジョー(オダギリジョーさん)。「なんで日本人なのに外国人の名前なん?」とるいが不思議に思うシーンがありました。笑。
そんな感じで、どの話がどの話だったか、短編の区別がつきにくいです。おおかたが「so,what?」みたいな終わり方。と言ったら身もふたもないですが。あ、そういえば『メイン・テーマ』も片岡義男氏でした。
象徴的なのはバイクシーンで、バイク乗りがよく出てきます。『ボビーに首ったけ』もバイク乗りの少年の話でした。角川では『メイン・テーマ』でデビューした野村宏伸さんをアイドル化して売り出そうとしていたらしく、『ボビーに首ったけ』は彼が主人公の声優をつとめていました。文体の雰囲気は、洋書というか洋画のようで、どことなく村上春樹に通じていく流れなのかなという気がしましたが。
村上春樹が直接影響を受けたのかどうかわかりませんが、おそらく遡ると同じような米国作家さんにつながっていくのではないかと思います。カポーティ―とか、サリンジャーとか。
閑話休題。
うっかり片岡義男氏の読書ブログになるとこでした。笑
『吉祥天女』は私が高校時代より少し前の、吉田秋生先生の初期作品に近いもので、私のリアルタイムは『BANANA FISH』でした。毎回連載を追いかけていましたが、途中「……」と思ってしまい、一応全巻揃えたものの、やっぱり私の最強最高の吉田秋生作品は『吉祥天女』に決まりです。1983年小学館漫画賞受賞作品です。その後ドラマ化・映画化もされています。漫画作品が好きすぎてドラマや映画は観ていません。
『吉祥天女』は不思議な話です。女の持つ魔性を体現する美少女、と言ってしまえば簡単なのかもしれませんが、そんなふうに単純に括ってしまえるような話ではありません。
謎の転校生、叶小夜子には、不思議な魅力と不思議な力があります。会う人すべてが惹きつけられ、だからといって彼女と関わる人間がみんな幸せになるとは限りません。出会う人の持つ「本性」によって小夜子の印象も行動も変わります。害をなすもの、特に彼女に邪な感情を持つ者は、結果的にすべてを奪われ、身を滅ぼされてしまいます。
高校時代は、女性の持つ魔性の妖しさに注目していましたが、今改めて考えてみると、叶小夜子はミソジニー(女性蔑視)に対するアンチテーゼだったような気がします。ミソジニーというのは女性蔑視、女性嫌悪のことですが、生理的にダメという話ではなくてジェンダーの話です。ですので男性のみならず、女性が女性に抱く感情にもミソジニーはあります。1983年の漫画で、ほぼ40年前の漫画ですが、ものすごく先見性があったんじゃないかと思っています。というより、当時抑圧されていたものを炙り出した、というべきなのかもしれません。
吉田秋生先生は、最近では『海街diary』が人気です。鎌倉に住む、四姉妹(三姉妹+異母妹)のお話。姉妹それぞれの性格や立場や考え方が繊細に描かれています。是枝裕和監督で、綾瀬はるかさんや広瀬すずさん主演で映画化もされています。観てはいませんが、個人的に異母妹の名前が漫画でもすずちゃんだったので、広瀬すずさんぴったりだなと思っていました。
『海街diary』は初期の頃の『カリフォルニア物語』のような「ナイフみたいにとがってた」アメリカンな作品群とは一線を画した「和の情緒」的な心理描写が刺さります。初期作品に『桜の園』がありますが、それに近い、詩的な作品だと思います。
とはいえ、吉田先生の作品には、どれほどアメリカンな香りがしようが、青少年期の、繊細で傷つきやすいガラスの心がこれでもかと描かれています。
絵柄は劇画的・少年漫画風で、そこはかとなくアメコミっぽい線。どこかジャジィな、初期ロックンロールな雰囲気を持っていることが片岡義男さんにつながるところもあったのかな、だから『ボビー』だったのかな。などと、思ったりもします。
『シルクロードシリーズ』神坂智子
書きたいことがありすぎて、ここでは書ききれないので、以前書いた「シミルボン」の記事を貼ります。というか、吉田秋生先生について書いていたらそれだけでいっぱい書いてしまったもので、さすがに文字数が……
良かったらぜひ、ご覧ください。👇
※(ここから今回の加筆)
…といって、前のブログではここにリンクを貼ったのですが、同じリンクはこちらのnoteにも貼っています。
引用よりnoteで読みたい、という声もあるので、改めてこの記事の後で、シミルボンからnoteに転載いたします。
(加筆終わり)
『ミルキーウェイ』清水玲子
こちらも上記と同じ理由で「シミルボン」からの引用を貼りました。
こちらから、どうぞ👇
吉田秋生先生と片岡義男氏でひっぱりすぎたわ…
※(ここから今回加筆)
一応、リンクは貼りましたが、こちらもいずれnoteに転載します。
(加筆終わり)
もちろん他にもたくさんの作品を読みましたが、とにかくこの三作品が筆頭だと言えます。というか、この作家さんを中心に、遡って全部読む、ということに血道を注いでいた気がします。
そして番外編。
これは実は、漫画ではありません。
私が高校時代に何よりもハマって読んでいたもの。
それは
『千夜一夜物語』岩波文庫(全26巻)
です。
高校生当時、古い高校の、古い図書館の、古い岩波文庫版を全巻制覇することに挑戦していました。
さすがに当時の本の写真がありませんので、大変申し訳ないのですが、ヤフオクに出品されている本の写真をお借りします。
そうですそうです。まさにこれ。
薄紙(パラフィン紙)に包まれたやつです。
図書館の奥で日に焼けて、薄紙もボロボロで、ほとんどがパラフィン紙なしの状態でした。字はめっちゃ細かかったけど、少しずつ読んでいきました。
最終巻を借りた時、今まで会話の無かった司書の方から「ついに最後ですね!」と声をかけられたのがいい思い出。
あのときの司書さん「ああこの子、26巻全部最後まで読めるかしら」とじっと見守ってくれてたんだろうなぁ。
先日、岩波書店からガラン版の読みやすい『千夜一夜物語』が出ました。
私が読んだのは、子供向けのガラン版ではなく、むちゃくちゃエログロの、おそらくはマドリュス版。もうひとつ、バートン版が筑摩書房から出ています。
高校生が大声で『千夜一夜物語』を読んでいる、というと、どれだけ官能小説がすきなんだといろいろと勘違いされてしまいそうですが、様々な物語の元型がこれでもか!と入っていて、その後の人生を豊かにしてくれること間違いなしです。
というわけで、ん?これで終わり?と思った方。
いやいや、私の漫画人生、これからですよ!
お楽しみに~