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あの島
長い間、あの島に行っていない。
実を言うと、もう、行くことができない。
なぜならば、息子のゲーム耽溺を阻止するために、switchを封印してしまったからだ。段ボールの奥底に仕舞って、棚の上にあげてしまった。
季節ものや普段使わない寝具の向こうに押しこんだから、おそらくよほどのことがなければその段ボールを開けることはないだろう。
ゲームを封印したところで、息子はチャラリラと動画で時間を溶かすからどこ吹く風だ。最初こそ「そこまでしなくても」と言っていたが、そのうちゲームならスマホで出来るし、だいいちswitchで出来るゲームには飽きてしまったらしい。何も言わなくなった。そして「なんだ、別になくても平気だな」と笑っている。
私は、たまにあの島に行きたい、と思う。
行きたくなる。
「あつまれどうぶつの森」の、あの島へ。
コツコツと作り上げた自分の島。上陸してから、テントひとつの暮らしの中、虫を取っても化石を掘っても魚を釣っても何をしても新鮮で楽しかった。少しずつ家が立派になって、家財を揃えて、ファッションも楽しんで、島のインフラも整えて、毎日汗水たらして(たらしたような感じで)働いた。他の島に行ってサソリと格闘したり、竹の島だって最初は嬉しかった。とうとう鮫島には行けなかったけど、シーラカンスが釣れたときは感極まって写真に撮ったし、魚コレクションをコンプリートするために必死になって魚を釣った。
友達と島を行き来したのも楽しかった。島に生えていない果物を交換したり、花の苗をあげたり。さざ波の音を聞きながらゲームしているうちに寝落ちしてしまったこともある。
島の住人とも仲良くなって、贈り物をしあったり、誕生日を祝ったり、行事のたびに楽しいイベントがあった。そのうち拡張ダウンロードで「タクミホーム」に就職して、別荘の斡旋をしたりインテリアコーディネーターをしたり。離島のインフラ整備も楽しかった。
――確かに、最後の方は少し飽きてきていた。
だんだん、住人に対する態度がおざなりになっていたかもしれない。住人たちが、夏に私があげたノースリーブを雪の降る日に着ていたりするといたたまれなくなったものだった。NPCキャラクターだから同じ会話しかできないし、親しくなっても疎遠になっても、だいたい同じ会話。最初の頃は、島を離れたいと打ち明けられたら全力で止めていたのに、そのうち「新しい人生もいいかもね」なんてあっさり「頑張ってね」なんて言ってた気がする。
でも、あのゲームがきっかけだった。
まさかゲームが人生を変えるきっかけになるなんて、プレイしているあの時には思いもしなかった。
わたしが自分の名前を「みらい」にして、そして最初の住人が「みらっち」と呼んだのがきっかけで、私のブログは「みらっち」という名前になった。今も私はその名前を使い続けている。
あれから、3年。
コロナ禍に巻き起こった「あつ森ブーム」でゲームを始め、その勢いでブログを始めてみようと「はてなブログ」をスタートした。その後「note」にも手を広げ、今ではnoteがメインになっている。「あつ森」をしていなかったら、ブログをやろうなんて思ったかどうかわからない。
「はてな」で「書く」ことに徐々に慣れ、noteで初めて、「他の人の文章を読む」「自分の文章を読んでもらう」「反応をいただいたり返したり」といったSNSのやり取りに目覚めた。
そうしているうちに、やってみたいことがどんどん、湧いてきた。
noteに書いていた記事をAmazonでkindle出版したり、それをさらにペーパーバックや文庫にしたり、WEBを作って過去の作品を載せるようになった。
活動を案内するためにLINEの公式を始め、毎週更新。
創作アカウントを作って、創作をするようにもなったし、先日noteのエッセイをまとめた2冊目の本を出して、それをペーパーバック化した。
WEBに載せていた作品は、少しずつ文庫化を始めている。
そしてついに――
私は、本屋をやることにした。
クリエーターの海人さんが教えてくれた、シェア型本屋さんだ。
棚をひとつ、借りることにしたのだ。
今私は、3年前の自分とはまったく違う人生を歩んでいる気がする。
主婦としての生活は変わらないのに、密度が全然違う。
正直収益にはなっていないし、夫の収入なしに生活が成り立たないのは今までと同じなのだが、時間やお金の使い道が、がらりと変わってしまった。
私は今、好きなことができている。
願ったことを叶えている。
もう少し若かったらよかったなと、思うこともある。
やりたいことがあれば年齢なんて関係ない、と思う反面、やはり体力知力、いろんな面で衰えていて、残念に思うことはある。
でも私が「やりたい」「やってみたい」と願ったことができるのは、全部この時代だからだ。テクノロジーや社会の動きが、今の私を後押ししてくれている。なによりも、家族が元気でいる、今というタイミングだからこそ、できている。
もう少し進めるだろうか。
どこまで、いけるだろうか。
コロナ禍、世界が大きく揺らぎ、不安が社会を覆った。
今まで当たり前にできていたことが出来なくなり、限りある命なら、後悔したくない、と思った人も多かったに違いない。
私もそうだった。
50代に入り、このまま年老いていくだけなのかと、更年期特有の虚しさを感じるようにもなっていた。
後悔しない人生を送りたいと思った。
そして「やってみる」という選択をした。
たとえ結局何にもならなかったとしても、ずっと不完全燃焼だった人生の中で情熱を燃やした記憶だけでも残ればいい。
あの島へ、行ったから。
行こうと思ったから、今の私がある。
私を変えたのはあの選択。
今は記憶の中だけにしかない、あの島だ。
#サムネは本邦初公開、「あつ森」の中の「みらい」。
シーラカンスを釣ったものとかスマホに移動していたはずなのだが、これしか残っていなかった。
#本屋の話は、また改めて。
海人さん、素晴らしい情報ありがとうございます!