「正しさ」ってなんなのか。正義と正論。
不倫しちゃいけない。道徳的にNGなのはもちろんだけど、必ず傷つく人がいるんだから絶対ダメ。薬はダメ、嘘つきはダメ、働きすぎはダメ、でも働かないでお金もらうなんてダメ、ダメ、ダメ、ダメ・・・。
世の中、ダメなことが多すぎやしないか。ま、ダメなもんはダメだし、ダメがたくさんないと社会生活はままならなない。それはわかるんだけどさぁ。
以前、あるサイトでエッセイを連載していた(もう今はない)。エッセイと見せかけつつ、実は書評で、紹介した本の購買につながるように書いてほしい、との依頼だった。
確か、不倫の話だった。あれは何の本だったっけ?
とにかく、紹介した本は不倫の話で、「不倫はいけませんっ!!!」ってことを、友人のエピソードを盛り込みながら、熱弁したエッセイだったように思う。
友人は、ウエストがキュッと細くて、シルクのブラウスにタイトなミニスカート、どんなときでもハイヒール。手首も華奢で、ブレスレットって細い手首にこそ映えるのね…と知ったのは彼女のおかげ。美人で語学堪能、なのに豪快に酒を飲み、酔っぱらうと老若男女問わず、しなだれかかる。細い手首を巻き付けて、猫のように自由で気まま。それでいて、美しい。
そんな彼女は、だれもがうらやむような夫がいるにもかかわらず、不倫していた。
「夫は、二番目に好きな人。一番好きな人は結婚してくれなかった」
彼女は酔うと必ず、そう言ってさめざめと泣いた。そんな彼女の不倫相手は、彼女が一番好きな人。つまり、結婚してくれなかった相手。でも不倫はしてる。ちなみに相手の男には、彼女がいる。
なんなんだ、いったい。
彼女の夫、素敵すぎるナイスガイには何度も会ったことがあった。「いつも妻が迷惑かけてすみません」といいながら、優しいまなざしで彼女を見つめる彼は、すんごく彼女のことを愛してる、と傍目から見てもわかった。
なぜこんな素敵な夫を平気で裏切れるのか。おかしくないか? あなたが不倫してる事実を彼が知ったら、どれほど悲しむか。それ、わかってる?
「夫のことは好きだけど、不倫相手のことが一番好きなの」
じゃあ、夫と別れて、彼と一緒になればいいじゃん。
「だって彼は、私と結婚してくれない」
堂々巡りだった。
不倫はいけないものだ、だって誰かが傷つくから。正義と正論を振りかざして、私はいつも説教した。正しいか、正しくないか。不倫なんて正しいはずないじゃん、やめなよ、そんなこと。そう言って、彼女を責めた。正しい自分に酔いながら。
今ならわかる。正しさをもって責めながら、私はたぶん憧れてた。ダメとかダメじゃないとか、正しいとか正しくないとか飛び越えて、そこまで「好き」と思える相手ととことん溺れている彼女に。
このドラマを見ながら、ふと、そんなかつての自分を思い出した。
なぜ「人妻」だって嘘をつく? 独身なんだからはよ独身って言えよ〜、もう第6回だぞ〜と、主人公の杏ちゃんにイライラしながら、仲間由紀恵とピンク頭とのピュアな恋、爽やか笑顔がコワ〜イ谷原章介が見たくて、ついつい見続けている『偽装不倫』。