うれしい悲鳴をあげてくれ / いしわたり淳治
買うつもりのない本を買ってしまう時、タイトルから心を奪われている。自粛もそろそろ解けてきたので、先日、久しぶりに本屋に行った。欲しい特定の本はなかったので、とりあえず並んだ本たちのタイトルを舐めますように見ていた。そこで目に入ったこちらのタイトル。
うれしい悲鳴をあげてくれ
なるほど天才すぎる。うれしいと悲鳴の組み合わせが面白い。相反する意味で使われることが多いはずだ。そして、あげてくれ、を選ぶワードセンス。めっちゃかっこいい。
作者はいしわたり淳治さん?関ジャムのひとじゃん、と思った。最近のテレビ番組で数少ない好きな番組のひとつだ。いしわたりさん、見た目も若干タイプだし、コメントとかもおもしろくて好きと思っていた。そっか、本も書いてたんだ、と表紙カバー裏の折れ目の人物紹介コーナーを見たら、衝撃。
え、青森県出身なの?え、スーパーカーのギターの人だったの?え、作詞全部していたの?え、まじんご?全く存じ上げなかったことを恥じ申し上げた。これは読まなくてはいけないので、速攻購入速攻帰宅速攻熟読を始めた。
まず、小説その1、エッセイその1、小説その2、エッセイその2、という作りになっていて、珍しいなと思った。
小説は数ページで完結するものを何個も楽しむことができる。その1には10個くらいの短編が並び、その2も同じくらい短編が揃えられている。ファンタジー要素があってとても面白いし、好きすぎた。西加奈子さんの炎上する君を読んだときの楽しい感覚に近いと思った。想像力を駆使して、空想と現実をちょうどよく配合させた、楽しい、わくわくする物語。こんな風に何でもない日常に味付けしてものを考えて生きられたら楽しいと思う。
エッセイも小説と同じように、超短編がその1その2とたくさん読める。エッセイは作者の感性に迫ることができるので、興味深いジャンルと思っている。作詞家さんって、個人的に楽器の素養が全くないのも相乗して、得体の知れない天才感が勝手にあってこわかったけど、シンプルに言葉を使って素敵な作品を生みだすお仕事なんだなと思った。そりゃ、小説もエッセイも楽しく書けるよな、と当たり前のようなことに妙に納得していた。
さて、スーパーカーというバンドを知っているか?もう解散してしまったらしい。大学生の頃、音楽好きの友人から青森県出身なのにスーパーカーを知らないのかよと意外がられた思い出がある。いいバンドだよと言われていたが、ちゃんと聞いたことはなかった。よって、早速Apple Musicにて、彼らの代表的なアルバムであるところのスリーアウトチェンジをダウンロードし、拝聴させて頂いた。
なるほど、めっちゃ好きすぎる。海を漂うような、気だるげな、永遠を感じるような世界観がある。すっと聴き入ってしまう。なんだこれは。ぱっと八戸の海辺で曲を聴く自分を想像した。夏の夕暮れ、友だちと車に乗って蕪島神社近くに行き、ウミネコ飛んでるねとか当たり前のことをいいながら、浜に座りながら、買ってきたアイスでも食べながら、思い出話に花を咲かせながら、でも昔みたいじゃないちょっと大人になった自分たちの現実を嘆きながら、でも楽しいねとか言いながらこのアルバムをずっと流していたいと思った。
いしわたりさんはエッセイのなかで、スーパーカーもクリームソーダもスリーアウトチェンジも特に意味はなく語感がいいからそう名付けたとエッセイの中で言っていた。センスしか感じない。シンプルでかっこいい。シンプルが一番信頼できる。シンプルが一番楽しい。複雑怪奇は疲れるだけだ。
この本に出会えて良かった。本屋に行くとこんな出会いは尽きない。本屋さん、なくなって欲しくないな、と思う。
夢に向かって頑張ります‼