招き猫体質の話
ある日の夜、仕事終わり。
夕飯を食べに、ずっと気になっていた洋食屋さんにふらりと立ち寄った。
時間はもうラストオーダー間際だったのだが、A氏が注文を終えるとすぐに2,3組ほどお客様が来た。それも大人数の。
「またか…」
苦笑いで急いで食事をかきこみ、店を出た。
たまにはゆっくり外食でも…と思う日に限って、必ずこうなる。招き猫体質のA氏にとってはいつものことだが、お店のスタッフからすれば、いつもならこの人数で回せると思ってシフトを組んでいるはずのところ、急に大勢客が来るのだから大変な話である。
一家揃って招き猫体質のA氏は、旅先や近くのお店でこの現象が起きる度に「客寄せパンダ」と自称したりしていたけれど、最近この体質が職場でも出始めた。
彼が出勤の日はいつもよりお客様が多く来店するので、店にとってはありがたい話である。しかし、A氏はいつ出勤しても常に繁忙期並にお客様が来るため、毎回一日の終わりはクタクタ。ありがたい話だし贅沢な悩みとは分かっているものの、時折この能力を調整できるようになりたいと思ったりしていた。
ある日、いつも通り一日を終えて布団に潜り込み、消灯して眠りにつこうとしたら、枕元に何かの気配がする。閉じていた目を恐る恐る開くと、そこにはご先祖さまの姿があった。
「招き猫体質を自力で調整したいのか?」
「…」
「聞いておるか?」
「…は、はい…調整できるのであれば…」
「ではそなたにその力を授けよう。ただし代償はいただくぞ」
ご先祖さまはこう言って姿を消した。
何事もなかったかのようにA氏は眠りに落ちた。
翌朝起きたA氏。今日も出勤の日。
いつも通り家を出て仕事を始める。
お客様とお話するが、いつもと何かが違う。
「あれ…笑えなくなっている…?」
その瞬間、昨日の夜の出来事を思い出した。
もしかして…代償って俺の笑顔か…?
時すでに遅しである。
どうやっても笑えない。
A氏は一生後悔した。
…みたいなことがいま起こりそうで怖い最近の私です。(おしまい)