午後7時からの中学生談義 11

narrator 市川世織

『さあ、みなさん、談義の時間です』
私の一言で、談義は始まった。
この談義をすることがいつから始まったのかと聞かれても、私も、貴之も裕翔も、明確には答えられない。小さい頃から一緒にいた私達は、何か自分達の身の回りで事件が起きれば、そのことについて談義しあい、解決策を編み出し、解決してきた。
「最近は目立った事件がなかったから久しぶりだな」
裕翔が勉強道具を片付けながら言う。
「おい、今回の事件はいつもとは違う。ひょっとしたらいじめかもしれない。あんまりはしゃいでも不謹慎だ」
貴之が冷静に言った時、先生が私達のもとにお茶を運んできた。
「今日は許すけど、次回はちゃんと勉強してよね」
私は先生にお礼を言うと、温かいミルクティーを口に運ぶ。
「でも、考えてみたら…、本当にいいのか?貴之の言う通り、今回の事件がいじめに関係してたら、俺達の中途半端な推理じゃ解決できないかもしれない。もし間違えたら、やばいんじゃ…?」
裕翔の言葉は正論だ。けれども、私は2人にスケッチブックを見せる。
『子どもの問題を完璧に解決できるのは、子どもだけ。誰かが動かないと何も変わらない。スリルがあっていいじゃない!』
「セオリー、お前ってこういう時だけバカ…」
私はそう言った貴之を殴ってから、今回の事件について書いた。
『今回の事件は、名づけて鏡落書き事件。落書きの内容は「最低」。しかも赤ペンで書いてあった。第一発見者は私』
「セオリーが落書きを見つけたのは何時頃だ?」
『7時40分くらいかな』
私がそう言うと、貴之がホワイトボードの前に立ち
「幾つか仮説を立てよう」
と、言い「いじめ」と書く。
「今のところ有利なのはこれか?」
「普通に遊び半分で落書きしてやったってのは?」
『それにしては内容が…』
「まあ、ありえなくもないな」
『じゃあ、誰が落書きをしたか、だけど…これはもう、私達2年生でしょう』
私が言うと、今までずっと見守ってくれていた先生が手を叩き、話し合いを止めた。
「確かにね。2年生フロアで起きたことだから、2年生の可能性が高いけど、全校生徒は2年生だけじゃない。理論的なのもいいけど、他の可能性も考えなきゃ」
先生は微笑む。
先生の言葉に、私達は顔を見合わせた。
「…でも先生、多学年の階には、出入り禁止なんだ」
「ちょっと待て!!音楽室って、俺らのフロアにあったよな?朝練で音楽室…、俺らのフロアに来る他学年も…!」
裕翔がそう言うと、貴之はハッとした表情をする。
『他学年の可能性も、ありってわけか。だとしたら、情報収集が必要だね』
「3年生は部活のつながりがあるから、いけるけど、1年生、どうする?」
困った顔をする男2人に、私は心の中で「わかってないなー」と、得意げに言ってからトントン、と指で机を叩いて
『新しく塾に入った1年生がいるじゃーん!」
満面の笑みと一緒に、スケッチブックを見せた。
「「「それだ!!!」」」
貴之と裕翔、先生は声を揃える。
持つべきものは、可愛い後輩達でしょう!

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