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『レベルE』 感想(ネタバレあり)

*この投稿は、『レベルE』本編の内容を、結末まで激しくネタバレしておりますので、閲覧ご注意下さい。


各編感想

単行本全3巻の本編は、オムニバス方式になっている。世界観は共通だが、各話の繋がりは薄い。wikiによると、8編に分けられているので、関連性が強い話はまとめながら、感想を書いていきたいと思う。

バカ王子・地球襲来編:No.001 - 003、単行本1巻に収録。
食人鬼編:No.004・005、1巻に収録。
原色戦隊カラーレンジャー編:No.006 - 009、2巻収録。
マクバク族サキ王女・ムコ探し編:No.010・011、2・3巻に収録。
高校野球地区予選編:No.012・013、3巻に収録。
原色戦隊カラーレンジャー・人魚編:No.014、3巻に収録。
バカ王子・結婚編:No.015、3巻に収録。
バカ王・ハネムーン編:No.016、3巻に収録。

『レベルE』wikiより

バカ王子・地球襲来編 

高校進学の為、山形に引っ越して来た筒井雪隆が入居したマンションの自室に入ってみると、自称記憶喪失の宇宙人が先に生活していた。この自称記憶喪失の宇宙人こそ、前記した紹介文を再度借りると、宇宙一の天才的な頭脳と美貌、そして最悪な性格の持ち主・ドグラ星第一王子…人呼んで「バカ王子」。注:バカ王子は、実は本名である事が最後の方で判明する。

いや、天才的な頭脳は話の軸なのでともかく、美貌を生かした話には出てこなかったような気がするが。後記する原色戦隊カラーレンジャー編で、ゲーム世界のお姫様に扮して違和感がないくらい中性的な見た目ではあるが……。彼のぶっ飛んだ性格が、美貌を目立たなくしているのだとは思う。

知能が高い彼は、地球に降り立ったばかりなのに、流暢な日本語を操り、日本の言語、文化、風習を知り尽くした上で雪隆達を振り回し、おちょくる。
テレビに出ているMCやコメンテーターを良く知っていたり、デパートで普通に買い物したり(お金はどうしたんだろう?)

そして、最終的には山形をナワバリとしている宇宙有数の戦闘種族ディスクン星人をも巻き込んで、大芝居をする。

一連の騒動で、一番の被害者はもちろん雪隆なのだが、それ以上に不憫なのは、王子の護衛隊隊長であるクラフトだろう。クラフトはこの編の後も、王子に振り回され続ける(護衛隊長だから仕方ないとはいえ)同じ護衛隊であるサドも、雪隆に「泣くほど悔しいなら護衛隊なんかやめちまえ!!」と言われるが、王子の両親であるドグラ星王子と王妃はいい人なのだそうで。後記するバカ王子・結婚編で出てくるドグラ星第二王子モハンも優秀、かつ民に人望があるらしいが、そうなると、このバカ王子の遺伝子は、何処から来たのか不思議ではある。

高校野球地区予選編

雪隆が所属する如月高校野球部に、ガラスがいきなり割れるなどのポルターガイスト現象が度々起こる。そんな中の甲子園予選決勝戦、野球部を乗せたバスがいきなり消えてしまう。ディスクン星のラファティから、その知らせを受けたクラフト達が、野球部(ついでにバカ王子)失踪の謎に迫っていくというお話。

ポルターガイスト現象やバスを自分の意識の中に取り込んだ能力者(犯人)は最後まで明かされない。つまり、犯人は読者の推理にゆだねるって事だろう。私は全く分からなかったが、分からなくても問題なく楽しめた。この話は野球部の面々も良かったが、ディスクン星人のラファティ君が良かった。野球に対して真摯で、熱心に練習を重ねる如月高校を心の底から応援していて、誰が犯人であろうと許さないと。『許さない』理由がここまで他人(しかも、異星人)に対して思いやり深く、真面目で純粋なのは、滅ぼした星が軽く3桁を超える残忍な戦闘民族のディスクン星人としては、異例中の異例なのだろう。もし地球に野球がなかったら、とっくに彼らに滅ぼされていたかもしれないと思うと興味深い。


食人鬼編

この話だけは、主要メンバーが出てこない(最後にバカ王子がチラッと出るだけ)林間学校中に悪ガキ4人組が、同級生の女子が学校内の誰かに喰われてしまう場面を目撃してしまい、精神科クリニックの怪しい医師の助けを借りて、その犯人を探すというお話。

宇宙人が地球に住む場合、風習や持って生まれた体質が壊滅的に合わない場合、地獄が待っているという話。具体的に書くと、女子を喰った宇宙人(地球人に化けている)は、男が女を食べて卵を産むという種族で、女を喰うという行為は地球人に置き換えれば性欲で、それを抑える事は難しい。地球人を喰っても卵は産めないが、性欲は消えない(彼らの種族は見えない胃袋と呼んでいる)もしかしたら、性欲に食欲の概念も混ざっているのかも。

これ、現実にあり得なくもない話だなと。例え、仮に現在宇宙人が地球にひっそり住んでいたとしても、それを知る術はないのだが。


マクバク族サキ王女・ムコ探し編

マクバク族のサキ王女が地球にムコ探しにやって来た。地球の治安維持対策委員会(地球非公認)の一員であるクラフトは、見初めた種族を数世代以内に絶滅されてしまう『異種喰い』と呼ばれるマクバク族から地球を守る為に、王女のムコ探しを妨害するというお話。

食人鬼の話と少し似ているようで正反対な話。こちらは自分達の特殊な体質を誇りに思い、種族の未来を掛けて、例え相手の種族を滅ぼそうが構わない。むしろ、種族を独占する喜びを享受する。食人鬼の話の宇宙人達が罪悪感に苦しみながらひっそりと生きているのに対し、清々しいくらい、堂々と地球に住んでいる人類を滅ぼす事を承知の上で、ムコ探しをしている。滅ぼすと言っても、分かりやすく武力などで侵略する訳ではない。女王が体内に持っている雄の繁殖プログラムを破壊するウィルスを、選んだムコを通じて世界的に空気感染させる。時間は掛かるが、そのウィルスにより繁殖出来なくなる為、穏やかに人類が絶えてしまう。秘密裏に行われるし、地球人の生物学レベルでは、仮に気付いたところで対抗策が取れない為、防ぎようがない。

サキ王女が見初めた相手であるミキヒサは、実は心が男性、身体が女性の性同一性障害だった。王女はクラフト達に母星に帰ると告げたが、それはフェイクで、王女はこっそりミキヒサを夜中の公園に呼び出して、遺伝子治療を施して、身体も男性に変えてしまう。

結局、バカ王子の違法だらけの知略で、本物の人生記憶を植え付けたクローンのミキヒサがサキ王女に宛てがわれて、本物のミキヒサは、王女に惹かれないように遺伝子操作された上で引き離された(本物のミキヒサは王女の記憶が消されている為、身体も男になれた事を素直に喜んでいる)

こうして、マクバク族から無事に地球人は絶滅から守られるのだが、この話のエピローグにある『地球人の遺伝子は様々な物によって傷つけられている』という項目の中に、未知なるウィルスっていうのが入っている。私は、4年前にコロナウィルスが世界に蔓延し始めた時、真っ先にこのエピローグを思い出した。未知なるウィルスに対する人類の弱さを、まさか、この漫画が終わって20年強も経って自ら実感するとは。これから先も、また別の未知なるウィルスが人類を襲ってくるのだろう。身の毛もよだつ話ではある。


原色戦隊カラーレンジャー編・原色戦隊カラーレンジャー・人魚編

フィクションの世界から人類に異星人の存在をアピールする作戦(食人鬼編)が失敗した後、次にバカ王子が立てた作戦は、地球人の小学生5人を集めて地球を守る戦隊を結成する事。王子は地球から5人の小学生グループを誘拐して、宇宙船に乗せて正義の味方になるように脅迫する。縄で縛られている上、大気圏外にいて抵抗出来ない状態の為、少年達は渋々、正義の味方になる事を承知する。王子は彼らに改造手術を施した。こうして『原色戦隊カラーレンジャー』が誕生した。

このカラーレンジャーシリーズは『レベルE』の中では圧倒的な人気を誇る(と思われる)5人の小学生グループは、王子が想定していた「正義感が強く、夢いっぱいな小学生」ではなく、ちょっとませていて捻くれた悪ガキ達(赤川と黛は真面目だが、5人揃うととんでもないと同級生に評される)
だが、それぞれに個性豊かで、喧嘩も良くするが、確かな友情と絆がある。少年達の担任が実は宇宙人で戦わせる為に戦隊ヒーローにしたとか、バカ王子の情報収集力ハンパない。最初、渋々なった戦隊ヒーローだが、人魚編でその力を使って宇宙人の人魚を助ける。清水が父親の転勤でアメリカに移住する事になって、それを事前に伝えなかった清水と他の4人(特に横田)の間で不和が起きるが、人魚のお陰で、清水の父の転勤話が白紙になり、アメリカ移住が中止になった。偶然だが、人魚は助けてくれた少年達に、間接的に恩返しが出来ている(お互い、それを知る事はないが) 5人が肩を並べて喜び、笑い合うほっこりハッピーエンドな展開は、正に想定の斜め上の結末で痺れた。


バカ王子・結婚編・バカ王・ハネムーン編

久しぶりに雪隆の元に顔を出したバカ王子、用件は「追われているのでかくまって欲しい」との事。王子を追っているのは、弟であるドグラ星第二王子のモハンとバカ王子の許嫁であるマグラ星のルナ王女。バカ王子とルナを結婚させて予定通り王位継承させようとするモハンと、面倒だから、逃げ回り次順の王位継承権を持つモハン王子に押し付けようとするバカ王子。バカ王子を国王にしたくないクラフト達との利害が初めて一致して、協力して結婚を阻止するというお話。

これも予想の斜め上をいく結末。バカ王子は、雪隆と美歩の何気ない言葉から、追ってきたルナ王女とモハン王子がマグラ星の自由同盟が仕掛けた替え玉という事を、持ち前の優秀な頭脳で早々に突き止める。そんなバカ王子は、想像していた大人しく保守的な本物のお姫様ではなく、数々のサイコな悪だくみを鮮やかに実行した彼女を気に入り、替え玉の彼女と結婚する事を決意した。

しかし、実際の替え玉は本物のルナ王女により捕まり監禁されて、まるで本物であるかのように振舞わせて、逆にバカ王子を騙す為に利用されていた。つまり、王子に様々な悪だくみを考えて実行していたのは、替え玉ではなくルナ王女本人で、バカ王子の完敗だった(弟曰く、兄であるバカ王子が悪だくみで完敗するのは初めて)

ドグラ星の為には、民の人望が厚いモハン王子が王になった方がいいと思うのは無粋な感想かもしれない。バカ王ハネムーン編では、きちんと新王朝を軌道に乗せるまで真面目にやっていたようだし、ルナとの夫婦仲も普通に良いみたいだし。民の信頼に繋がるような地味な公務は、モハン王子がきちんとやっているのだろう(政務の補佐するって言ってたし)ラストで彼らの娘のカナちゃんが地球で雪隆と美歩に連れられていたが、この2人も既に結婚しているんだろうというのも無粋な感想だろう。常に斜め上だった本編だったが、意外とスッキリ綺麗な王道エンディングだった。


終わりに

全編改めて振り返ってみても、やはりその唯一無二な独特な世界観、緻密なストーリー構成、斜め上をいく痺れる展開、印象に残るキャラクターなど、『レベルE』の魅力は計り知れない。例え、万人受けしないとしても、私はこの漫画を繰り返し読み返していくだろう。この漫画に出会えた幸せを噛み締めながら。

最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。

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春原美桜(miosuhara)
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