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法学系以外の人も知っておいてほしい法学その1

さて,リクエストのあった法学系以外の人も知っておくべき法学について,書き連ねてみようと思います。最初の投稿から,かなりお待たせいたしました。
かなり長くなりそうですので,とりあえず「その1」とつけてみました。
法学を専門的に学ぶ人以外に向けて書くことを念頭においたため,専門的にはやや不正確な表現も散見されるかと思いますが,ご了承ください。
なお,筆者はこのnoteを執筆時点において登録をした有資格者ではありませんので,具体的な事案に関するお悩みについては,責任の持てる有資格者にご相談ください。

1 法学とは何か

何やら仰々しい見出しをつけてしまいましたが,大したことは書きません(書けません)。
読者の皆さんは,「法学」と聞いて何を想像するでしょうか。
裁判?
重そうな六法全書?
司法試験?
何か分からないけど堅苦しい?
人によってイメージするものはおそらく違うのではないでしょうか。

法学といっても色々ありますが,私は,法学は「『社会』を『法律』という観点から見て,論理で問題を解決する」という学問だと思っています。
「法は社会と共に生きる」という言葉がありますが,社会が変化すると共に人間社会は新しい問題を抱えることになり,そして,それに対応する形で生きる法があります。時代の変化に応じて法律を新たに制定したり改正したりすることもありますが(立法),既存の法を「解釈」して社会に適応した運用をすることもあります(司法)。この法の「解釈」が法学部で学ぶことの根幹をなしています。
そして,その「解釈」にあたっては,そもそも条文がどうなっているのか(要件・効果),その条文のこの文言はどういう意味なのか(定義),なぜこのような法の規定が存在しているのか(趣旨)を考えることになります。
そして,具体的な事案が存在する場合,何が問題かを示し(問題提起),法解釈を含めた一般的な判断基準をたて(規範定立),その基準を具体的な事案に適用し(当てはめ),結論を出すという,いわゆる法的三段論法が法学部で書く論文答案の基本です。
堅苦しい文言を暗記しているのではなく,このような趣旨から考えて「解釈」し,実際の事案に当てはめ,それを通して社会を見ることができるというのが法学の面白さの1つではないでしょうか。

なお,こちらのnoteの写真として女神テミス(英語ではLady Justiceとも呼ばれます。ローマ神話のユースティティア。)の画像を使用させていただきました。
テミスはギリシア神話に登場する法・正義の女神で,目隠しをしていて手に天秤と剣を持っている像が有名ですね。裁判所とか法学部に力を入れている大学の構内とかで時々見ることができます。
目隠しは目に見えることに惑わされずに判断することを,天秤というのは公平な判断を,剣は強制力を表すとされています。
何となくですが,法というものをイメージできる存在ですね。

2 六法って何だ?

ところで,「六法全書」の「六法」って何かご存知でしょうか。
実は意外と一般的には知られていないのではないかと感じています。
「六法」とは、憲法・民法・刑法・民事訴訟法・刑事訴訟法・商法(広義;会社法を含む)の6つの法を言います。これに行政法と選択科目を足したものが司法試験科目です。

さて,この六法,それぞれどういう法かイメージできるでしょうか?
一個ずつ,とても簡略化して説明すると以下の通りです。
憲法:国家と私人(しじん;国家権力以外のこと)の関係で国家権力により侵害されるべきでない人の権利(人権)を定め,国家の運営のあり方(三権分立など。統治機構)を定めた法。
民法:私人と私人の間の権利関係を広く定めた法律。イメージしやすいものだと,売買(お買い物)や賃貸借(家を借りる),契約通りのことをしてくれないときにどうするか(債務不履行),事故ったときのお金の請求(不法行為),結婚(婚姻),相続とかでしょうか。
刑法:犯罪と刑罰に関する法律。イメージしやすいものだと,殺人罪とか窃盗罪とかです。
民事訴訟法:民法や商法など民事法に関する訴訟(裁判等)の手続について定めた法律。例えば,「民法上,不法行為に基づく損害賠償請求権がある」というだけでは,権利の行使の方法が分からないですよね?では,訴訟上,どのように権利行使していくのかというのを規定しています。
刑事訴訟法:刑法など刑事法に関する訴訟(裁判等)の手続について定めた法律。例えば,ある人が犯罪を犯した場合,どういうときに逮捕できて,どういうときに勾留できて,それは何日間なのか,刑事裁判になった場合にどうやって訴訟手続を進めていくのか,何が証拠として使えるのか,ということを規定しています。
商法:会社や商人の取引や運営体制について規定した法律。会社を設立するにはどうするのか,株主総会,取締役会,監査役とかを規定しています。

この中でも,国家と個人の関係について規定しているのが「公法」,個人(私人)どうしの関係を規定しているのが「私法」と呼ばれます。
また,民法・民事訴訟法・会社法(商法)は民事事件に関する法律であり,「民事法」と呼ばれ,刑法と刑事訴訟法は刑事事件に関する法律であり,「刑事法」と呼ばれることがあります。

3 一般法と特別法/個別法

このnoteの読者の中には,医療系で国家試験のために医療法とか何やら細かい法律を勉強されている方もいることでしょう。
そこで知っておいてほしいのが,「一般法」と「特別法」の関係です。

一般法とは,広く一般的な関係を定めた法のことを言います。これに対して,特別法とは,一般法が適用される範囲の中の特に一部分の関係を定めた法のことを言います。
例えば,民法は私人関係一般について定めていて,その中でも会社の関係について定めたのが会社法です。つまり,民法と会社法は一般法と特別法の関係にあります。このような場合,特別法である会社法に規定がある場合は,会社法の規定を優先的に適用し,会社法に規定がない場合には一般法である民法の規定が適用されることになります。

また,一般法と特別法とは少し異なりますが,広く規定を設ける法律が存在し,さらに個別の法律で規定が存在する場合もあります。
例を挙げると刑法の秘密漏示罪(刑法134条)は以下のように規定しています。

刑法第百三十四条 
1 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。

ここでは,1項で「医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産師,弁護士,弁護人,公証人またはこれらの職にあった者」,2項で「宗教,祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者」の業務上の秘密の漏示を禁止しています。では,ここに規定がない「看護師」には何の制約もないのかというと,そういうわけではなく,「保健師助産師看護師法」という法律で次のように規定されています。

保健師助産師看護師法第四十二条の二 
保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする。

このように,広く規定する法律が存在し,それでカバーされていない範囲を個別法で補うということもよく見られます。

このような法の関係を知っていると,一見丸暗記に思える法学以外の国家試験に出る法律の規定も少しは理解しやすくなるのではないでしょうか。

4 その1の終わりに・次回予告

このnote記事では,法学入門のような内容を書きました。趣旨・目的から考える(新しい法律だと,大体1条がその法律自体の目的規定に,2条が定義規定になっていたりします。)という発想のような法学の基礎的な考え方を知っておくことは,法学を本格的に学ぶ人以外も知っておいて損はないのでしょうか。

「法学系以外の人にも知っておいてほしい法学」シリーズ,次回は,法学系以外の人が法を勉強するオススメの方法について書こうかと考えています。(その次に「知っておきたい民事法」,その次に「知っておきたい刑事法」を予定していますが,内容が変わることはあるかもしれません。)

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