Neighbor Trough
この世界の近くに、べつの世界がある
その世界は、この世界と繋がっていて
その世界のひとも、この世界で暮らさなきゃならない
この世界のひとのうち、なんにんかは必ずむこうの世界へ行く
むこうの世界へ行くと、こちらの世界へはけっして戻れない
むこうの世界にいったひとは、この世界で、ひとり、透明でとても厚くて球い壁でできた、たまの中に入ってしまう
むこうの世界のひとの入るたまの壁は、とても厚く、感触がなく温度もなく、味も匂いもなく、でも酷くくらくらするような、圧迫感がある
たまの中のむこうのひとは、厚い透明な壁を通して、この世界のひとと、お話をする
たまの壁を通じて、この世界のものを見て食べて話すことはできるけど、その壁を乗り越えることはできない
でも、この世界のひとからは、そのたまの壁は見えないし、感じられない
中にいるむこうの世界のひとは、この世界のひとからは見えることもある
こちらの世界のひとと全く同じに、見える
中にいるむこうの世界のひとは、この世界のひとからは、透明で見えず存在がわからないことも、多い
行ったら戻れないむこうの世界にいったひとの球い壁は、いつか薄くなるかもしれない
でも、決して、なくならない
常に、球い壁で出来た壁の中にいて、一生、抜けられない
うまれたときから、むこうの世界にいるひともいる
何かがあってむこうの世界にいってしまったひともたくさんいる
この世界からは、常に誰かが、むこうの世界へ渡っていく
誰にも止めることはできず、誰にも知られずに
気付かぬまま、知らぬまま、行きたくないのに、みんな行く
そして、透明な厚い球い壁の球の中に入るのだ
いつか、壁が限りなく薄く、そしてなくなるように、
いつか、たまの中の私に、こちらの世界のひとたちが気付くように、
いつか、透明で見えない私に、こちらの世界のひとたちが気付くように
今日も、むこうの世界へ人はいく
何もないたまのなかで歩き、何もないたまのなかで座り、何もないたまの中で寝て、何もないたまのなかで起きる
ひとり、ただひとりで、
たまのなかで転び、たまのなかでもがき、
たまのなかでたおれ、たまのなかで呪い、
たまのなかでさけび、たまのなかで泣き、
たまのなかではき、たまのなかで頭をぶつける
たまの中からもこの世界の喜び、楽しみ、幸せは見えるかもしれない
でも、それもたまのなかからだ
そして、この世界のひとは言う。
「あのひとどうかしたのかしら」「あなたどうかしたの」
むこうの世界のひとに対して。
今日もまた、むこうの世界へ、たくさん行く
そうと知らずにむこうへいく
この世界で生きていたつもりなのに、気がついたらむこうの世界にいる
皆さまのお心は私の気力になります。